宇佐見菫子の困惑
それから少しして、こちらでカセンちゃんと会う日になった。
「お待たせ、菫子」
いつもの道着ではなく、こちらに居てもさほど気にならない……いわゆる現代風な装いで彼女は待ち合わせ場所に現れた。
「おぉ……」
「ど、どうしたの?そんなまじまじと見て。やっぱり似合ってないのかしら?」
「逆よ逆。とっても似合ってる!これ、霖之助さんのとこの?」
「ええ、こっちの流行り……とはいえないけど、一番外の世界らしい服を取り扱ってるのってあそこぐらいでしょ?」
言われて幻想郷にいる一般の方々の装いを思い出す。……確かに、洋服というよりは和服、和装の類いになってしまいそうだ。
「あっ、思ったより生地薄い……ほんとあのお店ってなんでもあるわね」
「袖が短めのもあったけど、こっちに来るなら長いほうが好都合だし」
この手じゃ目立っちゃうしね。と包帯に覆われている腕を見て笑いながら答えるカセンちゃん。
確かに、彼女の右腕はそのまま晒していたらすれ違う人は二度見くらいするだろう。
「それで、相談って?」
「実は……」
今悩んでいる事、どうすればいいかわからない事、そしてその不安と恐怖心に押し潰されそうな事をカセンちゃんに打ち明ける。
「なるほど……」
「カセンちゃんはどう思う?その、秘密を打ち明けちゃう事とか」
「そうね……誰にも喋らないって約束出来そうな相手なら話してもいいかもしれないけど……」
「けど?」
「当たり前だけど幻想郷のことは口外無用よ。それはお忘れなく」
「大丈夫。それだけは間違えないわ」
「ならいいのだけど……。でも一番不安なのは能力の喪失でしょ?」
「……まあ、ね。やっぱりカセンちゃんもこっちの人に知られたらなくなっちゃうと思う?」
「前例がないから絶対にとはいえないけど……可能性はありそうよね」
カセンちゃんもマミさんとおなじ考えのようで小さなため息が出てしまう。
「早苗みたいに神様達と幻想郷に来るなんて荒業はできないから、仮にその能力が公になったらあっちに移るという手段をとる以前に貴女が一般人同様、なんの能力も持たない学生になるだけだと思うけど……」
もしもそうなったら……考えただけで恐ろしい。
この能力は、超能力は私のアイデンティティそのものなのだ。失くなったら……特別じゃない私はいったい何者なんだろうか。
「でも、友人をこっちで作るっていう事はとても良いことだと思うのよ」
「……うん。それは最近ちょっとだけ解るようになってきたわ」
今までは家と学校の往復、帰宅すれば直ぐにベットに入り幻想郷へ……。
そんな日々も悪くはなかったんだけど、最近はなんだかんだで新しい秘封倶楽部の活動が、ほんの少しだけ楽しくなっているのも事実なのだ。
「それはよかった……。
私はね、菫子には普通の生活を送って欲しいと思ってるの。今みたいに常に起きているような状態のままだと、とても不安定だと思うから」
「……えっ?」
一瞬なにを言われたのかわからなかった。
彼女が発した言葉の意味を理解することを拒んでいる。
「……菫子?」
「……普通って、何?
私にとって向こうに行くこと自体、既に普通の事なのに……
もう幻想郷に来るなってこと?」
「……なにも今すぐにって話じゃないわ。将来的に、いつかは現実と向き合う必要もあるだろうし……」
「それはっ!……そう、だけど」
夢はいつか覚める。それは当たり前の事。
でもそれは私にとって、幻想郷の皆との別れでもあって……。
そんな考えが頭によぎったのと、自分が泣いているのに気がついたのは同時だった。
「っ……!」
「あっ、ちょっと!菫子!?」
恥ずかしさや情けなさ、不甲斐なさ。色んな嫌な感情がぐちゃぐちゃになって、これ以上カセンちゃんといるのが辛くて、私は逃げ出してしまった。
いまはとにかく、一人になりたい……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どこをどう走ったかは覚えてない。
とにかくあの場から離れたい一心で足を動かし、気がつけば見知らぬ公園にたどり着いていた。
まだ明るい時間というのにも関わらず、私以外の人の姿はない。
あまりの静かさに、まるで世界から取り残されたのではないかとだんだん不安になってくる。
カセンちゃんは相談に乗ってくれたのに、あれは……言い過ぎちゃったなぁ。心配しての言葉だというのはわかってるんだけど……。
ギィ……ギィ……と、自分の心の中の葛藤を写し出したかのように、座っているブランコが錆で軋む音がする。
「……なんて謝ろうかな」
まださっきの場所にいるだろうか、愛想をつかして帰ってしまっただろうか……。
考えは纏まらず、思考は堂々巡りでそんな不安を煽るかのように軋む音が耳からはなれない。
だいぶ考え込んだあと、ふと『もう幻想郷に行くことが出来なくなったら?』という、嫌な考えが生まれてしまう。
そんなことは起こりえない。だって私が夢見る世界が幻想郷なのだから。
けど、万が一にもそんなことが起こってしまったら?もう一度、同じことをしても幻想郷には入れないだろう。あれほどまで大きな騒ぎを起こしているのだ。たぶんレイムっちもユカリさんも対策を施しているはず。
つまり、今の私が幻想郷に拒絶されてしまったら……もう二度とあの世界には戻れない。
謝りにいかなきゃと思うものの、それで彼女に拒絶されたらと考えると、普段なら動く足がちっとも動かない。それどころか不安に押し潰されそうで立ち上がることすらできない。
情けなさで涙が溢れてくる。私ってこんなに弱かったっけ……。
マイナス思考の連鎖に入りかける寸前、
「あれ、もしかして宇佐見?」
と公園の入り口の方から声がした。
ゆっくりと顔をあげ、声のした方を向くと、現実での友人が少し不安げな表情でこちらを見ていた。
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「お待たせ、菫子」
いつもの道着ではなく、こちらに居てもさほど気にならない……いわゆる現代風な装いで彼女は待ち合わせ場所に現れた。
「おぉ……」
「ど、どうしたの?そんなまじまじと見て。やっぱり似合ってないのかしら?」
「逆よ逆。とっても似合ってる!これ、霖之助さんのとこの?」
「ええ、こっちの流行り……とはいえないけど、一番外の世界らしい服を取り扱ってるのってあそこぐらいでしょ?」
言われて幻想郷にいる一般の方々の装いを思い出す。……確かに、洋服というよりは和服、和装の類いになってしまいそうだ。
「あっ、思ったより生地薄い……ほんとあのお店ってなんでもあるわね」
「袖が短めのもあったけど、こっちに来るなら長いほうが好都合だし」
この手じゃ目立っちゃうしね。と包帯に覆われている腕を見て笑いながら答えるカセンちゃん。
確かに、彼女の右腕はそのまま晒していたらすれ違う人は二度見くらいするだろう。
「それで、相談って?」
「実は……」
今悩んでいる事、どうすればいいかわからない事、そしてその不安と恐怖心に押し潰されそうな事をカセンちゃんに打ち明ける。
「なるほど……」
「カセンちゃんはどう思う?その、秘密を打ち明けちゃう事とか」
「そうね……誰にも喋らないって約束出来そうな相手なら話してもいいかもしれないけど……」
「けど?」
「当たり前だけど幻想郷のことは口外無用よ。それはお忘れなく」
「大丈夫。それだけは間違えないわ」
「ならいいのだけど……。でも一番不安なのは能力の喪失でしょ?」
「……まあ、ね。やっぱりカセンちゃんもこっちの人に知られたらなくなっちゃうと思う?」
「前例がないから絶対にとはいえないけど……可能性はありそうよね」
カセンちゃんもマミさんとおなじ考えのようで小さなため息が出てしまう。
「早苗みたいに神様達と幻想郷に来るなんて荒業はできないから、仮にその能力が公になったらあっちに移るという手段をとる以前に貴女が一般人同様、なんの能力も持たない学生になるだけだと思うけど……」
もしもそうなったら……考えただけで恐ろしい。
この能力は、超能力は私のアイデンティティそのものなのだ。失くなったら……特別じゃない私はいったい何者なんだろうか。
「でも、友人をこっちで作るっていう事はとても良いことだと思うのよ」
「……うん。それは最近ちょっとだけ解るようになってきたわ」
今までは家と学校の往復、帰宅すれば直ぐにベットに入り幻想郷へ……。
そんな日々も悪くはなかったんだけど、最近はなんだかんだで新しい秘封倶楽部の活動が、ほんの少しだけ楽しくなっているのも事実なのだ。
「それはよかった……。
私はね、菫子には普通の生活を送って欲しいと思ってるの。今みたいに常に起きているような状態のままだと、とても不安定だと思うから」
「……えっ?」
一瞬なにを言われたのかわからなかった。
彼女が発した言葉の意味を理解することを拒んでいる。
「……菫子?」
「……普通って、何?
私にとって向こうに行くこと自体、既に普通の事なのに……
もう幻想郷に来るなってこと?」
「……なにも今すぐにって話じゃないわ。将来的に、いつかは現実と向き合う必要もあるだろうし……」
「それはっ!……そう、だけど」
夢はいつか覚める。それは当たり前の事。
でもそれは私にとって、幻想郷の皆との別れでもあって……。
そんな考えが頭によぎったのと、自分が泣いているのに気がついたのは同時だった。
「っ……!」
「あっ、ちょっと!菫子!?」
恥ずかしさや情けなさ、不甲斐なさ。色んな嫌な感情がぐちゃぐちゃになって、これ以上カセンちゃんといるのが辛くて、私は逃げ出してしまった。
いまはとにかく、一人になりたい……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
どこをどう走ったかは覚えてない。
とにかくあの場から離れたい一心で足を動かし、気がつけば見知らぬ公園にたどり着いていた。
まだ明るい時間というのにも関わらず、私以外の人の姿はない。
あまりの静かさに、まるで世界から取り残されたのではないかとだんだん不安になってくる。
カセンちゃんは相談に乗ってくれたのに、あれは……言い過ぎちゃったなぁ。心配しての言葉だというのはわかってるんだけど……。
ギィ……ギィ……と、自分の心の中の葛藤を写し出したかのように、座っているブランコが錆で軋む音がする。
「……なんて謝ろうかな」
まださっきの場所にいるだろうか、愛想をつかして帰ってしまっただろうか……。
考えは纏まらず、思考は堂々巡りでそんな不安を煽るかのように軋む音が耳からはなれない。
だいぶ考え込んだあと、ふと『もう幻想郷に行くことが出来なくなったら?』という、嫌な考えが生まれてしまう。
そんなことは起こりえない。だって私が夢見る世界が幻想郷なのだから。
けど、万が一にもそんなことが起こってしまったら?もう一度、同じことをしても幻想郷には入れないだろう。あれほどまで大きな騒ぎを起こしているのだ。たぶんレイムっちもユカリさんも対策を施しているはず。
つまり、今の私が幻想郷に拒絶されてしまったら……もう二度とあの世界には戻れない。
謝りにいかなきゃと思うものの、それで彼女に拒絶されたらと考えると、普段なら動く足がちっとも動かない。それどころか不安に押し潰されそうで立ち上がることすらできない。
情けなさで涙が溢れてくる。私ってこんなに弱かったっけ……。
マイナス思考の連鎖に入りかける寸前、
「あれ、もしかして宇佐見?」
と公園の入り口の方から声がした。
ゆっくりと顔をあげ、声のした方を向くと、現実での友人が少し不安げな表情でこちらを見ていた。
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