ユイは完璧だ。
可愛いし、もちろんそれを自慢しない。
料理は上手いし、ポケモンからも好かれる。
バトルも毎回戦略を変えてきたりするから飽きない。
少し頑固な所もあったりするがそれもまた可愛いと思っちまう俺様だ。
まあ、どんなユイでも俺様は受け入れられる。
ユイは完璧だ。
完璧なんだが‥これだけは苦手みたいだな。



俺様の前にはニコニコするユイ。
目の前には「今日はポケモン達と絵を描いたんです！‥どうですか？」と言って出された紙。
‥ただ一枚だけ何を描いたのか全く分からない。これは絶対ユイが描いた絵だ。

そう、ユイは絵がとにかく下手だ。
ポケモンを書くとみんなメタモンみたいになる。風景に至ってはユイにはこんな世界が見えているのか？と疑いたくなるレベルだ。
本人は上手いと思っているのがまた厄介。
いつだったかのバレンタインデーにクッキーを配ったみたいだが‥プレゼントされたポケモン達も顔は笑っていたが困惑しているのが分かった。

そんなユイ自信満々に見せてきたのがこの紙だ。
ユイに嘘はつきたくないけど、傷付けたくない‥。考えろ！俺様考えるんだ！

「お、おお！たくさん描いたな！」
「今日はすごくいい天気だったので外に出てお絵かきしてきたんです。ニンフィアとか絵を描けない子は手に絵具をつけてスタンプしました。それから連想して絵を描いたりもしたんですよ。ほら！」
「‥なんかこの絵怖くないか？‥この足跡は‥ナックラーか？」
「はい！ナックラーが押したスタンプにシャンデラが怨念でアレンジしました！」
「あ、あぁ。怨念で、な。‥この絵は随分達筆だな。水墨画ってやつか？」
「はい！これはキュウコンが尻尾で描いていたやつですね！」
「キュウコンすごいな！‥ユイよりも上手い‥。」
「え？何か言いました？」
「いや、なんでもない。これは‥可愛らしい絵だな！リボンにケーキに足跡！」
「これはニンフィアとマホイップですね！さすがフェアリータイプです！」
「‥この絵は随分と幻想的だな。‥氷で少し凹凸を作ってそこに色を塗ったのか！」
「それはユキメノコですね！何回も吹雪で紙を飛ばしちゃって苦労してましたね！」
「なるほどな。ユイのポケモン達は絵が上手いんだな！で‥これはユイが描いた物か‥。」
「はい。すごい自信作ですよ！」

そう言って出されたものを見るが‥全然分からない‥。この線は何の線だ？何本も触手のように出てる。そしてこの不思議な色のメタモンはなんだ？この赤目の怪獣やデカイオレンの実みたいのは‥？これは‥2個のマゴの実か？よく見るとこっちには白い丸が見える。‥やべぇ。謎が深まるばかりでまともな答えがでない。
変な汗を描きながらユイが見せてきた物を必死に読み解こうとするが、全く予想すらつかない。正直ポケモン達の絵の方が上手かった。特にキュウコン。
俺様がもう何がなんだか分からなくなってきた時に気がついた。ユイの後ろでユイのポケモン達がピョンピョン跳ねていた。
‥何かを伝えようと？‥‥まさか‥。

「これ、ポケモン達か‥？」
「そうです！みんながお絵描きしている所を書きました！」

触手はニンフィアのリボン。
不思議な色のメタモンはマホイップ。
赤い目の怪獣はキュウコン。
デカイオレンのみはシャンデラ。
2個のマゴの実はナックラー。
白い丸はユキメノコ。

‥なるほどな。
ユイの後ろにいるポケモン達はほっとした表情をして胸を撫で下ろしている。そこにユイがほら！キバナさんも分かってくれたよ！やっぱり上手に描けていたよ！と満面の笑みで声をかけるものだからユイにつられてポケモン達も笑顔になっている。
“‥うーん。みんなを描くってやっぱり難しいなぁ‥。あ！ナックラー移動しないで！‥出来た！みてみて！これどう？みんなを描いたんだよ！‥嬉しい？ならよかった！”
こんな会話をしながら一生懸命彼らを想いながら描いていたんだろうなと想像ができて俺様は自然と口角が上がった。

「さて、今日素晴らしい絵を描いてくれた画伯達には甘い物が必要かな？この俺様がクッキーを焼いてやるぜ！」
「わぁ！キバナさんの作るクッキー久しぶりです！」
「しかも立体型の物を作っちまうぜ？楽しみにしていろよ！」
「立体？！わ、私も一緒に作りたいです！」
「よし！じゃあ一緒に作るか！」
「みんなは休んでて。すっごく美味しいクッキー作るからね！」

ユイは完璧だ。
でも絵が苦手。
そんな所がまた愛すべき所だろ？
きっとポケモン達も彼女のそんな所も大好きなんだ。その証拠に彼女が描いた絵を大切そうに囲んで寝ているんだから。


２Ｄ<３Ｄ
（‥形作りは大丈夫か？）
（多分大丈夫です。絵よりも少し苦手ですが粘土遊びも好きなので！‥‥出来た！どうですか？）
（ん？！これキュウコン？！‥めちゃくちゃ上手いじゃねーか‥。‥絵とは比較できないくらいに‥。）
（なにか言いました？）
（‥なんでもねえ。）