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短編

「オーディン!!!!!! これは、どういう事だ!?」
 ヴァルハラ神殿に彼の邪神ロキの怒声が響き渡る。
「んー? なんのことかのー?」
「あからさまにとぼけるんじゃねー!これ!この服!」
 かなりの歳であるはずなのだが、子供のようにとぼける最高神オーディンの目の前にある物を突きつける。
 フリフリのフリルが入った他所の世界で言う、メイド服なるものだ。

◇◆◇

「「執事喫茶?」」
「うむ」

 いつものように仕事をしていると、父最高神オーディンにロキと共に呼び出された。その呼び出された内容は、父の悪い癖の一つであった。
「以前、異世界の者から聞いた事なんじゃが。なんでも執事、まぁうちの者で例えるなら給仕係の兵士をそう名称付けでおるらしい。そんな彼等が営む喫茶店を執事喫茶と言うらしくてなぁ」
「で? 自分もやってみたくなったって?」
「やりたいというより見てみたいじゃよ、ロキ」
 父は異界から来た者に、必ず1つ知恵を貰う。異界から来た者が住む世界にある物のなんでもを、父は知りたがっているから。
 その好奇心からか、このユグドラシルでも実現可能な事ならば、このように私やロキ、大変な時には神族や他種族までも巻き込んでその好奇心を満たすのだ。
「見てみたい、という事はその執事喫茶のお客様になりたいということですか? お父様」
「うむ、そうなるの」
「でもよ、さっきの執事の説明からしたら、そういうのはいつもしてもらってるだろ? 給仕係と一緒なんだろ?」
「しかしなぁ、また服なども決まっているらしくてな。また雰囲気も違うと思って、気になるんじゃよ。じゃから」
「だから?」
「作ってもらった」
「作りました」
「「えっ」」
 父が指差した私たちの背後には、いつの間にかニコニコと笑顔なトールがある箱を二つ持って立っていた。
「トールが、作ってくれたのか?」
「はいバルドル様。オーディン様から命を受け、速攻で取り掛からせていただきました!」
「わぁ、すげぇ笑顔」
「という事じゃからの、まず二人が着てみておくれ」
「「はい?/は?」」
 話の意図がよく見えなかった。
「えっと、お父様。それが私達を呼んだ理由なのでしょうか?」
「そうじゃ。一度、試作品として二人に着てもらってどんなものか見てみようと思ってな」
「そんなん、着るであろう兵士達を呼べばいいだろ?」
「兵士達を呼べば萎縮するじゃろ。じゃから、ちゃんとした意見が聞けぬと思ってな」
「まぁ、そういうことだから! はい!」
 トールは私とロキにそれぞれ箱を渡してから、背中を押して扉へと向かわせる。
「お着替えいってらっしゃ〜い」

◇◆◇

「って、言われてもなぁ」
 私とロキは近くだった私の部屋へと入り、服が入っているであろう箱を置く。ロキはすぐにソファへと寝転がる。
「とてつもなくやる気がない」
「やる気がないのはいつもの事だろう、ロキ。いい加減貴方は私が言わずとも仕事をしろ」
「うっせぇ、これがボクなんだよ。神族は忙し過ぎるだけだ。というか、オーディンのああいう思い付きは無駄に仕事を増やしているだけなんじゃないかって、いつも思うんだけどさ。そういうのちゃんと言った方がいいぞ〜、息子ちゃん」
「言えるわけがないだろ? 父の好奇心は一度膨らみだしたらキリがないからな。ちゃんとその好奇心を満足させなければ。機嫌を損ねさせてしまうのもいけないしな」
「いつも思うが、どっちが親で子供か分からなくなる」
「口を動かさず手を動かしたらどうだ? ほら、トールのセンスらしくカッコイイじゃないか」
 私が箱を開けると、そこにはカッコイイ黒を基調とし所々に金糸が入った服、執事服なるものが入っていた。ロキも中身を見て「ふーん」と満更でもなさそうな顔で自分の箱にも手をかけた。の、だが。
「……」
「……」
 彼の箱に入っていたのは、私とは違う物が入っていた。
 黒を基調としているのは同じだが、それにはフリフリのレースが飾られ可愛らしいリボンも付いていた。正しくそれは、女性ものの。
バンッ。
 ロキは机に拳を打ちつけ、その服を掴んだ。
「オーディン!!!!!!!!」

◇◆◇

 そして、最初に戻る。
「なんでボクにはこれなんだよ! バルドルが貰ったのとは違うぞ!?」
「それはの、執事の女性版であるメイドが着る服らしくてな。そのメイドにもメイド喫茶なるものが」
「説明はいいから殴らせろ」
「ああん、ロキ。オーディン様への暴言は許さないわよ〜」
 今にも掴みかかりそうなロキをトールがなだめながら抱きかかえて、父から離れさせる。
「トールもトールだぞ! 作ったのは君なんだから共犯者なんだろ!?」
「そうよ〜、オーディン様にメイドの事も聞いて作らざるを得なかったのよ……なんてったってアタシの好きなフリフリの服だし?」
「君の趣味なんて聞いてない!そもそもなんでボクが女物を着なくちゃいけないんだ!?」
「お主は髪が長いからのぅ。ちょっとは女性っぽく見えるかと思ってな。ほら、以前ミョルニルを取り返しに行く際にトールと共に女物のドレスを着たことがあったろう。あれを着たんじゃから苦ではなかろうに」
「あれは仕方なくだ! ジャンケンに負けたからな! てかトール、もう離せ」
「嫌よ〜このままアタシがお着替えさせてあげるわ〜」
「だー! ふざけんな! ボクの意見は無視か!」
「わしへの暴言を許す代わりと思えば良かろう」
 ロキはしかめっ面をしながらトールに連れていかれてしまい、私はニコニコと笑う父を苦笑気味に見てから、彼等と共に出ていった。

 その後、ロキはトールに無理矢理そのメイド服に着替えさせられた。
そんな光景を横で見ながら自分は執事服に着替えていたが。
「……」
「ああもう自分で着替えられる!」
「駄目よ〜、どうせロキ逃げるでしょ?」
「逃げねーから離せって!」
「……」
 その時の私の心は、モヤモヤとした暗いもので覆われていった。

◇◆◇

「おぉ! 二人共よく似合っているではないか!」
「そう、でしょうか?」
「……」
 トールに無理矢理着替えさせられて、ムスッとした表情のロキと私が父の元へと行くと、父は私達の服装に絶賛していた。
「うむ。バルドルはカッコイイしロキは可愛いのぅ」
「可愛い言うな。そんな言葉はトールにだけ言ってやれ」
 ロキは可愛いと言われて、より一層眉間に皺を寄せる。私も長い髪に可愛いらしいフリフリのスカート姿を見て、ほんの少しでも可愛いと思ってしまったのだけれど……本人が嫌がるのなら言わない方がいいかもしれない。
「まぁ、そう言うな。ふむ、ではこのまま一日その服のまま仕事をしておくれ」
 父の言葉にロキは目を丸くさせる。
「はぁ!?」
「実際に着て過ごして感想が欲しいんじゃよ」
「感想って、そんなの」
「命令じゃよ、ロキ」
 ロキも命令と言われれば、言い返すことも出来ずに、行く場のない怒りの篭もった拳を自身のフリフリなロングスカートの裾を強く掴んだ。
「まず。その者の話によると決まった言葉があってな、主に対しては『ご主人様』と」
「誰が言うか」

◇◆◇

「あー、疲れた!」
 ロキはそのまま再びソファへと寝転がる。
「結局一日中この服のまんま仕事させられて、他の奴らからの目がいつも以上に痛かったのに、結論が「カッコイイし可愛いが統一感が無くなる気がする」から没ってなんだよ、意味がわからねぇ!そんなの最初から分かってただろ!?」
「まぁ、トールも一緒に着てあげていたんだ。少しは機嫌直して着替えたらどうだ?返すのは明日でもいいとは言っていたが、そのまま寝たらダメだろ?」
「トールのは完全に着たいからって欲望だろ。そんなんで治るか。あーそうだな、この服結構かたっくるしいから、とっとと着替えたかったんだよ。よし、着替えるやる気を出そう」
 ロキは怠そうに起き上がりながら、服に手をかける、のだが。
「あれ?」
「どうした?」
「あー、なんか上手くボタンが取れなくて。悪いバルドル、お願いしていいか?」
「あっ、ああ」
 ロキは苦笑気味に、私にそう頼んできた。私は断る理由もないため自分の執事服のジャケットや装飾品だけを脱いで、彼の背後へと座る。そして、服のボタンに手をかけた。一つボタンを外すと彼の肌が顕わになる。健康的な肌にしっかりとついた筋肉に、唾を飲み込む。
 そんな私を他所に、ロキは「あー、ボタンの締め付け感がなくなって楽だ」とくつろいでいた。そんな気の緩んだ彼を見て、私は少し。
「……」
「--っ!?」
 悪戯をしたくなった。
「バルドル!?」
 ロキは先程私がキスをした首を手で抑え、私の顔を凝視する。
「なんなんだよ、驚くだろ」
「……貴方が悪いんだ」
「はぁ? --ちょ!?」
 私は彼の静止の声も聞かずに、また首筋にキスを落とした。次は背中と、ボタンを一つ開ける度にそこへキスを落としていく。その度にロキは恥ずかしのかこそばゆいのか小さく声を上げる。
 最後のボタンを開けると、腕の部分も脱げていき、完全に彼の上半身全てが顕わになる。
 私はその背中を優しく包むかのように抱きついた。
「なぁ、どうしたんだよ。君からだなんて珍しいじゃないか」
「……トールに」
「うん?」
「トールに着替えさせられてる貴方を見て、こう……モヤモヤっとしたというか」
「あー、うん? それで?」
「いや、それだけさ。モヤモヤっとしたから、つい。こんな服を着るロキも、嫌々着るロキも、可愛いと思ったから、さっきはキスを、した。すまない」
「……」
 後ろから抱きついているから彼の表情はよく見えない。怒っただろうか?そう不安に思いながら、少しだけ身体を彼の顔が見える位置へと変える。
「……!」
 ロキの顔は赤くなっていた。彼は私が見ていることに気が付くと「見っ、見んな」と顔を片手で隠す。そんな彼に私は、思った感情を零す。
「……可愛い」
「かっ。可愛いのはそうやって嫉妬してる君の方がっ」
 こちらを振り向いたロキの言葉を遮って、私は彼の唇に噛みつく。まだ少し強ばった彼の口を緩ませるために、乱れた長いスカートから少し見える太股を触る。
「ん、ぅ……」
 それで感じたのか、身体を跳ね上がらせて口が緩んだ。その隙を狙って舌を中へと入り込ませていくと、ロキも今以上の快楽が欲しいのか抵抗せずに舌を絡めてくれた。
「……ふっ、ぁ」
「んん……」
 優しく、時に激しく舌を絡ませ合う。息が上手く出来なくなるまでずっと。
 そしてとうとう息が苦しくなったため、名残惜しさを感じながらも呼吸をするためにロキの舌から離れる。離れていくロキの唇との間に、キラリと光る糸が伝う。
 糸がぷつりと切れ、私は口に溜まった彼と私のが混ざった唾液を飲み込む。いつものこういう時の彼は強気な顔を見せているのだが、今は愛らしいとろんとした顔でその糸を親指で舐め取る。
 互いに乱れた息を整えていると、ロキがボクに擦り寄ってきた。
「バルドル……もっと」
「--っ」
 とろんとした上目遣いで微笑みながらそう言われ、自分のものが反応するのが分かった。ロキは私のシャツのボタンを一つ外すと、鎖骨にキスをする。そしてまた一つボタンを外す度に胸板、お腹、そして。
「ハハッ、もうこんな感じてんの? バルドル、かわいい」
 ズボンも脱がされ、骨盤から下着越しにロキの手があそこに触れる。
「それは貴方が」
「はいはい分かった」
 いつの間にかロキの服は全て脱げており、彼の膨らんだものと自分のとがぴたりとくっつき合い、その熱が下着越しに感じられた。それは自分の欲を更に上げていった。
 そして彼は私の首元へと腕を回し、耳元で囁いた。
「今日はボクの事、好きなようにしていいからな。ご主人様」
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