短編
静まり返る夜の街の片隅に、ひっそりと佇む店がある。
バー・ユグドラシル。
少し古びた看板に、店の名が刻まれている。暖かな木の壁に、窓からは優しい光が零れている。
「おまたせいたしました。スクリュードライバー二つとチーズとクラッカーの盛り合わせでございます」
「わー! ありがとうございます!」
バルドルは女性二人の席に料理とお酒をテーブルに置く。女性達は「きたきたー!」と嬉しそうな声を上げながら、携帯を使ってパシャパシャと写真を撮り合ってから乾杯をする。
「バルドル君。今日は本当にありがとう。助かったよ」
「いえ、そんな。お役に立てて嬉しいです」
バルドルは今、親戚の経営する店に欠員が出たため急遽今日限りの助っ人としてやってきている。
「どう? これからもここでバイトとかしない?」
「えっ、えっと……」
突然のお誘いにバルドルが困惑していると、カランカラン、と店の鐘が鳴る。
「いらっしゃい、ま、せ」
バルドルはその客人に挨拶をする。しかしその客人を見て彼は目を丸くさせる。
「よっ!」
そこには、彼の友人であるロキの姿があった。
「なんで来てるんだ、ロキ。バイトだと言ってたじゃないか」
「バイトなのは本当さ。終わったから、まだやってるかな~って見に来たんだよ」
「はぁ……教えなきゃよかった」
「別にいいだろ。茶化しに来るぐらい。友人の特権みたいなもんなんだから。で、どれどれ」
ロキはニヤニヤと笑いながらバルドルの仕事服バーテンダー姿をジロジロと見る。
「いいなぁ。カッコいいじゃねぇか! 様になってるぞ。もう女の子から連絡先とか貰ったか?」
「……茶化すだけなら帰れ」
「いやいや、ちゃんと注文するって。怒るなよバルドル」
バルドルは彼から目を逸らし、怒気を含めた口調で話す。彼の怒りを感じ取ったロキは、すぐさまカウンターへと座る。バルドルは溜息を吐きながら、カウンターの裏へと入り、ロキの目の前に立つ。
「で、注文は?」
「君のオススメで」
「そういうのが一番困るのだけれど」
バルドルは背後にある瓶棚を探りながら、彼へ出すお酒を模索する。
頭ではそのお酒に関してと、あともう一つ彼の頭の中でぐるぐるとしている言葉がある。
(カッコいい、カッコいいか……ロキに言われると、やっぱり嬉しいな)
バルドルは、ロキに対して密かな恋心を抱いている。だからこそ彼は、心の中で先程ロキからこの姿に関して褒めてもらった事をずっと喜んでいたのだ。
バルドルは、チラリと背後に居るロキを見る。ロキは彼の心の中など露知らず、いつの間にか来ていた女性客と仲良く談笑していた。そんな彼の姿に、バルドルはムッとなる。
そんな彼の様子を察したのか、ロキはバルドルの方へチラリと顔を寄せる。パチリ、と目が合った。しかしバルドルは一つ咳払いをして、その目を逸らし、あたかもお酒を選んでいる最中かのように見せかける。それでもロキの視線が痛い為、バルドルは彼に話しかける。
既に先程の女性はいなくなっていた。
「なんだ?」
「べっつに~。進捗どうかな~って」
「あーはいはいそうですか」
「あれ、バルドル今日冷たくないか? 言葉が雑いぞ。やっぱりボクが来たの、嫌だったか?」
「……驚きはしたが、嫌ではないよ」
ロキの少し弱ったような声に、バルドルはたじろぐ。
(だがまぁ、ちゃんと言っておいてくれれば心の準備やら色々と出来たんだが……。あぁ、、まったく。なぜ彼は私の心を察してくれないのか。……そうだ)
バルドルは少しだけ笑みを見せ、お酒を作り始める。
スコッチ・ウイスキー、スイート・ベルモット、アンゴスチュラ・ビターズ
それら全てをシェイカーの中へと入れ、振り混ぜ合わせる。そうして、混ぜ合わさったものをグラスに注ぎこみ、チェリーを添えて、ロキの前へ差し出す。
ロキはオレンジに輝くそれを見て「おぉ」と声を上げ、グラスを持ち一口だけ口に含ませる。
「うん、美味い。なんて名前なんだコレ」
「ロブ・ロイだ」
「へぇ~。初めて聞くな。なんでまた? 結構悩んでくれてたみたいだけれど」
ロキはオレンジに輝くグラスを光によって輝かせながら彼に尋ねる。そんな彼に、バルドルはフッと笑って見せた。
「自分で、考えてみろ」
「はぁ?」
「そして、悩め。それを私は望んでるということを」
「……???」
◇◆◇
ロブ・ロイ……貴方の心を奪いたい
バー・ユグドラシル。
少し古びた看板に、店の名が刻まれている。暖かな木の壁に、窓からは優しい光が零れている。
「おまたせいたしました。スクリュードライバー二つとチーズとクラッカーの盛り合わせでございます」
「わー! ありがとうございます!」
バルドルは女性二人の席に料理とお酒をテーブルに置く。女性達は「きたきたー!」と嬉しそうな声を上げながら、携帯を使ってパシャパシャと写真を撮り合ってから乾杯をする。
「バルドル君。今日は本当にありがとう。助かったよ」
「いえ、そんな。お役に立てて嬉しいです」
バルドルは今、親戚の経営する店に欠員が出たため急遽今日限りの助っ人としてやってきている。
「どう? これからもここでバイトとかしない?」
「えっ、えっと……」
突然のお誘いにバルドルが困惑していると、カランカラン、と店の鐘が鳴る。
「いらっしゃい、ま、せ」
バルドルはその客人に挨拶をする。しかしその客人を見て彼は目を丸くさせる。
「よっ!」
そこには、彼の友人であるロキの姿があった。
「なんで来てるんだ、ロキ。バイトだと言ってたじゃないか」
「バイトなのは本当さ。終わったから、まだやってるかな~って見に来たんだよ」
「はぁ……教えなきゃよかった」
「別にいいだろ。茶化しに来るぐらい。友人の特権みたいなもんなんだから。で、どれどれ」
ロキはニヤニヤと笑いながらバルドルの仕事服バーテンダー姿をジロジロと見る。
「いいなぁ。カッコいいじゃねぇか! 様になってるぞ。もう女の子から連絡先とか貰ったか?」
「……茶化すだけなら帰れ」
「いやいや、ちゃんと注文するって。怒るなよバルドル」
バルドルは彼から目を逸らし、怒気を含めた口調で話す。彼の怒りを感じ取ったロキは、すぐさまカウンターへと座る。バルドルは溜息を吐きながら、カウンターの裏へと入り、ロキの目の前に立つ。
「で、注文は?」
「君のオススメで」
「そういうのが一番困るのだけれど」
バルドルは背後にある瓶棚を探りながら、彼へ出すお酒を模索する。
頭ではそのお酒に関してと、あともう一つ彼の頭の中でぐるぐるとしている言葉がある。
(カッコいい、カッコいいか……ロキに言われると、やっぱり嬉しいな)
バルドルは、ロキに対して密かな恋心を抱いている。だからこそ彼は、心の中で先程ロキからこの姿に関して褒めてもらった事をずっと喜んでいたのだ。
バルドルは、チラリと背後に居るロキを見る。ロキは彼の心の中など露知らず、いつの間にか来ていた女性客と仲良く談笑していた。そんな彼の姿に、バルドルはムッとなる。
そんな彼の様子を察したのか、ロキはバルドルの方へチラリと顔を寄せる。パチリ、と目が合った。しかしバルドルは一つ咳払いをして、その目を逸らし、あたかもお酒を選んでいる最中かのように見せかける。それでもロキの視線が痛い為、バルドルは彼に話しかける。
既に先程の女性はいなくなっていた。
「なんだ?」
「べっつに~。進捗どうかな~って」
「あーはいはいそうですか」
「あれ、バルドル今日冷たくないか? 言葉が雑いぞ。やっぱりボクが来たの、嫌だったか?」
「……驚きはしたが、嫌ではないよ」
ロキの少し弱ったような声に、バルドルはたじろぐ。
(だがまぁ、ちゃんと言っておいてくれれば心の準備やら色々と出来たんだが……。あぁ、、まったく。なぜ彼は私の心を察してくれないのか。……そうだ)
バルドルは少しだけ笑みを見せ、お酒を作り始める。
スコッチ・ウイスキー、スイート・ベルモット、アンゴスチュラ・ビターズ
それら全てをシェイカーの中へと入れ、振り混ぜ合わせる。そうして、混ぜ合わさったものをグラスに注ぎこみ、チェリーを添えて、ロキの前へ差し出す。
ロキはオレンジに輝くそれを見て「おぉ」と声を上げ、グラスを持ち一口だけ口に含ませる。
「うん、美味い。なんて名前なんだコレ」
「ロブ・ロイだ」
「へぇ~。初めて聞くな。なんでまた? 結構悩んでくれてたみたいだけれど」
ロキはオレンジに輝くグラスを光によって輝かせながら彼に尋ねる。そんな彼に、バルドルはフッと笑って見せた。
「自分で、考えてみろ」
「はぁ?」
「そして、悩め。それを私は望んでるということを」
「……???」
◇◆◇
ロブ・ロイ……貴方の心を奪いたい
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