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ハレと不安と文化祭

「それじゃあ、よろしくね桜井さん」
「うん、よろしく……っ!」
 案の定、さっさと小野寺は相手を見つけている。そして、それを見て林田が慌て出すのはこれまでの学校生活で嫌というほど見てきた流れだ。
 恐らく、このバカがいる関係で他の男子はペアを組みやすかったのだろう。が、そんなことを言うとより騒ぎ立てそうだから心の内に閉まっておく。
「あいつ、抜け駆けしやがって……いや、だが焦る必要はない、なぜなら男女ペアなんだからな!」
「そうは言うが、このクラス男子が二人多いからどうしても一つのペアだけ男子同士になるだろ?」
 絶句、という表情をこちらに見せた林田だったが意を決したかのように手当たり次第声をかけ始めた。
「俺と」
「もう決まっちゃったから」
「俺」
「ゴメン」
「お」
「無理」
「どうしてだ……」
 勢い良く挑んだものの三連続で断られ続け膝から崩れ落ちる林田。
 その姿を見て、ついきつい言葉がでてしまう。
「お前、一回日頃の行いを振り替えってこい」
「いや、まだだ!まだ可能性は残ってる!」
 このメンタルお化けはなぜ自分なら大丈夫と思い続けられるのだろうか?
「そんなわけだから、宇佐見。俺と組まないか?」
 林田が口にした名前に耳を疑う。誘っているバカの方を見ると宇佐見は確かに自分の席から離れてこちらにやってきていたみたいだ。
 だが当の本人は林田をスルーし、こちらに向き直ると
「ウッチ……じゃなかった。えと山内くん、良かったらペア、組んでみない?」
 宇佐見がそう言うと一部のクラスの視線が集まったような気がしたが、すぐに先程までの騒がしい室内に戻る。
 だがしかし、彼女に誘われて気が付いたのが、早くに相手を探さないとスルーされたバカとペアを組むことになりそうということだった。
「お、おう。こちらこそよろしく頼む」
「ありがと、……山内くん」
 無事にペアも決まり胸を撫で下ろしていると、怨みがましい声が宇佐見の後ろから投げ掛けられた。
「山内慎太郎ォ……貴様まで俺を裏切るというのかぁ……!」
「裏切るもなにもお前の状況は日頃の行いの結果だろうに……」
「シャラップ!正論は聞き飽きたんだ。文化祭ぐらい俺にだってこう、甘いイベントあってもいいだろうがよぉ!」
「そう言うところがいけないってんだよ!!」
「バ……林田」
 ウザ絡みしてくる林田に辟易していると、残された実行委員の長谷が彼の側で苦い顔をしながら立っていた。
「お前を放っておくと後に響きそうだからな。申し訳ないが俺とペアを組んでもらう」
「い、いやだ!俺は女子とペアを」
「安全に文化祭を進めるためだ、許せ。そして嫌々ながらもお前と組む俺に詫びろ」
 延々とごねる林田の首根っこを掴みながら教室の外へと消えていく長谷。
「離せ!俺はもっと……もっと、青春をエンジョイしたいんだぁぁぁぁあぁあーーーーーーーーー」
 断末魔ともとれる叫びが廊下から聞こえなくなったところで宇佐見へと視線を移す。
「それで、どうするよ?」
「とりあえず、移動しよっか。出来れば早くアイディア固めたいし」
「そうだな。じゃあ部しーー」
「図書室とかで資料探しながらにしましょ!
 言い出しっぺだからしっかり考えなきゃ柏野さんに失礼だもんね!」
 秘封倶楽部の部室に行こうと提案しかけたところで、それを遮るように宇佐見が声を上げる。
 そしてそのまま引き摺られるように教室の外へ出た。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「……これくらい離れればいいかな?……あのねぇ、一応私たち同じ部活に在籍してないんだからさ急に『部室』なんて言ったらダメでしょ!」
 少し進み教室から幾らか離れた辺りでそう宇佐見は口にした。
「あっ……」
 言われてみれば……。あの活動は顧問がいるわけでもなく、この学校での部活動としての体裁も保ててない、部屋だって勝手に借りている状態……ギリギリ同好会と呼べるかどうかのグループなのだ。
「ごめん。さっきは普段の調子で話してたから、つい……」
「次からは気をつけてね?……というか、来週までは特に探索とかしないで、あの部屋で考えましょ。さっきも言ったけど曲がりなりにも言い出しっぺなのは本当だし……」
 と、少しだけ自嘲気味に吐き捨てる宇佐見。
「まあ、なんだ。しっかり考えるからそれだけは安心してくれ」
「……あの五月蝿いのみたいに変な意見出したら一発叩くからね?」
 その言葉は冗談でなく本気だというのは彼女の目が物語っていた。




 図書室……ではなく、秘封倶楽部の部室に腰を据えて、二人で早速衣装案を制作する。
「それじゃ、まずは……純粋にお互いに着てみて欲しい格好でも書き出そっか?……これで決める訳じゃないし何個かをこの紙に書いてからお互いに見せ会うってことで」
「了解。……先に聞くけど、これNGってあったりするのか?」
「うーんとね……ここはなんでもありかな。アイディア出したいときに制限つけちゃうと全然でてこない時あるから。あっ、でもふざけすぎるのはダメだからね!」
 そう言って一枚、ノートのページを切り取った物を渡してくる。
「時間かけすぎても良いアイディアでないだろうし……そうね、三分経ったら見せ会いましょっか。
 それじゃあ……はじめ!」
 廊下での意気消沈した態度はどこへやら。思ったよりノリノリで衣装案を考え出す宇佐見。
「ボーッとしてるとあっという間に三分過ぎちゃうわよ?」
 少し呆気にとられていると彼女からそんな言葉を投げられる。
 慌てて鞄の中から筆記用具を取り出し、渡された紙へ思い付いたものを書き出していく。
 少しの間、珍しく室内にシャーペンの音が響いていた。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
宇佐見菫子の手記
20xx/08/31
 夏休みも今日でおしまい。期末試験もすぐだし、これでしばらくは幻想郷には入り浸れないなぁ。
 まあ、勉強面は問題ないんだけどね。
 ……この間カセンちゃんに言われた事、ちょっとだけ頑張ってみようかな。

20xx/09/08
 来週は期末試験……一応、学生として机に向かうポーズはとっておかなきゃ。
 まあ、余裕なんですけどね。

20xx/09/14
 期末も終わってそろそろ衣替え……といっても10月からだからもうちょっと先かな。
 まだ暑さは残ってるからこんな時期から冬服着たくないのよねぇ……。
 試験期間終わったから明日からやっと活動再開、夏休み前以来かな?
 あっ、向こうにも顔ださないと……

20xx/09/15
 久しぶりの活動……だったんだけど、不思議探索はせず。
 この間の一件のことまた聞かれるんじゃないかと内心おっかなびっくりだったけど、そんなこともなく、次のイベントは文化祭だっていう話を少ししたくらいだ。
 文化祭ねぇ……ほとんど興味ないんだけど、カセンちゃんの言う『自分の居場所』を作るために真面目に参加してみようかな?

20xx/09/24
 明日は文化祭の出し物決めの日。この辺りの事詳しそうなサナエちゃんに話してみると
「いいなー文化祭!あの独特な空気の学校がたまらないんですよー!菫子さんは参加……しますよね、当事者なんだし!」
「まあね……。でも普段はそこまでクラスの輪に入ってる訳じゃないから少し不安でもあるのよね……」
「そうですか?文化祭っていわゆるお祭りなんですから、そういうときくらい羽目をはずしても問題ないと思いますけど」
「そう言ってもね……普段絡まない人がいきなり絡んでも鬱陶しいだけじゃないかな?」
「お祭りなんですし、ノーカンです!」
「そんなものかなぁ?」
「そういうハレの日は多少強引でも問題ないですよ!ね、霊夢さん?」
「んー……そうねぇ。早苗がいってる通り、お祭り自体がハレ……非日常だったり特別な事だから普段と違う振る舞いをする事は変じゃないと思うわよ。
 あんた達の言う『ブンカサイ』がどういうお祭りなのか知らないからはっきりと言いきれないけど」
 ハレの日かぁ……。まあ確かに普段の学校生活からすればこの二日間の文化祭は間違いなくハレなんだろう。
 それでもなぁ……とちょっと困っているとレイムっちはこう言ってきた。
「まあ、どんな祭事にも言えることだけど、そういうのって楽しんだもん勝ちよ。折角のハレの日なんだからいつも通りのケを過ごしてちゃ勿体ないわ」
と。
 そうだねと、笑って返したところで目が覚める。
 ちょっとだけ、歩み寄ってみようかな。折角の文化祭なんだし……!

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