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短編

 チョコレートの甘い香りがヴァルハラ神殿の至る所に散らばる、二月十四日。
 最高神オーディンが異世界からの住人から得た、バレンタインデーという行事の日である。
 そんな甘い香り放つ廊下に、銀色の髪を揺らしながら楽しげに歩くシギュンの姿があった。シギュンは自分の持つ、小さなリボンの付いた箱を見てニコニコと微笑みを浮かべる。
「ふふっ。料理、なんてものをしたことがないから何度か失敗したけれど、トールさんのおかげで何とかまとかまともなのが出来たわ。また改めて御礼をしないとね。さーってと、ロキはいるかしら。いや、いるわよね当然」
 シギュンは箱を大事そうに持ちながら、歩みを早めた。渡す大切な相手が居るであろう、部屋へと向かって。

◇◆◇

「ロキ? いる?」
 シギュンが扉を叩くも、中からは返事が無い。ドアノブを捻ってみると扉が開いたため、「失礼するわよ」とシギュンは顔だけを部屋の中へと入れる。
 当然、返事がなかったのだからそこにはお目当ての相手は居ない。
「残念。まだ鍛錬中かしら。早く渡したかったのに」
「何を渡したいんだ?」
「っ!?」
 シギュンが勢いよく振り向くと、そこには探していた相手、ロキの姿があった。
「ろ、ロキ」
 ロキは名前を呼ばれ、首を傾げながら「ん?」と答える。
「何、シギュン? ボクに用でも?」
「えっ、えっ、と……」
 ロキに真正面から見つめられながらそう問われ、シギュンは何故か急に恥ずかしく緊張感が湧き上がっていた。顔は熱く、口が思うように動けずにいる。
 それでも、シギュンは「コレ!」と箱をロキに突き付けた。突然突きつけられた物に、ロキは目をぱちぱちとさせる。
 そんな彼を察し、シギュンはゆっくりと話し始める。
「えっと……今日が、バレンタインだって聞いたから……。料理なんて、したことないけど、色々と手伝って、もらって、だけど。その、貴方にチョコを、と思って」
 それを聞いたロキは小さく「チョコ……シギュンが、ボクに……」と呟き、そして。
「嬉しい」
「っ!」
 ロキは彼女の手と共に、チョコの入った箱を自分の手で包み込んだ。
「嬉しいよ、シギュン。君からチョコを貰えるなんて!」
「……ほ、ほんと?」
「あぁ、勿論。だってさ」
 彼は満面の笑みで、こう言った。

「好きな人から貰えるだなんて幸せでしかないだろ」

 その言葉に、シギュンもつられて笑みを零した。

◇◆◇

「あっ、割れてる」
「えっ」
「嘘だよ」
「……ロキー!!!もうっ!!!!」
「アハハ、悪い悪い。--ん。うん、美味しい」
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