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短編

- ホワイトデー -
 ホワイトデー。
 それは、バレンタインデーのお返しを渡す日。
 先日の三月十四日。神殿内では、男性たちがそのお返しをするのに大忙しであった。
 しかし、ただ一人。その日に間に合わなかった、というより、忘れてしまっていた者が一人。一日遅れの返礼をしていた。

◇◆◇

「……」
「……」
「……なぁ、シギュン」
「なぁに、ロキ」
「こんなんで本当にいいのか?」

 こんなの、というのは。二人の部屋にて、シギュンがロキを後ろから抱き締めているという状態。シギュンは彼の頬をすりすりと擦りながら「もちろん」と笑顔で言う。

「何度も言わせないで頂戴ロキ。私はこれがいいの。貴方を抱き締める。これが、貴方の今日一日の私へのホワイトデーのプレゼント」
「でも、なぁ」

 ロキは不満気味な声を漏らす。

「こんなの、いつでも出来るだろ? 本当に、言ってくれればなんでもするんだぜ? お返しを用意するのを忘れてしまったのはボクが悪いのだから。だから、今日ぐらいもっと君は我儘に――」
「ロキ!」
「むぐっ」

 シギュンは彼には珍しく反省の色をのせた声を出す口を、自身の手で塞ぐ。

「ロキ。貴方にいい事を教えてあげる。私は、今の今までも、ずっと我儘を言っているわ。貴方がどう思おうと……こうやって貴方の傍に居ること、貴方と共に暮らせること、貴方との愛を語れること。これは全部、私(×××)が私(シギュン)であるための我儘なのよ」
「……シギュン、でもそれは」
「えぇ、大丈夫。ちゃんと理解はしている。でも、ごめんなさい。まだ現実だと受け入れられないの。幸せで、幸せで、とっても幸せで。だから、これで充分なのよ。貴方がいる。それ以上、欲しい物なんて、私にはないのよ」
「……」

 シギュンの話を聞いたロキ。しかし、それでも彼はまだ不満気な表情を見せる。そんな彼に、彼女は「それなら」と、彼の前へと入り、彼の手をギュツと握りながら改めて座る。

「ロキ。貴方の望み通り、我儘を言います。私の名前を呼んで頂戴。貴方が私にくれたとっても素敵な名を」
「?……シギュン」
「えぇ」
「シギュン」

 ロキの手が、シギュンの愛らしい頬に触れる。

「はい。ふふっ、少しこそばゆいわ、ロキ」
「シギュン」

 二人の目が互いにまっすぐに見つめ合う。

「シギュン。ボクの愛しい人」
「ロキ。私の愛しい人」

 二人はほんのすこしだけ唇を重ね合い、離れてから、クスリと笑い合った。
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