ハレと不安と文化祭
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「おお……思ったよりも美味しい……。これは来て正解だったね」
「そりゃ良かった……。で、なんか言うことあるんじゃないのか?」
「言うこと……。あっ!ゴチになります、兄さん!」
今日一の笑顔でそう告げる姿を見て頭を抱えそうになる。そもそも成り行きとはいえ急に奢ることになったのもあり、自分の機嫌がほんの少し悪いのを感じてしまう。
「そうじゃなくて!……なんで俺を捕まえて逃げるように移動したのかって話」
「んー……勘?」
「勘って……あのなぁ」
出されている自家製ケーキを食べる手を止め、妹の鈴香は話し始めた。
「いや、ホントに!あのままだったら面倒な事になってそうだったからね!ちゃんと失礼ないように会釈してから離れたんだから問題ないでしょ?」
そのせいで面倒な事になってそうなんだがなぁ……。
そんな不安は露知らず、ケーキを完食する妹。
「ごちそうさまでした。……っと、それじゃあとは兄さんのクラスの出し物見るぐらいかな。して、何時からホールに立つおつもりで?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべながら鈴香が聞いてくる。
「どこからホール担当って話を仕入れてんだよ……」
「さっきオノちゃんに聞いといた」
抜かりない奴め……と喉元まで出かかった言葉をのみ込み、短く溜め息を吐いてから鈴香の持っていた学祭パンフの地図に指を指す。
「シフトとしてはこれから、で場所はここ。先に行くから、来るなら適当に時間潰してからにしときな」
「へーい。……よし、これで堂々と兄さんをこきつかえる……サイコーだね学園祭!」
「おーい、本音駄々漏れだぞ」
「あら?何の事かしら?」
全く……と肩をすくめ先に模擬店を後にする。
一人教室に向かう廊下で、恐らく広まってるであろう勘違いにどう対処したものかと考えを巡らせる。
単純に妹だと証言しても苦し紛れの言い訳と相手にされなさそうなのがなぁ……。まあ、あのバカの言うことをどれだけの人数が信じるか、というのもあるのだが。
教室……というかスタッフ用出入り口の前に着くと、なんとなく嫌な気配が。
すると見計らったかのようにスマホが震える。恐る恐る開いてみると小野寺からのメッセージ。
【気を付けて】
……どういう、ことだ?
首をかしげながら扉を開く。
「確保ぉー!!」
「はぁ!?」
その瞬間入口付近で待機していたのであろう数名に取り押さえられる。
「ちょっと、待て!おい離……いや話を……」
必死の抵抗も虚しく、ものの数秒で腕を縛られてしまう。
「確保完了しました!」
「いや、こりゃいったいどう言うことだ?」
「だまらっしゃい!この女の敵!」
「はぁ!?」
俺を縛り付けたクラスメイトは直ぐに後ろに下がり、眼前に柏野が仁王立ちしていた。
「まてまてまて、いったい何がどうしてこうなった?全く状況が理解できないんだが」
「しらばっくれようったってそうは行かないわ!ネタは……あがってるのよ!」
パシィンと、俺の目の前に数枚の写真が叩きつけられる。これって……。
「俺とスズの――――」
「スズですってぇ!?」
ヒステリックに柏野が叫ぶ。それに呼応するかのように他の女子たちも口々に「思わせ振りな態度を取ってたのね」や「山内くんはそういうことしないと思ってたのに……サイテー」なりいいたい放題言ってくる。
助けを求め頼りになりそうな男子に視線を送るが……くそっ!誰も目を会わせようとしねぇ!
「もう一つ聞いておかなきゃならないことあるんだけど……この子とはどれだけ続いてるのかしら?」
……続いてる?あーなるほど、これは林田のせいか!
こうなった経緯は後で問いただすとして、何が理由かわかってしまえば、誤解は解けるはず!
「オーケーオーケー。柏野達は大いに勘違いしてる。アイツは俺の――――」
妹だと口にしようとしたとき、扉が開かれる音に遮られる。
そして……
「あの、山内さんって居ますか?」
一番悪いタイミングで件の人物が登場する。これはもう、反論を聞き入れて貰えないかもしれない……。
「俺の、何かしら?山内くん?」
見上げた柏野の表情は笑顔だったが、全く笑っていなかった。
「あっ……すみません。えっと、山内さんがこれからホールに立つって聞いて来たんですけど……」
妹よ……頼むから火にガソリンを注がないでくれ……。周りからの視線がだんだんと人を射殺せるレベルにあがってきているんだ……。
「彼女さん、ごめんなさいね……もうすぐホールにたたせるから少し待って貰っても……」
「へ……?いやいやいや、彼女じゃないですよ。ねー、兄さん」
柏野の言葉を聞き、鈴香が軽い調子で否定をする。
その際、俺のことをわざとらしく兄さんと呼んだのもあってか、先ほどまで張りつめていた空気はなくなり、「妹……?」「でも、彼女って話を……」「誰だっけ、彼女って言い出したの……」と室内がざわつきはじめた。
「とりあえず、この縄をほどいて貰っても良いか?詳しい話はあっちでするから」
「えっ?……うん、そうね」
急な展開に柏野も冷静になったのか、こちらの言葉に耳を傾けてくれる。ただ、何となく釈然としていないような気もするのだが……。
「あっ、それなら私もお客さんとして待ってるね」
それだけ口にし、隣の部屋へと鈴香は消えていく。
それを皮切りに落ち着いたクラスメイトも段々と自分の作業や自由時間に戻り出し、柏野と二人、室内に取り残された。
「あー、柏野がよかったらスズ……妹と相席して待ってて貰えるか?」
このままホールの衣装に着替えてから全部説明するし、話が終わり次第接客もしちゃうからさ。とまだ呆然としている柏野に伝える。
「……え、うん。大丈夫よ。先に行ってるわね」
そうして柏野もスタッフ用の教室からホールへと移動する。
さて、どんな風に曲解されているのか……。
深いため息をつき、一連の騒動の間確認できなかったスマホをチェックする。
そういえば小野寺がこの状況を知ったかの様なメッセージを送ってきていたような……。
メッセージをチェックするとそのメッセージの下に追記するように何に注意してほしいのかが記されていた。
【気を付けて】
【スズちゃんとウッチーが付き合ってるって誤報がクラスで流れてるみたい】
【大元は多分林田だろうけど、今回はウッチーが悪いみたいな空気】
【一部の女子と男子数人が捕まえて吐かせる!って息巻いてるから交代の時危ないかも】
「……ありがたいけど、あと少しだけ早く届いてくれればなぁ」
もしかしたら縛られたりしなかったはず……とあり得たかもしれない世界を思いつつ、衣装に袖を通し、スズとの関係を説明するためにホールへ繰り出した。
.
「おお……思ったよりも美味しい……。これは来て正解だったね」
「そりゃ良かった……。で、なんか言うことあるんじゃないのか?」
「言うこと……。あっ!ゴチになります、兄さん!」
今日一の笑顔でそう告げる姿を見て頭を抱えそうになる。そもそも成り行きとはいえ急に奢ることになったのもあり、自分の機嫌がほんの少し悪いのを感じてしまう。
「そうじゃなくて!……なんで俺を捕まえて逃げるように移動したのかって話」
「んー……勘?」
「勘って……あのなぁ」
出されている自家製ケーキを食べる手を止め、妹の鈴香は話し始めた。
「いや、ホントに!あのままだったら面倒な事になってそうだったからね!ちゃんと失礼ないように会釈してから離れたんだから問題ないでしょ?」
そのせいで面倒な事になってそうなんだがなぁ……。
そんな不安は露知らず、ケーキを完食する妹。
「ごちそうさまでした。……っと、それじゃあとは兄さんのクラスの出し物見るぐらいかな。して、何時からホールに立つおつもりで?」
少し意地悪そうな笑みを浮かべながら鈴香が聞いてくる。
「どこからホール担当って話を仕入れてんだよ……」
「さっきオノちゃんに聞いといた」
抜かりない奴め……と喉元まで出かかった言葉をのみ込み、短く溜め息を吐いてから鈴香の持っていた学祭パンフの地図に指を指す。
「シフトとしてはこれから、で場所はここ。先に行くから、来るなら適当に時間潰してからにしときな」
「へーい。……よし、これで堂々と兄さんをこきつかえる……サイコーだね学園祭!」
「おーい、本音駄々漏れだぞ」
「あら?何の事かしら?」
全く……と肩をすくめ先に模擬店を後にする。
一人教室に向かう廊下で、恐らく広まってるであろう勘違いにどう対処したものかと考えを巡らせる。
単純に妹だと証言しても苦し紛れの言い訳と相手にされなさそうなのがなぁ……。まあ、あのバカの言うことをどれだけの人数が信じるか、というのもあるのだが。
教室……というかスタッフ用出入り口の前に着くと、なんとなく嫌な気配が。
すると見計らったかのようにスマホが震える。恐る恐る開いてみると小野寺からのメッセージ。
【気を付けて】
……どういう、ことだ?
首をかしげながら扉を開く。
「確保ぉー!!」
「はぁ!?」
その瞬間入口付近で待機していたのであろう数名に取り押さえられる。
「ちょっと、待て!おい離……いや話を……」
必死の抵抗も虚しく、ものの数秒で腕を縛られてしまう。
「確保完了しました!」
「いや、こりゃいったいどう言うことだ?」
「だまらっしゃい!この女の敵!」
「はぁ!?」
俺を縛り付けたクラスメイトは直ぐに後ろに下がり、眼前に柏野が仁王立ちしていた。
「まてまてまて、いったい何がどうしてこうなった?全く状況が理解できないんだが」
「しらばっくれようったってそうは行かないわ!ネタは……あがってるのよ!」
パシィンと、俺の目の前に数枚の写真が叩きつけられる。これって……。
「俺とスズの――――」
「スズですってぇ!?」
ヒステリックに柏野が叫ぶ。それに呼応するかのように他の女子たちも口々に「思わせ振りな態度を取ってたのね」や「山内くんはそういうことしないと思ってたのに……サイテー」なりいいたい放題言ってくる。
助けを求め頼りになりそうな男子に視線を送るが……くそっ!誰も目を会わせようとしねぇ!
「もう一つ聞いておかなきゃならないことあるんだけど……この子とはどれだけ続いてるのかしら?」
……続いてる?あーなるほど、これは林田のせいか!
こうなった経緯は後で問いただすとして、何が理由かわかってしまえば、誤解は解けるはず!
「オーケーオーケー。柏野達は大いに勘違いしてる。アイツは俺の――――」
妹だと口にしようとしたとき、扉が開かれる音に遮られる。
そして……
「あの、山内さんって居ますか?」
一番悪いタイミングで件の人物が登場する。これはもう、反論を聞き入れて貰えないかもしれない……。
「俺の、何かしら?山内くん?」
見上げた柏野の表情は笑顔だったが、全く笑っていなかった。
「あっ……すみません。えっと、山内さんがこれからホールに立つって聞いて来たんですけど……」
妹よ……頼むから火にガソリンを注がないでくれ……。周りからの視線がだんだんと人を射殺せるレベルにあがってきているんだ……。
「彼女さん、ごめんなさいね……もうすぐホールにたたせるから少し待って貰っても……」
「へ……?いやいやいや、彼女じゃないですよ。ねー、兄さん」
柏野の言葉を聞き、鈴香が軽い調子で否定をする。
その際、俺のことをわざとらしく兄さんと呼んだのもあってか、先ほどまで張りつめていた空気はなくなり、「妹……?」「でも、彼女って話を……」「誰だっけ、彼女って言い出したの……」と室内がざわつきはじめた。
「とりあえず、この縄をほどいて貰っても良いか?詳しい話はあっちでするから」
「えっ?……うん、そうね」
急な展開に柏野も冷静になったのか、こちらの言葉に耳を傾けてくれる。ただ、何となく釈然としていないような気もするのだが……。
「あっ、それなら私もお客さんとして待ってるね」
それだけ口にし、隣の部屋へと鈴香は消えていく。
それを皮切りに落ち着いたクラスメイトも段々と自分の作業や自由時間に戻り出し、柏野と二人、室内に取り残された。
「あー、柏野がよかったらスズ……妹と相席して待ってて貰えるか?」
このままホールの衣装に着替えてから全部説明するし、話が終わり次第接客もしちゃうからさ。とまだ呆然としている柏野に伝える。
「……え、うん。大丈夫よ。先に行ってるわね」
そうして柏野もスタッフ用の教室からホールへと移動する。
さて、どんな風に曲解されているのか……。
深いため息をつき、一連の騒動の間確認できなかったスマホをチェックする。
そういえば小野寺がこの状況を知ったかの様なメッセージを送ってきていたような……。
メッセージをチェックするとそのメッセージの下に追記するように何に注意してほしいのかが記されていた。
【気を付けて】
【スズちゃんとウッチーが付き合ってるって誤報がクラスで流れてるみたい】
【大元は多分林田だろうけど、今回はウッチーが悪いみたいな空気】
【一部の女子と男子数人が捕まえて吐かせる!って息巻いてるから交代の時危ないかも】
「……ありがたいけど、あと少しだけ早く届いてくれればなぁ」
もしかしたら縛られたりしなかったはず……とあり得たかもしれない世界を思いつつ、衣装に袖を通し、スズとの関係を説明するためにホールへ繰り出した。
.