銀魂GL小説
同じ髪型のはずなのに、どうしてこんなにも違うのだろう。
目の前でゆれる妙ちゃんの髪を眺めながら、ふとそんな疑問が脳裏に浮かんだ。
よく晴れた昼下がりの、かぶき町の大通り。そこに軒を連ねたうちの一軒のお店の店先には、所狭しと簪やら櫛やら髪紐やらが並べられている。色とりどりのそれを詳しく吟味している妙ちゃんはひどく真剣な眼差しだ。お店でつけるものを選んでいるらしい。それを見つけるために、今日はふたりだけでしょっぴんぐにやってきたのだ。
あれやこれやと色々なものに目をやるから、そのたびに彼女の頭の後ろで高く結われた髪がゆれる。したたかで強い一面も持ち合わせている彼女だけど、清くて柔らかな部分も多くあることを、僕は知っている。彼女の清楚な外見は、そんな内面をよく表しているように思う。だからこそ、彼女には高く結われた長い髪がこんなにもよく似合っているのだろう。
ふるりと頭を振り、自分の真っ黒な髪を一房つまむ。真っ直ぐで素っ気ない手ざわりのそれは、やわく滑らかな妙ちゃんのそれとはまったく違うのだ。
「ねぇ九ちゃん、こっちの桃色のとこっちの赤色の、どっちがいいかしら」
振り返った妙ちゃんが愛らしくコテンと首を傾ける。
正直、あまり装飾品の類とは縁がないから、どっちの方がよく似合うのか判断できる自信はない。
「妙ちゃんなら、どっちだってよく似合うと思うよ」
苦笑しながら正直な感想を告げる。我ながらあまり参考になる意見ではないなと思うが、それでも妙ちゃんは「もう、九ちゃんったら」と嬉しそうに頬を染めた。喜ぶ彼女の姿に、僕の頬まで緩んでしまう。
「うーん……やっぱり赤色の方がきれいね」
心に決めたひとつが選べたようで、彼女は満足そうに笑った。手に取ったものを見せてもらう。赤い花をかたどった飾りの下できらきらの蜻蛉玉が揺れているのがきれいで、確かに妙ちゃんの美しい髪によく映えるだろう。
「うん、妙ちゃんによく似合うと思うよ」
「そうだ、九ちゃんもお揃いにしましょ」
ぱん、と両手を鳴らした妙ちゃんが弾んだ声を上げる。
「でも、僕にかんざしは……」
きっと妙ちゃんのようには似合わない。だって、僕と妙ちゃんは、あまりにも違うのだから。俯くと、彼女は「違うのよ」と微笑んだ。
「男装のときでもつけられるように、髪紐にしたいの。私とお揃いの、赤い色の」
いつのまに見つけていたのか、彼女の手にはところどころに控えめに花の模様が施された、赤色の髪紐があった。妙ちゃんの選んだ簪とお揃いのそれはとても魅力的だ、けれど。
「……僕なんかに、似合うかな」
自信が持てず、小さく呟く。
「当たり前じゃない」
あまりにもきっぱりとした声だった。顔を上げると、妙ちゃんはにっこりと笑った。
「だって私が選んだのよ」
胸を張る彼女の姿に、後ろ向きな気持ちがみるみるうちに萎んでいくのを感じた。それが優しい彼女のお世辞ではなく、本心なのだと分かったから。
「凛として美しい髪紐だから、きっと九ちゃんらしさによく似合うわ」
柔らかく微笑む妙ちゃんに、胸の奥にじんわりとぬくもりが広がっていく。彼女は、僕の抱える『僕らしさ』をそう捉えてくれている。そのことに、心に羽が生えたようにふわふわとした心地になる。
「ありがとう。じゃあ僕もこの髪紐、つけるよ」
「ふふ、お揃いね」
隣を歩く妙ちゃんの髪の上でゆれる赤い簪。お揃いの、よく似た髪紐が自分の髪の上でもゆれていることに、僕はふふ、と頬を緩ませた。
目の前でゆれる妙ちゃんの髪を眺めながら、ふとそんな疑問が脳裏に浮かんだ。
よく晴れた昼下がりの、かぶき町の大通り。そこに軒を連ねたうちの一軒のお店の店先には、所狭しと簪やら櫛やら髪紐やらが並べられている。色とりどりのそれを詳しく吟味している妙ちゃんはひどく真剣な眼差しだ。お店でつけるものを選んでいるらしい。それを見つけるために、今日はふたりだけでしょっぴんぐにやってきたのだ。
あれやこれやと色々なものに目をやるから、そのたびに彼女の頭の後ろで高く結われた髪がゆれる。したたかで強い一面も持ち合わせている彼女だけど、清くて柔らかな部分も多くあることを、僕は知っている。彼女の清楚な外見は、そんな内面をよく表しているように思う。だからこそ、彼女には高く結われた長い髪がこんなにもよく似合っているのだろう。
ふるりと頭を振り、自分の真っ黒な髪を一房つまむ。真っ直ぐで素っ気ない手ざわりのそれは、やわく滑らかな妙ちゃんのそれとはまったく違うのだ。
「ねぇ九ちゃん、こっちの桃色のとこっちの赤色の、どっちがいいかしら」
振り返った妙ちゃんが愛らしくコテンと首を傾ける。
正直、あまり装飾品の類とは縁がないから、どっちの方がよく似合うのか判断できる自信はない。
「妙ちゃんなら、どっちだってよく似合うと思うよ」
苦笑しながら正直な感想を告げる。我ながらあまり参考になる意見ではないなと思うが、それでも妙ちゃんは「もう、九ちゃんったら」と嬉しそうに頬を染めた。喜ぶ彼女の姿に、僕の頬まで緩んでしまう。
「うーん……やっぱり赤色の方がきれいね」
心に決めたひとつが選べたようで、彼女は満足そうに笑った。手に取ったものを見せてもらう。赤い花をかたどった飾りの下できらきらの蜻蛉玉が揺れているのがきれいで、確かに妙ちゃんの美しい髪によく映えるだろう。
「うん、妙ちゃんによく似合うと思うよ」
「そうだ、九ちゃんもお揃いにしましょ」
ぱん、と両手を鳴らした妙ちゃんが弾んだ声を上げる。
「でも、僕にかんざしは……」
きっと妙ちゃんのようには似合わない。だって、僕と妙ちゃんは、あまりにも違うのだから。俯くと、彼女は「違うのよ」と微笑んだ。
「男装のときでもつけられるように、髪紐にしたいの。私とお揃いの、赤い色の」
いつのまに見つけていたのか、彼女の手にはところどころに控えめに花の模様が施された、赤色の髪紐があった。妙ちゃんの選んだ簪とお揃いのそれはとても魅力的だ、けれど。
「……僕なんかに、似合うかな」
自信が持てず、小さく呟く。
「当たり前じゃない」
あまりにもきっぱりとした声だった。顔を上げると、妙ちゃんはにっこりと笑った。
「だって私が選んだのよ」
胸を張る彼女の姿に、後ろ向きな気持ちがみるみるうちに萎んでいくのを感じた。それが優しい彼女のお世辞ではなく、本心なのだと分かったから。
「凛として美しい髪紐だから、きっと九ちゃんらしさによく似合うわ」
柔らかく微笑む妙ちゃんに、胸の奥にじんわりとぬくもりが広がっていく。彼女は、僕の抱える『僕らしさ』をそう捉えてくれている。そのことに、心に羽が生えたようにふわふわとした心地になる。
「ありがとう。じゃあ僕もこの髪紐、つけるよ」
「ふふ、お揃いね」
隣を歩く妙ちゃんの髪の上でゆれる赤い簪。お揃いの、よく似た髪紐が自分の髪の上でもゆれていることに、僕はふふ、と頬を緩ませた。
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