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宇佐見菫子の困惑

「……ごちそうさま」
 アイスを食べ終えた宇佐見は、顔こそこちらに向けなかったが、俺には聞こえる程度の声量でそう口にした。
「……それで、元気でたか?」
「あー、そうね……さっきよりも気は楽になったかな?」
 たぶん良くなってる、うん。と彼女は自らに言い聞かせるように呟いている。
「というか、食べ終わってから言うのもアレだけど、これ高いやつよね?お金払わなくて本当に大丈夫?」
 確かに、普段買っている物に比べれば三倍くらいするものだ。この後追加で購入することも考えると……可能ならば代金を出してほしいと言うのが本心だ。が、
「あのなぁ……落ち込んでた相手から金を取る程さもしい人間じゃないからな。それでも、宇佐見が納得出来ないなら、ほら……あれだ。今更になるけど、活動に誘ってくれた事へのお礼ってことで」
「そ、そういう事ならありがたくいただくわね。って頂いた後なんだけど……」
「別にアイスの一個くらい友人同士なら良くあることだと思うんだがなぁ」
「友じ……いや、それはそうかもだけどさ、いきなりこれはやりすぎでしょ!?」
 一瞬言葉に詰まったように見えたが、その直後に部活動中のいつもの彼女の調子に戻っていた。
 その様子を見てつい吹き出してしまう。
「なによ、何がおかしいの?」
「やっぱり、宇佐見はそうじゃないとな、うん」
 軽く笑い、普段通りの調子に戻った会長を見て良かったと一人頷く。
「一人で勝手に納得するなー!」
 それがお気に召さなかったのかいつも通りの会長は、それこそ同年代の女子らしいリアクションを取っている。
 その姿は学校の教室で授業中に見せる凛とした姿や、部室でオカルトの話をするときに見せる溌剌とした姿に比べると、どこか妹と重なるところもあり、可愛らしく見えた。
「あーもう……とりあえず、私謝りに行かないとだからさ、またね」
「おう、また……じゃなかった。あと少しだけ時間あるか?」
 一つだけ聞きそびれた事があったのを思いだし、喧嘩をした友人の元へ向かうために公園の出口へと向かおうとする宇佐見を引き止めていた。
「……別に構わないけど、手短におねがいね」
「それじゃ簡潔に。連絡先交換しないか?」
「……へ?」
「本当なら秘封倶楽部に入ってすぐに聞いておくべきだったんだろうけど、何だかんだあって忘れてたなって思ってさ」
「……」
「って、あれ?おーい、宇佐見ー聞こえてるかー?」
「……あっ、うん。聞こえてる聞こえてる。あまりにも唐突すぎる提案でちょっと何がなんだかわからなくなっちゃって……。それで、連絡先ね。オッケーオッケー」
 そう言うと素早くスマホを取り出し、サクサクと画面を進めていく。
「どうする、ラインのID教える?それともメアド?」
「どっちでも……いや、メアドよりはIDの方がいいな」
「そりゃそうよねー。一番お手軽だし……あったあった。それじゃあ、はい。読み込んだらなんか適当に送っといて」
 いわれた通りに画面に表示されてるQRコードを読み取り、出てきた相手を友人に追加する。
「サンキュ。それじゃ後でなんか適当にスタンプ投げとくわ」
「うん、よろしくー。それじゃ今度こそ、またね」
「おお、またな」
 普段通りの調子の会長を見送り、自分も帰ろうと公園を出た所で思い出す。
「……鈴香のアイスはちゃんと買ってかなきゃな」
 頼まれた味は数軒回ったが売り切れていたという事にして、近くのコンビニで残っていたフレーバー……バニラと抹茶の二つを購入し、溶け出す前に家に辿り着くようすこしだけ早く足を動かす。
 妹の機嫌が良くなっていると信じて。

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