銀魂BL小説
目を覚ますと、隣にあるはずのぬくもりがなかった。代わりに、窓越しに射し込んだ太陽の光があたたかさを伝えてくる。頬に落ちるその金色の光に、そっと目を細める。
ちゅんちゅん、とさえずる雀の声に、枕元に置かれた趣味の悪い時計を見遣る。するといつもの起床時間より一時間ほど遅い時刻だった。それでも、朝礼も朝稽古もないのだからまだまだゆっくりしていられる。ふぁ、と欠伸をこぼしつつ自分のではない匂いのする布団を掛け直す。
しばらくそうして微睡んでから、やっとあたたかな布団から這い出した。ぺちゃんこな布団を畳もうとしたけれど、ふと動きを止める。これだけ良い天気なのだから、布団を干した方がいいだろう。そう考えて掛け布団だけ残しておいた。玄関の前にある柵に大きい布団と小さい布団を並べて干してある光景は、何度見てもなんだかふわふわとした気持ちになる。巡回中に、三人で大騒ぎしながらそれらをぱんぱんと叩いている場面を目撃するのもすきだ。だけど、今日は一緒にぱんぱん出来るかもしれない。そう思うと、昼過ぎになるのが楽しみだ。
それから簡単な身支度を済ませた後、彼がいる場所へと向かう。ガラリと引き戸を開けると、ここにも朝の光があふれていた。あたたかい光が彼の姿を照らしている。トントン、とかシュー、などの音の真ん中で、彼がこちらを振り返った。
「おはよう、土方」
銀髪に柔らかく光を反射させながら、彼はちょっと笑った。まぶしくて思わず目を細める。
「ん」
おざなりに返事をしつつ、彼の手元を覗き込む。玉子焼きを切っているところであったらしく、まな板の上には黄色いかたまりがいくつも乗っていた。脇にある鍋では味噌汁が作られている。どれも美味しそうだ。
「なんか手伝うか?」
「うーん、じゃあ味見してもらおうかな」
そう言って口元に運ばれた黄色にぱくりとかぶりつく。この家独特のちょっと甘めのそれにも、もう慣れた。優しい味をゆっくりと噛みしめる。
「うん、美味い」
「よかった」
また彼はふっと笑う。何度も彼の作る食事を食べたし何度も今みたいなやり取りを繰り返してきたのに、そのたびに彼は安心したように笑うのだ。
「もうすぐ出来上がるし、多分もうそろそろアイツらも来るだろうから居間で待ってて」
「わかった」
うなずいて、居間へと移動する。台所から聞こえてくる音に耳を傾けつつ、机に置かれていた新聞を読む。
しばらくして、外の階段を上がってくる足音と賑やかな話し声が聞こえてきた。
ガラリと玄関の戸が開く音に続いて、子供たちの声が響く。
「銀ちゃん、トシ、おはようアル!」
「銀さん、土方さん、おはようございます」
「ワン!」
二人と一匹分の挨拶に返事をすると、台所からも同じような返事が続いた。
「ちょうど良かった、居間に朝飯運んでくれ」
子供たちに向けられた彼の言葉に、子供たちの了承の言葉が返される。それらを聞きながら新聞を畳んで腰を上げる。それから台所に向かい配膳係に合流する。
つやつやのご飯、湯気をたてる味噌汁、さっき味見した玉子焼きに加えて、ふっくらした鮭やサラダも次々と机の上に顔を揃える。全員分の朝食が並べられたところで、みんなで机を囲んで手を合わせた。
昨日の出来事を身ぶり手ぶりで話す神楽の声や、それにツッコミを入れる新八の声、相槌を打つ彼の声を聞きながら、彼のつくった食事を食べる。
あたたかな太陽の光、賑やかな話し声。のんびりと流れる空気。そのどれもが、ひどく優しい。
尊敬する大将の傍らで、信頼する仲間たちと共に、信念のもとに刀を振るう。それは、確かに自分で選んだ自分の道だ。だけど、時々この陽だまりのような場所で過ごすのも、けっして悪くないものである。
彼のいる場所に、自分の居場所がある。
そんな幸せを噛みしめる。
あふれんばかりのぬくもりに、そっと頬が緩むのを感じた。