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短編

「ううん……?」
 ナリは自室のベッドの上に座り、鏡の前でしかめっ面をして自分の髪を弄っていた。髪を編みこもうとしているようだが、すぐに崩れてしまっていた。
「なんなんだよ、全然綺麗にまとまら」
「なにやってるの?」
「わぁっ!?」
 ナリが鏡から顔を上げると、そこには目を丸くさせたシギュンがいた。
「わっ。びっくりした。大きな声出さないでちょうだいナリ」
「母さんこそ。入るならノックぐらいしてくれよ」
「したわよ。どこの誰かさんが自分の髪に、夢中になってる時にね」
「うっ」
「で? なにやってるの?」
シギュンが改めてそう聞くと、ナリは目を逸らしながらボソッと「……したくて」と言う。
「ん?」
「いや、だから……三つ編みが、したくて」
 ちゃんとした大きさで話すと、シギュンは少し考えてから「あぁ! なるほど!」とにやにやと口元を緩ませる。
「なんだよ」
「いやぁ? 最近髪伸ばし始めたなぁとは思ってたけど……アレでしょ、ロキの真似したかったんでしょ?」
 シギュンにそう当てられたナリは、どんどんと顔を赤らめさせてそっぽを向いてしまう。
「うふふ、大当たりね。ナリは本当に分かりやすいんだから」
 シギュンは笑いながら、絡まったナリの髪を櫛で優しく解していく。ナリはそのまま母親に自分の髪を委ねる。
「ナリは、お父さんのようになりたいの?」
 シギュンがそう聞くと、ナリは「うん」と強く頷いた。
「なりたいというか、父さんよりも強くなりたいんだ。炎とか出せねぇけど、それでも、風みたいに自由自在に戦えるようになりたい。そんでさ! 『参った!』って言わせたいんだ! だから、何かしら真似していこうかなって」
「だから髪型からって、安直な考えね」
 パチッ
「別にいいだろ〜? って、何かつけた?」
「えぇ。三つ編み出来ないままじゃ鬱陶しいだろうし、ただくくるのも味気ないなと思ってたのよね。だ、か、らお母さんからのプレゼント」
 シギュンがニコニコと微笑みながら話すため、ナリはベッドから離れて姿見で、自分の頭裏を見る。
 そこには金色のカフスが付いていた。
「これ」
「うふふ、いいでしょ。しかも、おまじない付きカフスよ」
「おまじない?」
 シギュンはナリの傍へと寄り、彼の頬に口付けをする。
「そっ。ナリが強くなれますようにっておまじない。頑張ってね」
ナリは突然キスされて驚くも、母親の優しさに触れて「……ありがとう。俺、頑張るよ」と小さく微笑んだ。
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