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ハレと不安と文化祭

 そして、あっという間に一週間が経ち……。
「さーて、今日はこの間言った通り、みんなの案を出して貰うわよ!」
 再び、この教室は熱気に包まれていた。……心なしかそわそわしているように見えるクラスメイトがちらほら見える。
「まずはお手本がてら……千歳!」
「なぁ、ほんとにこれで教室の中はいるの?」
「いいから!早く入ってきなさい!」
「後生だから……後生だから、せめて心の準備を……!」
「もう十分に時間あげたでしょうが!ほら!」
 扉の外にいる千歳を柏野が室内に引っ張っりこむ。その姿を見て男子からはどよめきの、女子からは歓喜の声がもれた。
 その場でへたりこんでいるのは千歳なんだろうけど、一見したら女子そのものだった。
「特に凝らず、定番そうな女装。今回着て貰ってるのは演劇部の先輩にお願いして借りた衣装でイメージに近いものなんだけど、その辺りは決定したら詰めていく感じよ」
 まさか自分たちの案の候補と被ったのを見て少し冷や汗が出る。
 これ、もしかすると女装になるのでは?と。
「この案になった場合は、私たち女子側もある程度は男子の衣装案に融通効かせないとイーブンじゃないのだけは理解してね」
「……ちなみに野郎共、これで決定したらウィッグと軽いメイクは覚悟しろよ?……あと笑いこらえてた奴らは忘れねぇからなぁ!」
「うるさいっ!……着替えさせずにそのまま帰らせるわよ?」
「すいませんそれは本当勘弁してください」
「なら少し静かにね?」
「はい」
 柏野に気圧され縮こまる千歳を見ながら、他のペアの案はまともであることを天に祈るしかなかった。
「それじゃ、他のペアの意見も聞きたいんだけど……私たちみたいに仮で衣装持ってなきゃダメとかは無いからね?こういうの着たい、着せたい程度でも問題ないから、気軽に案出しちゃって」
 その言葉に数組のペアが手を上げ、それぞれ持ってきたであろうアイディアを出し、それを長谷が板書していく。
 ウェイター(ウェイトレス)、チャイナドレス、シンプルにエプロン、着ぐるみ、ドンキに売ってそうな衣装縛り等々……たまに林田に感化されたような意見がちらほらと出てくる。
「それじゃ最後は……宇佐見さんとウッチーのペアね」
 しばらく聞きに徹していたらいつの間にか他のクラスメイトは全員発言していたようだ。
「えっと……」
 指名されてつい立ち上がってしまう。そのせいか宇佐見からは「全部あなたが話して」と言った感じのジェスチャーをされる。
「……話し合って決まったのは、男子は和装。女子は浴衣……なんだけど、大雑把に言えば男女とも和装ってところかな」
「なるほど。……少しいい?」
 ほんの少しだけ柏野は考える素振りをしてからこちらに質問してくる。それに対して頷きだけで返す。
「そこまでじゃないと思うけど、寒さ対策とかは考えてるの?」
「一番はヒーターとか使えたら……と思ってるんだけど、ホール……教室で着る場合はストーブで室温少し高くしておければかな。宣伝で校内を回る場合は和装でうまいこと寒くない着方を模索中」
「ふむ……それじゃ、ホール、宣伝分の衣装調達に関しては?」
「自前で持ってこれればそれがいいんだろうけど、管理面で不安がありそうなんだよなぁ。
 ただ、安く買えそうな古着屋を何件かチェックしてるから、もし可能なら予算内に入れてくれると助かるんだけど」
「クラスの方から出せるかなぁ……。まぁその辺りは決まってからってところかしら。最後に……その案は和装って言ってるけど、和テイストが入っていればオッケーだったりする?」
 そう聞かれ宇佐見の方を見る。和装は彼女の案になるからこの辺りの線引きは向こうに尋ねた方が確実だろう。
「うーん……。柏野さんの和テイストがどんな案配かわからないけど、多分和装より集めやすい、アレンジしやすい格好ってなるとその方が簡単かもしれないわね」
「了解。長谷、『和装及び和テイスト』で議事録お願い」
「任された」
 板書を終え、恐らく実行委員会の会議で使う用のノートに今回の会議の結果を書き始める長谷。
「それじゃあ、お待ちかねの投票タイムね!……一人一回、大丈夫そうならすぐはじめるわよ?」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「最後に、『和装及び和テイスト』の人ー……ひーふーみー……はい、ありがと!」
 投票が終わり、それぞれの案の横辺りに得票数が書き込まれる。
 一人一回というのもあって結構バラけている印象だったが、多く票を集めたのは俺たちが出した『和装及び和テイスト』と、柏野たちの『男子は女装(女子は未定)』の二つだった。
「とりあえず票が入らなかったのもこんなのが出ましたと会議では報告するけどさ、票が入ったものも含めてどれがオッケー出るかわからないから、そこだけは理解してね。それじゃ、今日はここまで、解散!」
 そう言って柏野はHRを終わらせる。
 それを受け他のクラスメイトも各々帰りだしはじめ……。
「しかし……浴衣とは考えつかなかったなぁ。やるじゃないか、ウッチー」
「なんの事だ?」
 少なくなったタイミングでいつもの部室へ行こうかと考えていたのだが、残念なことに林田に捕まってしまった。
 それを見かねてか小野寺が嘆息混じりに俺の席の近くにやってきてくれた。
「とぼけるなって……浴衣なら特に怪しまれること無く普段より女子たちが薄着になるってことだろう?」
「俺のところの案は浴衣じゃなくて、和装な?というかお前じゃあるまいしそんな下心一切無いわ」
「……それじゃあ山内くん、先に行ってるわね」
「おう、この話が終わったらすぐ行くよ」
 待っていても仕方ないと感じたのだろうか、宇佐見は先に教室を後にする。
「そういいながらも屈んだり、ふとした瞬間に胸元が緩んで見えるのを期待してるんだろう?」
「お前いっぺん病院に連れていってやろうか?」
「本当に林田は暫く口を閉じた方がいいね。人間性疑われ……いやもう手遅れか。これ以上人としての尊厳を失う前に黙ってた方がいいと思うよ」
「そこまで言うか!?」
 小野寺からの辛辣な一言に思いの外ダメージを受けている林田。
 それを見てようやく静かになったかと溜め息をつく。
「それにしても変わったよね、宇佐見さん」
「そうか?」
 小野寺がそんな風にこちらに話を降ってくる。
「前はなんていうか、壁が凄かった気がするんだけど……いつからだろう?だいぶ丸くなったというか……」
 ……あー確かに、いつだったかすごく冷たい感じで「邪魔」って言われたような覚えがあるような……。
「それな。前の宇佐見だったら多分こういうイベントに積極的に参加するなんてイメージないよな」
 女子の話題だからか、先程のダメージから回復した林田も話に混ざってくる。
「そうだよね、ドライというか……無関心?だった気がするんだけど」
 二人の話を聞いていても秘封倶楽部での彼女の活発さや人となりを知った身としてはそうでもないと感じてしまい、曖昧な返事で返すしかなかった。
「でもなぁ、あの時ウッチーを誘うっていうのがわからないんだよ」
「そこはほら、林田と組むぐらいなら人畜無害そうなウッチーを選ぶでしょ?」
「そうかぁ……お前はどう思うよ、千歳優子ちゃん?」
「誰が優子ちゃんだ!ったく、ようやく休めると思ったのによ……」
「怒るな怒るな。さっきの格好……めっちゃ似合ってたずぅぇっ!?……おま、いきなり鳩尾はねらっちゃダメだろ……」
 着替え終わって戻ってきた千歳に絡んでいったバカは一撃で悶絶している。……本当にあの姿いじられたくないんだなぁ、と彼を下手に刺激するのは止めておこうと思う。
「で、三人で何の話してたんだ?」
「えーと、そこののたうちまわってるのとウッチーとだったらウッチーを選ぶよねっていう話だっけ?」
「衣装案のペアで俺かアイツかを選ぶなら人畜無害そうな俺になるって話だろ……って言ってて変な感じだな」
 会話に混じってきた千歳にざっといままであらましを話す。
「なるほどねぇ……確かにあっちと比較するとウッチーを選ぶよなぁ」
「だよねー。で、後は前に比べたら宇佐見さんの態度が丸くなったよね、って話ぐらいだっけ?ウッチーは見当ついてないみたいだけど……そういえばウッチー、時間平気なの?」
 小野寺に言われて時計を見る。さっと終らすはずが思ったより長引いてしまっている。
「あんまり待たせ過ぎるのも良くないしな、悪い。俺行くわ」
「おう、じゃあな」
「衣装案ウッチー達のに決まるといいね」
 千歳と小野寺に見送られ教室を出る。
「機嫌悪くなきゃいいけど……」
 むくれた顔をしている宇佐見が脳裏をよぎり、ほんの少し早足でいつもの部屋へ向かった。

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