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宇佐見菫子の困惑


 その日の放課後。
 日直の日誌を書いていて遅くなったため、咎められない程度の早歩きで部室棟にある空き教室へと向かう。
 普段なら鬱陶しいほど付きまとう林田も、昼間の騒動があったせいか、あの計画に賛同した数名を連れ立って作戦会議をするため、早々に学校を後にしているようだ。
 目的の空き教室前に着く。
 ここ最近新たに貼り付けられていた[立ち入り禁止]の貼り紙を無視し、少しだけ重い引戸を開ける。
「もー、遅かったじゃない。なんかトラブルでもあったの?」
「いや、日誌を書いてて遅くなった」
 この部屋の主はそっかそっかと軽く相槌をうつ。
「それじゃ、活動開始……って行きたかったんだけど先に業務連絡ね」
「業務て……」
 空いてる席に腰を下ろしながら宇佐見の連絡に耳を傾ける。
「夏期休暇は特に大掛かりに何かするわけじゃないから、秘封倶楽部の活動は無しね」
 まさかの連絡に唖然としてしまう。
「……まじで?」
「ええ、まじよ。もしかして何かしたかった?」
 あっけらかんと言う彼女に対し、こちらは
「いや、そうじゃないんだけどさ……。宇佐見の事だし、夏の間も無理矢理引きずり回されるのは覚悟してたから、その……予定が狂ったというか……」
「まあ、ウッチーが入ってから結構積極的に活動したからね。だからって訳じゃないけどこの夏は休憩期間よ。それにほら、この活動って別に夏にしか出来ないって訳じゃないんだし」
 たしかにそうだ。夏前に怪談の調査をしたのも記憶に新しい。
「伝えることはそんなところかな。特に活動することもないし、あとの時間は自由って事で。なんなら帰ってもいいからね?」
 正式な同好会じゃないんだからと、軽く口にする宇佐見。
「そう言われてもなぁ。帰ったとして、やることはあんまり……あっ」
「どしたの?」
 やることはなかったが、ひとつだけ聞きたかったことがあったのを思い出した。
「いやさ、宇佐見はどうしてこういうオカルトとかに興味を持ったのかなと」
 彼女自身がどうしてこういう事に興味を持ったのか、今更ながら単純に気になったのだ。
「……不思議な事が好きだから、じゃだめ?」
 思い出すような素振りを見せてから、そう宇佐見はこちらに聞き返してきた。
「俺をここに誘った時、解き明かされた不思議やオカルトをいるって断言してただろ?
 だからさ、無理じゃなければ詳しく教えてくれないか?」
 あの時の宇佐見は好きだから、という簡単な気持ちで言っていなかったような気もするし……。と続けると、彼女は小さな溜め息をついてから、「ま、隠すような事じゃないし……」と口を開いてくれた。
「神隠しって知ってる?」
 有名な映画のやつなら知ってはいるけど……と答えようとしたが、彼女の表情を伺うと茶化しているわけでは無さそうだったので、無言で首を横に降った。
「簡単にいうと行方不明になった子が数年後に当時の姿のまま見つかるっていう話なんだけどね」
 またオカルトの話かと思っていたが、話続ける宇佐見の口から耳を疑うような言葉が聞こえてきた。
「三日間。小さい頃に私も神隠しに合ってたみたいなの。その三日間っていうのも家族が言うにはなんだけどね。私は眠ってたから良くわからないんだけどさ」
 こちらが呆気にとられてる間に宇佐見は喋り続ける。
「そんな一生に一度あるかどうかの体験を覚えてないっていう自分にムカついちゃってさ。それからかなぁ、オカルトの事を熱心に調べたり調査するようになったのは」
 話終えたのか、先程に比べれば少しだけ晴れやかな表情でこちらを見ていた。
「どうだった?」
「いや、あまりにも衝撃的で何て言えばいいか……」
「やっぱりそうなるわよねー。あとは……そう、イタイ奴って距離を置いて離れていくとかかしら?」
 少し自嘲気味に笑う宇佐見。なんと答えるべきか少しだけ迷ってしまい、室内が静かになる。
「……いや、なんというか……。宇佐見が言うなら実際に起きたことなんじゃないか?」
 その沈黙を破ったのは俺のそんな言葉だった。
「小さい頃の記憶があいまいなのは良くあることだし、そんなことがあったから今の宇佐見がいるって言われるとなんていうか……納得するんだよ」
 そう続ける俺の姿を、宇佐見はハッとした顔で見ていた。
「あー……うん。ありがと」
 思っていたのと違う返事だったのか、少し照れ臭そうに視線をはずし彼女は小さく呟く。
「そっか、キミはこの事を否定しないんだ」
「まあ、ここで色々あったからなぁ……」
「それだけでも誘ってよかったって思うわ。
 ……あと、この事は人に話したことないから誰にも言わないようにね?」
 そう釘を刺す宇佐見に、人の過去を吹聴してまわる趣味は持ち合わせてないから安心しろとだけ言うと再び室内が静かになる。
 ただ先程と違い、どことなく心地良い静かさだった。
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