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宇佐見菫子の困惑

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「あーつーいー!」
 夏の昼下がり、リビングで妹の鈴香が怨めしそうに声をあげていた。
「夏なんだしそういっても仕方ないだろ?
 というか勉強はいいのか、受験生」
「休憩中ですー!」
 そう言うとぐたーっとソファーに寝転んでしまった。
「あんまり強くは言わないけど、しっかりやるんだぞ?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ちゃーんとやってますー」
 本当に大丈夫なんだろうか……?
「というかさぁ、小言言うために来たの?」
「違うって。冷たいものを補給しにだな……」
 妹からの刺々しい視線を背中に受けつつも、冷凍庫の中からアイスを探しだしその場で封を開け口に運ぶ。
「あーーーー!私のアイスーーーー!」
 口に入ったのと同時くらいに、先程までの気だるげな空気を吹き飛ばすかのような音量で鈴香が声を上げた。
「ん!?
 っと、急に大きな声を出すな!危うく落とすところだったぞ!」
「大きな声も出すよ!せっかく勉強の後に食べようと思っていたアイスを慎にいが食べたんだから!」
 こちらが咥えているものを指差し、涙混じりに訴える妹。
 それなら名前でもーーと口を開けようとしたところ、視界の端にある開封したパッケージに「すずかの!」とマジックで書かれていることに気がついた。
 うん、これは全面的に俺が悪い。
「あー。その、ごめん。兄ちゃんが悪かった」
「……」
「今から代わりの買ってくるからさ」
「……ダッツいっこ」
 ここぞとばかりに高いものを要求してくる妹。高い、という言葉をぐっと飲み込んで、「……味はどうする?」とむくれている妹にたずねる。
「……キャラメルのやつ」
「了解。じゃあ、いってきます」


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「ありがとうございましたー」
 三軒コンビニを梯子し、やっとの思いで鈴香ご所望のアイスを買うことができた。
「……これから歩きで三軒も梯子するのは夕方にしよう」
 多少は日が傾いたとは言え、未だに暑い時間帯である。
 一軒毎に店内で涼んでから次の店へと動いたから既に三十分は経ってしまった。
「……まあ、少し時間があけば鈴香も冷静になってくれてる……はず。うん」
 今しがた出てきたコンビニの袋から、二本目のアイスを取り出す。一日で二本も食べるなんて……と思うかもしれないが、この暑さではコンビニの氷菓が魅力的に映ってしまうのは仕方ないことだろう?
 ということで妹の分と別に一つ、歩き食いのアイスを買って帰路についていた。
 行きと違い、コンビニを経由せずに家まで近い道で帰ることができると思うと、少しだけこの暑さも耐えられるような気がする。……気がするだけで、暑いのには変わらない。
 日差しから逃げるように木陰の道を選んで歩いていると、少し広めの公園にたどり着いた。
「懐かしいな……」
 小学校ぐらいまではよくここで遊んでたっけ?
 随分と足を運んでいなかったため、この景色さえ懐かしく感じ、ついつい公園の入り口の方に進んでしまう。
 今じゃ誰にも使われないかと思っていたが、驚いた事に同年代くらいの先客がいた。
 遊んでいるわけではなく、少し錆び付いたブランコに俯きながら座っている。
「あれ、もしかして宇佐見?」
 私服だし人違いかもしれなかったが、被っている帽子に見覚えがあり、そう声をかけていた。
「……ウッチー……」
 どうやら宇佐見本人だったようだ。
 ゆっくりと顔を上げた彼女は、遠目からだが普段と違いどことなく元気がないように見える。
「こんなところで会うなんて奇遇だな。もしかして一人で活動してたとか?」
「……んー、まぁそんなとこ」
 公園の入り口から声を上げて話すのもなんなので、隣のブランコに座りながら話を続ける。
「それにしては元気がなさそうだけど……何かあった?」
 そう尋ねると、一度こちらに顔を向けため息をひとつ溢したあとにゆっくりと話し始めた。
「その、前に話した友達となんだけど……何て言うか口喧嘩しちゃってね。それでちょっと反省中というか……ってなによ、その顔は」
「いや、宇佐見の口から反省なんて単語が出るなんて思ってなかったから純粋に驚いてな」
「そりゃ私だって反省することくらいあるわよ!……たまにだけど」
 いい終えるとまた視線を落とし、力なく座っているブランコを揺らし始める。
「……どうすればいいかな?」
 普段とは違い、自信がなさそうに宇佐見はこちらに尋ねてきた。
「ひとまずは、気分転換かな」
 先程買ったものをそのまま宇佐見に差し出す。
 中身をみて戸惑っていたが気にするなと食べることを促す。
 ……鈴香には悪いが、お詫びに他の味を二つほど買って謝り倒そう。
「おいし……」
「なんか悩んでたり落ち込んでるときは美味しいもの食べてリフレッシュすればいいんだよ。
 頭の中が良くないことで一杯だとなに考えても悪い方向にしかいかないからさ、そこに美味しいってプラスな感情が入ればちょっとずつでもいい考えとか方法が浮かぶんだ。
 ……って母さんの受け売りなんだけどな」
「……素敵なお母さんね。
 その……えっと、ありがと、ウッチー」
 こちらを向き、少し照れくさそうに微笑む宇佐見。
 素直に礼を言われると思っていなかったからこちらも照れくさくなり、「お、おう」と答えついつい視線を外してしまう。ただ、一瞬チラリと見えたその表情に、先程までの悩みはないのだろう。

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