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ハレと不安と文化祭

「……」
 箇条書きになるが、四つほど衣装案を書き出したところで手が止まる。あと一つ、何かないかと唸っていると、向かいに座っている宇佐見のスマホからアラームがなる。
「はい、しゅーりょー」
「いつの間にセットしてたんだ……?」
「いーからいーから。それじゃお互いの案を見せ会いましょ?」
 そういうと宇佐見はこちらの切れ端と自分の切れ端を交換し、内容を確認しだした。
「……へー。なるほどなるほど。まあ、案だしね。なにもないって書かれるよりは良かったけど……」
「けど、なんだよ」
「やっぱりあれとつるんでるからかしら?いの一番にメイド服、って書かれちゃうと、ねぇ?」
 それはあのバカがうるさかったせいで頭のなかに刷り込まれたというか……。と反論しようとしたが、薮蛇になりそうな気もしたからぐっと飲み込んだ。
「まぁ、なんというか……折角の文化祭だし普段見れない格好が見たかったというか……」
 苦し紛れの言い訳に聞こえるかもしれないが、これは事実である。年に一度のイベントなんだからちょっとくらい羽目をはずしたい。……あいつ程ではないが、そう思っている。
「……ウチのクラスの女子ってみんな可愛いもんねー。その下に書いてるチャイナドレスやウェイトレス姿も見てみたいんだ。へー」
「いや、その二つはメイド服から連想しただけでな……一番似合うのは最後のだと思うんだ」
「最後の……あー、そうね。浴衣なら似合うし調達も簡単かな……。でも寒くない?」
「それなんだよなぁ、いくら室内とはいえ10月末じゃ寒いだろうし、そこだけどうにかしないと……」
 書き出した時に思った問題点を口にしながら宇佐見の案をチェックする。
・和装
・執事服
・白衣
・女装
 ……なるほどなるほど。
「最後の一つ以外は普通というか……定番?いや、そうでもないか」
「コスプレって言われてさくさく思い付く方がおかしいのよ」
 そういってこちらから案を書いた紙をスッと奪い取り、いつもの位置に腰かけ、頬杖をつきながらそれぞれの案を出した理由を話し出した。
「和装なら反感買わないでしょうし、そういう格好が好きな人の票も集まりやすそうじゃない?
 執事服は……仮にまだメイド服って主張してくるようならそのカウンターに。白衣はまあ、安価に数揃えられるでしょ?」
「その辺りなら寒さ対策もとろうと思えばこっちの浴衣と合わせて考えられそうだな」
「あら?他の三つは考えなくて良いの?」
「そっちの最後の案を真面目に考えるのならこっちも考えるぐらいだよ」
「……一番手軽でウケ狙えるのはこれくらいなんだけどねぇ」
「誰にウケを狙ってるんだよ……」
「んー、家族?」
 やめてくれ。
 大きくため息をつき、改めてお互いの案に目を通す。無難で問題点もはっきりしている和装、浴衣に絞るのが得策かなぁ。と溢すと宇佐見も「お互いに批判も少なそうなのが良いものね」とその日の内に案自体は纏まってしまった。
「じゃあ、あと考えるべきは寒さ対策ぐらい?」
「そういう対策とは違うけど、ホールの衣装と呼び込みで少し差をつけたり、柄物にするか無地にするか……デザインで凝ろうと思えば色々出来そうだな、この二つって」
「確かに……」
 顎に手を当て、小声でぶつぶつと何かを言い始める宇佐見。
「和装……和装ね……うん、小鈴ちゃんみたいなのもありかな……浴衣も近いから、皆に相談とか」
「他の学校の友達がこういう衣装詳しいのか?」
「へ?あれ……口にでてた?」
「ちょっとだけな」
 しまった……というような顔をし、宇佐見もため息をつく。
「えっと、詳しいと思うわよ。……だから、問題点や凝りたいところをまとめて貰えるかな?そうすればアドバイス聞きに行っちゃうから」
「それは構わないけど……なんか手伝えることとかはないのか?このままだと案出し以外はほぼ宇佐見に丸投げしている状態だし……」
「適材適所ってやつよ。気にしないの」
 これくらい当然とばかりに言い切る宇佐見。
 そういわれてもなぁ……と思いつつも言い返せず唸っていると、
「……それでも気になるなら、浴衣とか取り扱ってそうな古着屋を幾つか探しといてよ。仮にこの案に決まってから探しはじめて用意しきれない……なーんてことになったら目も当てられないからね」
 そう提案された。
 確かに、今の自分にはそれくらいしかできないもんな。と納得して頷く。
「文化祭が近くなれば嫌でも忙しくなるだろうし、アイディア自体は纏まってるから来週までは活動を休みながら、衣装案のブラッシュアップってところかしら」
「了解、とりあえず放課後はここに来ればいい感じか?」
「そうねぇ……。秘封倶楽部(この活動)自体は知ってる人は知ってるのよね……、入学当初は人を避ける目的で作ったんだけど、同学年で興味本意で入ろうとする人もいたし……。
 それは置いといてもこの部屋だって本来立ち入り禁止なわけじゃない?それを許可なく使ってるわけだからさ、教師に見られたりすると厄介でしょ?色々と。
 そんなわけだから放課後は教室か図書室でいいんじゃない?」
「まあ、そのあたりが無難だよなあ」
 今週……あと四日のうちのどこかで俺も古着屋を探しに行くわけだから、こんな感じのミーティングは一、二回できるかどうかか。
「で、今日はどうする?もう帰る?」
「さっきのHRでどっと疲れてるから出来れば少しゆっくりさせてくれ……」
「そういうと思った。はい」
 宇佐見は鞄から菓子の箱を取り出しそのままこちらに差し出した。
「……ありがたいんだけど、貰っていいのか?」
「一人で全部食べないでね?……私だって色々と疲れてるんだから。シェアよ、シェア」
「そういうことか。それじゃ今度なんか買っておくよ」
 差し出された箱から個包装されているものを一つ取ったところで、宇佐見は自分の分を取り、残りの箱を机の上に置いた。
「そこまでしなくていいんだけど……まぁ期待しちゃおうかな?それで、何時に帰るの?」
「んー……特に遅くても問題ないし、今日はそっちにあわせるわ」
「オッケー……今日ちょっと眠気がすごいから、もし先に帰りたかったら勝手に帰っていいからね?」
 口元を手で隠しながら小さく欠伸をし、彼女はそのまま机に突っ伏す。
 すると数分もしないうちに規則正しい寝息が聞こえてきた。
「……のび太くんかお前は」
 別に世間話に花を咲かせたかったわけでもなく、衣装案の話し合いでもう少し時間がかかると踏んでいたのだが……。思ったよりトントン拍子に話はまとまってしまった。
 普段ならさっさと帰るところなんだが、仮にあのバカに見つかったら一悶着ありそうで……という事もあり、今はこの部屋に避難しているという心持ちなのだ。
「まあ、最終下校時間まで待てば会わないはず……」
 むしろあのあと逃げ出して早々に帰っている可能性も高いのだが、用心するに越したことはない。
「……」
 宇佐見の寝息をBGMに個包装されたチョコの袋をあけ口に運ぶ。
「昼寝の邪魔にだけはならないようにおとなしくしてるか」
 やっぱり甘いものがお返しに丁度いいのか?とぼんやり考えながら日が傾きだした空を眺めていた。

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