このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

宇佐見菫子の困惑

 夏休み、大量に出された課題に目を瞑れば学校生活の中でも最大級のイベントである。
 どの部活も大会やコンクールと練習の成果を発揮する舞台がある。そういった目指すものがある人達にとってはこの夏は忘れられない期間になるだろう。
 そして、俺はというと……。
「……なにもする気が起きない……」
 午前中から自室で腐っていた。
 前々から読もうと思っていた文庫本、少し前に積んでしまったゲーム、出された課題のいずれも手につけようという気がしないのだ。
 課題はそれなりに進んでいるからといって息抜きがてら読書をしようと思ったのだけど、いざ読み始めるとページをめくる手が段々と遅くなり……栞を挟んで本を閉じてしまう。
 今はベッドに倒れ込んでいるが、眠気は襲ってこない。
 俺がこうなってしまった原因の一端である(学校に認められてない)部活動は会長の方から夏休み前に特に活動はないと断言され、ある意味ではオカルトの季節でもあるのにも関わらず、不思議探索は休み明けまで無さそうでやきもきしている自分がいる。
 会長に連絡を取ろうにも相手の連絡先を知らないんじゃ取りようがない。
「まー今までは部室で喋ってそのまま調査って遅くまで連れ回されてたからなぁ……」
 連絡を取る必要がなかった訳ではないけど、なくても別に問題がないので改めて聞こうとは思ってなかったのだ。今の今までは。
 体を起こし、改めて読書……いや、積んでしまったゲームでもやろうと手をのばすが……唐突に、図書館に行くのはどうだろうかという考えが頭をよぎった。
 秘封倶楽部の活動を通じてわかったのが、圧倒的に知識が足りないということだった。
 小中学生の頃に調べたりしたことは本当に極一部で知らないことの方が多い。それでも会長が……宇佐見の方が詳しく知っているからその知識を頼ってしまっている。
「知識があれば対処できたりすんのかな……」
 学校の怪談だけでなく、世に溢れるオカルティックな話や真偽不明の都市伝説、ネット上で語られる奇妙な話。
 そのいずれにも危険と隣り合わせな話がいくつか存在する。
 秘封倶楽部で調査を行うと、そういった噂話は稀に実体を伴ってこちらを襲ってくる……。この間の人体模型やテケテケなんかがいい例だ。
 あの日の事を思い出し背筋が震える。……うん。自分の身を守る術はあって損はないだろう。
「この時間じゃもう暑いだなんだと言ってられないしな……。よし!」
 リビングにいる親に図書館に行くとだけ伝え、じわじわと暑くなってきた空気を掻き分けるかのように意気揚々と自転車を走らせた。

 照りつける日差しの中、約20分くらいかけて図書館へとたどり着く。
 建物の中の空気はまるで別世界のようで、自分が吐く息が熱を帯びてるせいかとても冷たく感じた。
「涼しい……って、そうじゃなくてまずは……」
 まずはどの棚を見ればいいんだ?
 この間の宿題は鉱石から調べていったけど今回はオカルト全般なのだ。しかも特にこれといった手がかりもなく、何かあればいいなという行き当たりばったりな調べ方である。
「オカルトって一口に言っても広いもんな……なら、やっぱり怖い話からか?
 いやでも調べたいのは怖い話ってわけじゃないし……」
「なら、都市伝説はどうじゃ?話の幅が広いものじゃし、その中から調べたいものを絞るという方法も取れると思うのじゃが」
 それっぽい棚の前で少し考えているとそれが口に出てしまったようで、後ろから他の利用者に声をかけられた。
「あっ、うるさかったですか?」
「いや、声量の問題ではないぞい。
 いやぁ、それにしても……昨今の学生の間じゃそういったオカルトやら怖い話が流行っておるのか?」
 声をかけてきた女性は、少し古めかしい喋り方で訪ねてきた。
「流行りというか……俺が入っている部活がそういうのを調べたりするんで、予習みたいな感じですよ」
 たまにブームみたいな流行り廃りはあるかもしれないが、自分が知っている範囲では部活動以外でそういった話を聞くことは少ない。
「ほぉ、なるほどのぅ……。それならば、幾つか儂が知る怪談話を教えても良いぞ?ただ、都市伝説ではなく、普通の怪談話になってしまうのじゃがな」
 この前の夜の事を思い出す。あれらは一口に都市伝説の中の【学校の怪談】、【学校の七不思議】と言うよりも学校が関連する怪談話や恐怖話の幾つかをまとめてそう呼んでいるのかもしれない。
 そうなると普通の怪談話こそ今探している情報源なのではないか?
「その……よかったら詳しく教えてもらってもいいですか?」
 何も知らないよりも、秘封倶楽部に在籍している間に出逢うであろう存在への対処法、もしくはそれに通じる話を聞いておいて損はないはずだと思い、このまま話を教えてもらうことにした。
「おお!そうかそうか。それじゃあ、まずはこういった話のなかでは定番のーーーー」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 話しかけてきた人もオカルト好きなのか、そのままいくつかおすすめの話を教えてもらった。
 
「まあ、こんなところかのぅ。色々と話しておいてなんじゃが、最近の怪談には疎くてな。儂が話せるのは一昔前のものばかりなのじゃ」
「いや、すごく助かりました。……えっと」
「ん?ああ、儂の事はマミゾ……いや、マミでよいぞ」
「マミさんはどうしてここまでしてくれるんですか?」
 初対面の……あって数分もしないただの学生に。
 仮に恩を売るにしてももっと別のやり方だってあるだろう。
「そんな些細なこと気にするでない。年長者が若人を導くのは当然じゃろ?」
 女性に対して失礼だが、年長者……という程マミさんは老けていない。喋り方も含めて彼女のキャラ付けなのだろうか?
「……おぬし、年長者という割には老けてないとか考えておるな?」
「えっ……と、まあ。はい」
「ははは、素直でよろしい。女性というのは何時でも若く見られたいものじゃからな。
 あらゆる手段を使い、本来の姿より良く見せる……。そういうことはお主にもあるじゃろ?
 好いた相手に良く見られたいとか、気に入られたいとか。そういう事が」
「……なんとなくわかります」
 好いた相手はいなくても、友人に良く思ってもらおうと頑張ることは理解できる。
 といってもTPOをわきまえた格好をするとか本当に些細なことばかりだけど。
「これはなにも現実の話だけではないぞ?おぬしの探してる都市伝説や怪奇譚、いわゆるオカルトにも稀に二面性がある話もあるからの。
 そんな感じで、現実も目に見える事が真実とは限らないということじゃ」
「それってーー」
「ああ!しまった、もうこんな時間か!申し訳ないのじゃが友人と会う約束をしていてな。またどこかで会った時はよろしくの」
 よほど時間が近かったのかマミさんはバタバタと慌ただしく図書館をあとにする。
 彼女が出ていった先を見ながら、最後の「目に見える事が真実とは限らない」という言葉だけがやけに耳に残っていた。

4/9ページ
スキ