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短編

「ロキ、火くれないか?」
「ん?」
 中庭の塀でぼーっと座っていると、隣にバルドルがやってきた。
「火ってボクの?」
「煙草につけるマッチのつもりだったんだが……まぁ、今のは伝え方が悪かったけども。貴方の力、そんな使い方していいのか?」
「ボク自身もしてるから別にいいよ。というか君、煙草吸うんだな」
「たまにね。だから、火を持ってくるのを忘れるんだ」
 バルドルはポケットから小さな木箱をだし、その中から二本の煙草をとる。一本はボクへ。もう一本は自分に。まずボクは自分の煙草に火をつける。夜中の月明かりだけの中庭に、暖かな火が灯り、すぐに消える。
 バルドルの方にもつけてやろうと思って手を伸ばす。が、その手をボクは一旦下げた。
 その代わりに、煙草をくわえた顔を近づけた。
「……ロキ?」
 案の定、何をするのか分かっていないバルドル。
 いや、ちょっとは勘づいてるか? こうゆう顔が好きなんだよな。
 いつも何もかも分かってる大人な顔だけど、こうゆう時の子供っぽい顔がさ。
「ほら、火」
 煙草を落とさぬように、指さしながら言うとバルドルは「え」と声を出し、少し間を開けてから自分も口に煙草を加えてボクの方へ寄る。
 顔が近い。
 光の神という名が相応しい、金色の髪に瞳。寂しい夜を輝かせる、あの月のような色。死ぬまで眺められそうだ。
「……」
「……」
目が合った。
そしてバルドルの煙草にも、顔にも火がつく。火がつくとすぐバルドルは顔を離し、何ともなさそうに煙草を吸い、煙を夜空に向かって吹きかける。
口が、寂しい。
「バルドル」
「なん--っ!」
 君の唇は、いつも柔らかくて甘い。
 でも今は、少し苦かった。

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