銀魂カプなし小説


「おい新八、神楽。お前ら、お通ちゃんと酢こんぶの好きなとこ言ってみろ」


いつもと同じ、明るい光の射し込む事務所兼居間の椅子にどっかりと腰を下ろして、向かいのソファに座る従業員兼家族の二人に尋ねてみる。
ちなみに、もう随分高いところにある太陽は、今が昼を少し過ぎたくらいの時間であることを告げている。真っ当な人間ならとっくに活動を始めている時間帯だ。
いや、俺達だって昼過ぎからはちゃんと(珍しく)仕事が入っているのだ。しかも犬の散歩と屋根の修理の二つ。そして俺は屋根の修理を一人で担当することになっているから、犬の散歩は子供達に任せてある。ちなみに俺の方が先に出掛けることになっている。
二人だけで仕事をさせるのは少しだけ不安が残るが、きっとやり遂げてくれるだろう、多分。
そんな、仕事に行くまでの気の抜けた時間だから、三人とも特にすることも無く手持ち無沙汰だった。
だから俺の急な質問にも、二人は驚きつつも真剣に考えているようだった。
「うーん…あり過ぎて困るけど…歌に対する真摯な姿勢と、聞くと楽しくなれるような可愛い声に可愛い顔、と社会に訴えかけるものがある素晴らしい歌詞…とかですかね」
腕組みをしてうんうんと唸りながら考えていた新八は、そう答えた後ほんのり頬を赤らめた。
確かに、お通ちゃんの根性や可愛さは認められるけど、あの歌にメッセージ性なんてあったっけ?なんか意味の分からない歌詞じゃなかったっけ?
妙に納得できない気持ちでいると、新八の向かいに座る神楽が
「新八キモいアル」
の一言と蔑んだ目で片付けてくれたので、俺もそれ以上考えるのをやめた。下手に突っ込んでも面倒くせぇだけだし。
「お前は?酢こんぶの好きなところ」
気を取り直して今度は神楽に問う。
「世の本質を現しているかのごとくクセになる酸っぱさと、食べるごとに段々と減っていく残りの枚数を数えては切ない気持ちに浸れるところアル」
「共感ポイントが全くねぇんだけど」
「あと安いとこアルな」
「そこだけ妙にリアルだな、オイ」
すらすらと淀みのない口調で述べる神楽は、分かるでしょ?とでも言いたげな表情だ。
いや、ワケ分かんねぇよ。あと年頃の娘が酢こんぶなんかに切なさを感じてるのはどうかと思う。
神楽の隣で新八も苦笑を洩らしている。
しかし、まるで最初から答えを用意していたかのように、さらりと答えを寄越した姿には驚嘆した。さっきの新八とは大違いだ。
「いつ誰に酢こんぶの魅力を語るように頼まれてもすぐ答えられるように、前から考えておいたアル」
「考えてたのかよ!俺の感動返しやがれ!あとそんなこと頼むやついねぇよ、多分」
「それはいいですけど、どうしたんですか、急にそんなこと聞いて」
二人は訝しむような目を俺へと向ける。
こういう事は、問い質されると言いにくい。それに理由がくだらなければ尚更だ。
「もしかして寺門通親衛隊に入りたいんですか?今まで散々僕のことバカにしてたくせに、とは思いますけど、まぁ許してあげてもいいですよ」
「誰がんなモン入りたいっつったよ、オタクダメガネ。つか何でそんな上から目線?」
「じゃあ何でアルか?まさか、私の酢こんぶ親衛隊に入るために…」
「入らねぇよ、そんな酸っぱそうな隊。だいたい、お前はいつそんな集団を作ってたんだよ」
「ちなみに、私が隊長で、銀ちゃんが隊員一号アル」
「俺以外に隊員いねーのかよ!いや、俺も入ってないけど‼︎」
きっと何人か友達を勧誘したけれど断られたのだろう、悲しき酢こんぶ親衛隊隊長である。

「それで、結局何だったんですか」
「…テレビで言ってたんだよ」
首の後ろを掻きながら答える。
「好きなところを言語化できるようなモンは、その要素を持った他のモンに置き換えが出来るから、本当に好きってことにはならないんだと。本当かどうかは知らねぇけど。」
「ふーん…」
この話、実はついさっきの昼飯の時に言っていたのだけど、おかずの取り合い(というか神楽が一方的に奪っていた)をしていた二人は見ていなかったのだろう。まぁ俺も結野アナの天気予報の次のコーナーでやってたから、ちょうど目に入っただけなんだけど。
つまり俺自身もたいして深い意味もなく、ちょっとした暇潰し程度に聞いた質問だった。だから。

「うーん…それはなんか、ちょっと違うんじゃないかなぁ…」
「私もちょっと違うと思うアル」
そんな真剣な口調で反論されるなんて思ってなかった。
せいぜい新八が「そんなの嘘ですよ!僕のお通ちゃんへの想いは本物です‼︎」とか何とか鼻息を荒くし、ながら叫んで、神楽も「そうアル!私だって酢こんぶに対する想いは本物アル‼︎」などと言いその想いをポエムに詠んだり、といういつも通りの阿呆らしいやりとりになる程度だと思っていた。
だから、思い掛けず真面目な顔つきになった二人が、何を考えているのかを知りたくなった。
「何がどう違うんだよ」
「うーん、なんだろう、言葉にするのは難しいんですけど…」
またまた腕を組んで唸り始めた新八の横で、今度は神楽も考え込んでいた。

「例えば、僕が林檎が好きだったとして、その好きなところとして丸いところ、赤いところ、甘酸っぱいところをあげたとしますよね?」
「けど、それに当てはまる果物って、丸いなら梨、赤いなら苺、そんでほとんどの果物が甘酸っぱいのが
売りネ」
「でも、それらを全部ひっくるめたものって言ったら、やっぱり林檎なんです」
二人の喋りは、自分自身も頭を整理しながら話している、といった様子であった。頭の中のモヤモヤをなんとか形にしようとしてうるうちに、それが一つのまとまった考えとなって言葉にされている、みたいな。
そんな頼りなさげで曖昧な言葉だけど、言っていることは分かる。
「それに、丸いのも赤いのも甘酸っぱいのも、一言で言えば同じアルけど、林檎には林檎にしかない丸さと赤さと甘酸っぱさがあるネ」
「そう、そうなんです、林檎であるからこそそれが魅力として映って、林檎だから好きになるんです」
「つまり、好きなところっていうのには、‘‘林檎だから”っていう大前転が含まれてるアル」
「いや、大前提な。そんな体操の技みたいなモンは含んでないだろ」
神楽にツッコミを入れつつ、二人の言う事を頭の中で反芻する。

林檎のもつ特徴だから、好きなところとなる。
林檎だから、好きになる。

なるほど、そんなものか。
それなら確かに、いくら好きなところを言葉にできたって、違うものになんか置き換えられない。
そんなこと出来るはずがない。
だって、違うものでは意味がないのだから。その‘‘好きなところ”が輝く場所はたった一つ、林檎だけだから。
「確かに、好きってそういうもんなのかもな」
思わずそんな言葉を零してしまうくらい、その理論は俺の胸にすとんと落ちた。
そんな俺の様子を見て、新八と神楽は得意げに笑っている。
テレビからは相変わらず賑やかな音が聞こえていたけど、もう誰もそちらを見てはいなかった。

「林檎といえば、僕が熱を出した時はいつも姉上が剥いてくたの、嬉しかったなぁ。まぁ、大抵焦げてましたけど」
どこか遠くを見ながら思い出を語る新八は、柔らかい笑みを浮かべている。麗しき姉弟愛だとは思う。だけど、
「いや、良い話っぽいカンジだけど、何で林檎が焦げてんの?」
「僕の熱が移ったみたいで、ちょっと熱っぽかったらしいです」
「どんだけ高熱だったんだよ。素材を殺す達人か、アイツは」
「流石アネゴアルナ」
前に寿司を握った時もだけど、加熱の必要もない、ただ剥くだけの林檎まで暗黒物質化するとは恐ろしい人間だ。やっぱり呪いか何かをかけられてんじゃねぇの。
「けど、そういった思い出なんかも、林檎じゃないと成り立たないものなんですよね」
「そーいうもんアル。他のモンは持ってない思い出なんかが詰まってて、それが好きを形づくってるネ」
「れっきとした、置き換え不可能な好きの理由ですね」
確かに。
林檎に詰まっている思い出ってのは、当たり前だけど林檎しか持ってない。林檎じゃなきゃ成り立たない。
そしてその思い出は、さっきの新八のように、好きの理由となる。
つまり好きなモンが持ってる思い出とは、それが置き換えできない理由の一つ。

「考えてみると確かに、好きなところが言えたからってその要素がある違うモンには代わりは務まらねぇな」
「そうなんです。好きなところって言うのは、それが持ってるからこそ意味があるんですから」
「新八の言う通りアル!」
ふふん、と鼻を鳴らしながら子供達は胸を反らす。そのちょっと自慢げな態度に、いつもなら悪態をついたりからかったりして、そしてそれをきっかけにじゃれ合うみたいな馬鹿騒ぎを始めていただろう。
だけど、今は素直に二人の得意げな様子を受けとめられる。

それくらい、二人の『好きなモンの特徴だからこそ好きなところになる』という理論は俺にとって目からウロコで腑に落ちるものだったから。

「あぁ、お前らの言う通りだな」

思わず肯定の言葉を零していた。
それを聞いた新八と神楽は、俺の素直な返事に驚いたようで、目を丸くして顔を見合わせている。それから二人はクスっと笑った。
何だ、珍しく俺が素直に褒めてやったのに。
「…何笑ってんだよ」
問いかける言葉は少し拗ねたみたいな口調になってしまった。
すると、新八と神楽はこちらへと顔を向けた。その二人の表情はとても穏やかで優しいもので。思いがけないその表情に、少し面食らう。
どうかしたのか。
そう声をかけようとした、その時。

「銀さんもですよ」
「え?」
「銀ちゃんも、私達にとって、他とは代えられない大事で大好きなものアル」

え。
ちょっと待って、何この流れ。
言われた言葉が頭に浸透してくると同時に、顔に血液が集中してくる。
予想外の言葉に赤くなって照れてるトコなんて見られたくない。
だから「急に何言ってんだ」なんて茶化そうとしたけど、いささかタイミングを逃してしまった。と言うか、笑って誤魔化したりなんか出来るような空気じゃない。
とりあえず何か言わなければと口を開くも、結局言葉は見つからなかった。
そんな俺の様子を見て、二人はまたクスリと笑った。
「僕らは、ね。銀さんの、捻くれた態度をとるくせにホントは温かいところも」
「普段はパのつくチンコいじったりしかしないグータラなくせに、いざという時には馬鹿強いところも」
「大抵は下ネタとかギリギリな発言ばっかりなくせに、たまに恰好いいカンジの説教なんかしちゃうところも」
「素っ気ない態度を装ってるくせに、全部を抱え込もうとする不器用なところも」
「自分だって傷ついてるくせに、必死で僕らを護ろうとする、馬鹿で優しいところも」
「おいちょっと待て、何この小っ恥ずかしい流れ。つーかなんで全部一旦貶してからなの⁈」
次々と挙げられる恥ずかしい言葉の数々に耐えられなくなり、声を上げる。
「銀さんに駄目なところは必要不可欠ですからね」
「マダオじゃない銀ちゃんなんて銀ちゃんじゃないネ」
「何それ酷くね?」

「でも、そういう良いところも駄目なところも」
「全部ぜーんぶ引っくるめて、銀ちゃんが好きアル。他にも、どこが好きかを言葉にしようと思えばいくらでも言えるネ」
「でも、今言った事は全部、銀さんの持ってるものだから輝いて見えるんです。だからいくら好きなとこを言葉に出来ようとも、銀さんの代わりなんて無いんです」
「…側にいたいって思うのも、護りたいって思うのも、銀ちゃんだからヨ。銀ちゃんだから、好きになったアル」

窓から射す光が二人の顔を輝かせている。その表情が、秋の太陽にも負けないくらい、優しくて、あったかくって。
…もうさ、本当、何なんだよ。そんな言葉、反則だろ。
だってさっき俺は、コイツらの話を聞きながら、俺もコイツらにとって代えの効かない好きなモンであれたらいい、なんてことを考えてたんだ。
そしたら、そんな俺の頭の中を分かってるみたいにそんな事言ってきて。
…本当に、いつだってコイツらは俺が欲しいと思った言葉をくれるんだ。
へへ、と照れたように新八と神楽が笑った。それがなんだか眩しく見えて、思わず目を細めた。二人の笑顔が光を帯びてる気がするのは、秋の暖かい太陽に照らされてるから、ってだけじゃあないんだろうな、きっと。

俺だから好きって、銀さん銀ちゃんだから好きなんだって。
そんなの、なんて最高な好きの理由なんだよ、ホント。
赤くなっているであろう顔を、口元に手の甲を当てて隠す。とは言っても、照れてることも、ちょっと、本当にちょっとだけ泣きそうになってることも、コイツらはお見通しなんだろうけど。

「…こんな事言うの、本当はちょっと恥ずかしかったですけど」
歪んだ視界の中の新八が言う。その表情ははっきり見えないけど、照れてることは声音から分かった。
「でも、今日くらいは素直に気持ちを伝えてやってもいいかなって思ったアル」
神楽もまた照れくさそうな声だ。
「…今日くらいは?」
神楽のその言葉が引っかかった。今日って、何かの日だったっけ?
「やっぱり覚えてなかったんですね」
苦笑混じりの新八の言葉を聞き、ますます疑問に思った。

その時、わん!という声と共に首に何かが掛けられた。いつの間にか横に来た定春の仕業だろう。手に取って見ると、それは折り紙を輪っかにして作ったレイだった。

「銀さん」「銀ちゃん」
二人の声に呼ばれ、顔を上げる。

「誕生日、おめでとうございます」
「誕生日、おめでとうアル!」
「わん!」

はっとしてカレンダーに目を遣る。そこに示された日付けは、十月十日。
歪んでいた視界が揺れた。本格的に涙が溢れそうになって、慌てて着流しの裾を顔に押し当てる。
もう、本当にやめてほしい。いい年こいて誕生日祝われて泣く姿なんて見せらんねぇから。
「本当は夜のサプライズパーティまでは何も言わない予定だったアル。けど、ちょうどお祝いするのにぴったりな流れになったから」
照れくさそうに、神楽が人差し指で鼻の下を擦りながらニヒヒっと笑った。
「何だよ、いつもはそんなこと言わねーだろ。こんな時ばっかり素直になりやがって」
自分達だって照れてるくせに、小っ恥ずかしい、けど嬉しい言葉を連ねる二人に、思わず憎まれ口を叩く。
「こんな時だからですよ。銀さんが生まれた特別な日だから、素直になれるんです」
「ちゃんと、いつも心にあるものを伝えたいって思ったのヨ」
グズっと鼻をすすりながらそう言った新八と神楽の声もなんだか湿って聞こえた。
「それに、そう思うのは、銀さんの誕生日だからなんです」
「銀ちゃんの、大好きな人の誕生日だからきちんとお祝いしたいと思うネ」
もう本当、頼むからこれ以上そんな胸の中があったかいものでいっぱいになるようなこと、言わないでほしい。さっきから涙腺が崩壊しっ放しだ。
「…お前ら、よく恥ずかしくならねーな」
「だって本当のことですもん」
「それに一回めっさ恥ずかしいこと言っちゃえば、いっそ恥ずかしくなんかなくなるネ。何事もノリが重要アル」
…ノリが重要、か。
それなら俺も、この小っ恥ずかしくてあたたかいノリに合わせて言ってしまおうか。
俺だって、きちんと伝えたいことがあるのだから。
「…ありがとよ、俺の誕生日祝ってくれて。俺のこと、他とは代えられない好きなもんだって言ってくれて」
ここまで言うだけで、俺の顔は真っ赤になっていることだろう。だけど、ちゃんと二人を見ながら伝えたい。
いつもは捻くれた銀さんの珍しく素直な言葉、とくと聞きやがれコノヤロー!

「俺だから好きなんだって言ってくれたこと、ほんとに嬉しかったぜ」

確かに、ノリで言ってしまえば案外素直になれるもんだ。
だけど、その俺の言葉を聞いていた新八と神楽は耳まで赤い。
それから、二人ともしきりに目を擦っていて、グズグズと鼻をすする音もさっきより頻繁に聞こえてくる。
ほらみろ、聞いてるヤツは照れるだろう。
「祝う立場のヤツが泣くなよな」
「なっ、泣いてなんかいませんよ!これはちょっとさっきのお昼の味噌汁が逆流しただけです!」
「そうアル、口から出すはずだったもんがちょっと間違ったところか
出てきただけアル!」
「口から出すって、それいつものお前だろ。ただのゲロインだろ」
「レディに向かって失礼アル!それに銀ちゃんだって泣いてたの知ってるネ!」
ズビズビといいながら二人は反論してくる。

「あぁ、泣いたよ。けど、誕生日祝われて泣くほど嬉しいって思ったのは、お前らから、大事なヤツらから嬉しい言葉で祝ってもらったからだから。お前らの言葉だったからだぜ」

言ってしまってから猛烈な恥ずかしさに襲われたけど、これが俺の本心だ。どんなに恥ずかしくても伝えたい、俺の本当の気持ちなんだ。
二人の顔を見る。するとそれはみるみる歪んでいって、それから目から鼻からと大量の液体を流しだした。顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにして、それでもとても幸せそうな顔で笑っている。
「さっきの嘘です!僕らのこれも涙ですから!」
「嬉しくって泣いてるんだからナ!」
「いや、なんの宣言だよ。つーか知ってるし」
そう言いながらも、俺に張り合って涙と認めた二人が微笑ましい。
このまま、このあたたかい時間を三人と一匹でずっと共有していたい。けど、時計を見るともう俺は仕事に出掛けないといけない時間だ。まぁ、このまま顔を突き合わせてるのもちょっと気恥ずかしいものがあるし、ちょうど良かったのかもしれない。

「じゃ、俺は仕事行ってくるから。お前もちゃんと顔洗ってから遅れないように仕事行けよ。あと、仕事頑張ってこいよ」
声をかけ、玄関に向かおうとすると、背中に
「いってらっしゃい!銀さんも気を付けて!」
「夜はご馳走だから、ちゃんとお腹空くまで働いてくるヨロシ!買い食いしちゃ駄目アルヨ!」
と、まだ鼻声ながらも威勢の良い労いの言葉がかけられる。
それにヒラリと手を振って応え、家を後にした。


秋晴れの空の下を一人歩く。
途中で首元に付けっ放しにしてしまっていたレイに気付いた。
けど、外す気にはならなかった。恥ずかしいとは思ったけど、まぁいいかと思い直すくらいに俺は明るい気分だったから。
それにこれは、あいつらが俺の生まれた日を祝ってくれた証だ。外してしまうのはなんだか勿体無い。
明るく優しい太陽の光を浴びながら、澄んだ爽やかな空気を吸い込む。
そこではたと気がついた。

ふわりと包み込むようなあたたかさと、凛とした純粋さ。
秋の空気は、あいつらに似ている。

そう思った途端に、秋のちょうど真ん中あたりの自分の誕生日が、重要な意味を得たように思えてくる。今日という日に、愛しさが込み上げてくる。
こんな事は流石に恥ずかしい過ぎてあいつらには言えねぇな。
天パ頭をガシガシと掻いて照れ隠し。
それから、大きな伸びを一つしてまた秋の空気を吸う。なんだか晴れ晴れとした気持ちが体中に広がっていくようだ。

夜もパーティがあるらしいから、神楽の言った通りがっつり働いて腹を空かせなくちゃいけねぇな。
またあいつらと、あのあたたかい時間を過ごせる近い未来を思うと自然と顔が綻ぶ。

側にいてくれることを思うだけで、こんなにも、穏やかで優しい気持ちになれる。
そこにいるのが、新八と神楽だから。

それが、好きの理由。

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