宇佐見菫子の憂鬱
そしてつつがなく試験も終わった放課後。前回と比べて少しだけ人気のある校舎を進み、だいぶ通いなれた図書室にやってきた。
ガラリと音をたてて扉を開くと、閑散とした室内に只一人、出題者である宇佐見が待っていた。
「おっ、来たね。……というとあの問題は解けたのかな」
「まあ、なんとかな」
「それじゃあ、聞かせて貰いましょうか。ホワイトクォーツに対応するあなたの答えを!」
まだ半信半疑だが、あのあととある文字列を入力した際にサジェストされた言葉を口にする。
「『ムラサキカガミ』……だ」
他のサジェスト候補とは違う、天然石やパワーストーンのサイトに繋がらない、異物のような検索ワード。小野寺がいうヒントが出題までに起こった出来事の中にあるとすれば……それは恐らく俺自身の独り言の内容なんだろう。
こちらの回答を聞いた宇佐見はニィっと口角をあげ、
「……正解!合格よっ!」
と普段なら見せないような笑顔で笑って見せたのだった。
……ん、合格?
「ちょっと待て、合格って一体何の事だ?」
「……あれ。言わなかったっけ?秘封倶楽部の入部試験って」
「何もかもが初耳だ。というよりも、なんだ?その『ひふうくらぶ』とやらは」
「私しかいない同好会よ。入部試験って言ってなかったのは悪かったと思うけど……。それでもよく、あの言葉からムラサキカガミまで辿り着いたわね?」
結構意地悪な出題したんだけどなぁ……と悪びれもせず呟く宇佐見。
「それは、小野寺の……友人の助けがあったからだよ」
俺一人だけでは何も解らずじまいだっただろうし。
「ホワイトクォーツを白い水晶って気がつけたのは勉強の息抜きで、ここの資料を漁っていたら見つけてな。けどそれだけじゃ調べたって出てこない。白い水晶ので検索してもパワーストーンや天然石のサイトばかりだぞ?」
「そりゃそうでしょうよ。水晶自体がパワーストーンなんだから」
「あとは出題された日の話を思い出して検索ボックスに『白い水晶 オカルト』って打ち込んだら見つかったって訳だ」
「なるほど……」
「それで、どうしてこんな回りくどい勧誘を?」
「それは……私の同好会なんだし、見極めてから引き入れたいじゃない」
確かに、至極全うな意見である。
でもね……と宇佐見はゆっくりと言葉を口にする。
「他の……他校の友人だけいれば平気だ、って思ってたんだけど、最近その子達にちゃんと友人は作った方がいいって言われちゃてさ。
けど、その子達に会う前からずっと周りを拒否してたもんだから、その……友達の作り方がわからなくてね。新しく作るなら少しでも話が合いそうな人が良いなって……思ってたところにあの独り言よ?」
しおらしい口調が一変、先程までの快活な女子生徒が戻ってきた。
まあ、確かに?そんな心持ちのときにあの独り言を聞いたなら声をかけたくなるというものだ。
「でしょ?……それで、改めて確認なんだけど。入ってみる、秘封倶楽部に?」
「活動理念みたいなのはあったりするのか?」
平積みされる小説のように頓珍漢な活動理念だったりするとは思えないけど。
「あなたが信じたがっていた不思議を、世界に隠されている秘密を曝くのが活動理念。いわゆるオカルトサークルみたいなものよ」
信じたがっていた不思議。そう聞いて少し心がざわついた。
だけどな、宇佐見よ。もう夢見る時間は終わりに近づいてるんだ。
「この前も言ったけど、その他大勢の決めた普通を受け入れちゃってもいいの?
受け入れたくないなら、それらを信じて存在するかどうかを自分の足で確かめに行きたいっていうなら私も手伝うから」
「……宇佐見はそういう存在が実在すると信じてるのか?」
「ええ、いるわ。この世界にも絶対」
その返事はとても力強く、何があっても曲がらない信念が感じられた。
「だって幽霊も悪魔も、宇宙人も、あなたの言う不可思議現象でさえも、まだ出逢えてないだけでこの世界のどこかで見つけて欲しいと隠れながら私を待っているって……そう思った方が楽しいでしょ?」
とても壮大な事を、多くの大人達が嘘や偽りと曝いてきた事柄を『そう思った方が楽しい』とただそれだけで信じていると彼女は言った。
それを聞いて、笑いが込み上げてくる。今まで夢想していた存在は『いると思った方が楽しい』。成る程確かに。宇佐見の言う通りだ。
「で、どうするの。入る?入らない?」
「入るよ。こんな面白そうな事を見過ごすなんてもったいないもんな」
笑いながらその部活(というのだろうか?)への入部を決める。
すると宇佐見は、花が咲いたような笑顔で
「!ようこそ、秘封倶楽部へ!」
と歓迎をしてくれた。
「改めて、私が会長の宇佐見菫子よ。よろしくね……えっと。名前、なんだっけ?」
「……もしかして今までずっと名前を知らなかったとか言わないよな?」
「……えへっ」
「まったく……山内慎太郎――――」
「あっ、思い出した!ウッチーよね、ウッチー!」
「確かにそう呼ばれてもいるけど」
「よろしく、ウッチー」
とても嬉しそうにこちらの渾名を呼ぶ宇佐見を見て、まあ良いかと感じ、開きかけてた口を閉じる。
その日、梅雨の陰鬱とした空気みたいに同じことの繰り返しだった日常に新しい風が吹いた、そんな気がした。
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ガラリと音をたてて扉を開くと、閑散とした室内に只一人、出題者である宇佐見が待っていた。
「おっ、来たね。……というとあの問題は解けたのかな」
「まあ、なんとかな」
「それじゃあ、聞かせて貰いましょうか。ホワイトクォーツに対応するあなたの答えを!」
まだ半信半疑だが、あのあととある文字列を入力した際にサジェストされた言葉を口にする。
「『ムラサキカガミ』……だ」
他のサジェスト候補とは違う、天然石やパワーストーンのサイトに繋がらない、異物のような検索ワード。小野寺がいうヒントが出題までに起こった出来事の中にあるとすれば……それは恐らく俺自身の独り言の内容なんだろう。
こちらの回答を聞いた宇佐見はニィっと口角をあげ、
「……正解!合格よっ!」
と普段なら見せないような笑顔で笑って見せたのだった。
……ん、合格?
「ちょっと待て、合格って一体何の事だ?」
「……あれ。言わなかったっけ?秘封倶楽部の入部試験って」
「何もかもが初耳だ。というよりも、なんだ?その『ひふうくらぶ』とやらは」
「私しかいない同好会よ。入部試験って言ってなかったのは悪かったと思うけど……。それでもよく、あの言葉からムラサキカガミまで辿り着いたわね?」
結構意地悪な出題したんだけどなぁ……と悪びれもせず呟く宇佐見。
「それは、小野寺の……友人の助けがあったからだよ」
俺一人だけでは何も解らずじまいだっただろうし。
「ホワイトクォーツを白い水晶って気がつけたのは勉強の息抜きで、ここの資料を漁っていたら見つけてな。けどそれだけじゃ調べたって出てこない。白い水晶ので検索してもパワーストーンや天然石のサイトばかりだぞ?」
「そりゃそうでしょうよ。水晶自体がパワーストーンなんだから」
「あとは出題された日の話を思い出して検索ボックスに『白い水晶 オカルト』って打ち込んだら見つかったって訳だ」
「なるほど……」
「それで、どうしてこんな回りくどい勧誘を?」
「それは……私の同好会なんだし、見極めてから引き入れたいじゃない」
確かに、至極全うな意見である。
でもね……と宇佐見はゆっくりと言葉を口にする。
「他の……他校の友人だけいれば平気だ、って思ってたんだけど、最近その子達にちゃんと友人は作った方がいいって言われちゃてさ。
けど、その子達に会う前からずっと周りを拒否してたもんだから、その……友達の作り方がわからなくてね。新しく作るなら少しでも話が合いそうな人が良いなって……思ってたところにあの独り言よ?」
しおらしい口調が一変、先程までの快活な女子生徒が戻ってきた。
まあ、確かに?そんな心持ちのときにあの独り言を聞いたなら声をかけたくなるというものだ。
「でしょ?……それで、改めて確認なんだけど。入ってみる、秘封倶楽部に?」
「活動理念みたいなのはあったりするのか?」
平積みされる小説のように頓珍漢な活動理念だったりするとは思えないけど。
「あなたが信じたがっていた不思議を、世界に隠されている秘密を曝くのが活動理念。いわゆるオカルトサークルみたいなものよ」
信じたがっていた不思議。そう聞いて少し心がざわついた。
だけどな、宇佐見よ。もう夢見る時間は終わりに近づいてるんだ。
「この前も言ったけど、その他大勢の決めた普通を受け入れちゃってもいいの?
受け入れたくないなら、それらを信じて存在するかどうかを自分の足で確かめに行きたいっていうなら私も手伝うから」
「……宇佐見はそういう存在が実在すると信じてるのか?」
「ええ、いるわ。この世界にも絶対」
その返事はとても力強く、何があっても曲がらない信念が感じられた。
「だって幽霊も悪魔も、宇宙人も、あなたの言う不可思議現象でさえも、まだ出逢えてないだけでこの世界のどこかで見つけて欲しいと隠れながら私を待っているって……そう思った方が楽しいでしょ?」
とても壮大な事を、多くの大人達が嘘や偽りと曝いてきた事柄を『そう思った方が楽しい』とただそれだけで信じていると彼女は言った。
それを聞いて、笑いが込み上げてくる。今まで夢想していた存在は『いると思った方が楽しい』。成る程確かに。宇佐見の言う通りだ。
「で、どうするの。入る?入らない?」
「入るよ。こんな面白そうな事を見過ごすなんてもったいないもんな」
笑いながらその部活(というのだろうか?)への入部を決める。
すると宇佐見は、花が咲いたような笑顔で
「!ようこそ、秘封倶楽部へ!」
と歓迎をしてくれた。
「改めて、私が会長の宇佐見菫子よ。よろしくね……えっと。名前、なんだっけ?」
「……もしかして今までずっと名前を知らなかったとか言わないよな?」
「……えへっ」
「まったく……山内慎太郎――――」
「あっ、思い出した!ウッチーよね、ウッチー!」
「確かにそう呼ばれてもいるけど」
「よろしく、ウッチー」
とても嬉しそうにこちらの渾名を呼ぶ宇佐見を見て、まあ良いかと感じ、開きかけてた口を閉じる。
その日、梅雨の陰鬱とした空気みたいに同じことの繰り返しだった日常に新しい風が吹いた、そんな気がした。
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