銀魂BL小説


 川沿いの柳をゆらした木枯らしが、下手くそな口笛のような音を立てて通りすぎてゆく。寒々しいその音に身を震わせて、銀時は首に巻いた青色のマフラーを口元まで引っ張り上げた。それでもなお頬を掠める冷たい風に肩をすくめつつ、はぁっと手の平に息を吹きかけてみる。白く光ったそれは、瞬く間に手のひらの中に溶けていった。残された微かなあたたかさを惜しむようにきゅっと手を結ぶ。
 すっかり陽も沈みきり、深い瑠璃色に染め上げられた夜の入り口。空には針で突いたような小さな星が瞬いている。そんな時分に、銀時は待ち合わせをしていた。場所はいつもの橋の上。相手は、半年と少し前から付き合っている恋人。
 その恋人はなかなかに忙しく大変な仕事に就いているから、今日のように一緒に出掛けることも多くはない。そんな訳で、久しぶりの逢瀬を待ちきれず待ち合わせ時間の前にいそいそと出掛けてきたのであった。
 まだかまだかと首を長くしながら、橋の向こうを行き交う人影に目を凝らす。そわそわと浮きたつ心を抱えたまま、彼の人の顔を思い浮かべてみる。いつもは無愛想な仏頂面だが、銀時が先に来ていることが分かると慌てた顔になるかもしれない。それを想像すると、寒さに強張っていたはずの頬が思わずへらりとゆるんでしまう。
 こんな調子じゃあ、今日も土方を問い詰めることなんて出来そうもないなぁ。
そう胸の中で呟いた銀時は、溜め息まじりの白い息を吐きだした。



「なぁ、最近土方が全然触ってこないんだけど、どういうことだと思う?」
「はぁ?」
 二時間ほど前のことである。
 夕焼けの光が射し込み、柔らかなオレンジ色に染まる万事屋の居間。その社長椅子で頭を抱える銀時の突然の問いかけに、従業員たちはそろって素っ頓狂な声をあげた。
 この二人には、土方と付き合いだした当初にきちんと報告を済ませてある。もし拒絶されたら、という不安も微かに胸にあったけれど、同時にこの二人ならきっと受け入れてくれるだろうという確信もあった。そして打ち明けたとき、やはり彼らは笑顔で祝福してくれたのであった。その対応には救われたし、正直なところ頼もしいと感じたほどである。
 しかし今、呆れた様子を隠そうとともせずにジト目でこちらを見つめる彼らには、微塵も頼もしさなんて感じられない。
「そりゃあ、天パが移るとでも思われてんじゃないスか」
 ズズッと茶を啜りながら投げやりに寄越された言葉に、銀時のこめかみにピキリと青筋が浮かんだ。
「うるせーダメガネ!お前こそ眼鏡が移りそうな顔してんじゃねーかこの眼鏡掛け器が!」
「ちょっと!それが相談する人の態度ですか!!」
「テメーさっきの自分の言葉思い出せ。アレが相談される人の態度ですか」
 いきり立つ眼鏡を尻目に、銀時はフンと鼻を鳴らす。器物の分際で人間様に楯突こうなんざ、百年早いのだ。
「大の大人がそんな中学生みたいなことで悩んでるなんて情ないネ。さすが爛れた恋愛しかしてこなかった銀ちゃんアルナ」
 ソファに寝っ転がった神楽がジロリと冷たい視線を銀時に向ける。興味なさげな態度のわりに、寄越された言葉はあまりにも辛辣だ。銀時はワッと机に突っ伏した。
「だーー!!!だってほんと全然スキンシップとらせてくんねーんだよォォォォ!!」
 バンバンと両手で机を叩きながら叫ぶ。子供たちにとっては至極くだらないことだとしても、銀時にすればずっと思い悩んできた重大かつデリケートな問題である。そして、そんな重大な問題だからこそ、この二人に相談しているのだ。
 そんな切羽詰まった銀時の様子に、先ほどまでは馬鹿にしたような態度であった子供たちはそろって顔を見合わせた。それから、溜め息をつきながらも少しだけ神妙な顔つきになる。毛程も興味がない話とはいえ、これほどまでに思いつめているのなら相談に乗ってやらないわけにもいかないだろう。
「喧嘩したわけでもないんですか?」
 あまりにもあんまりな銀時の様子を憐れに思い、やっとまともに取り合う気になった新八がそっと尋ねる。しかし、銀時は力なく首を振るばかりだ。
「むしろ喧嘩しなかったことなんかねェ」
「……確かにそうでしたね」
「それはそれでどうかとも思うけどナ」
 傷口に塩を捩じ込もうとする神楽の口を新八が慌てて塞ぐ。またギャーギャーと喚きだされたら面倒くさいことこの上ない。
「もともとスキンシップが好きじゃなかったとか?土方さんて、あまりベタベタするタイプじゃなさそうですし」
「いや前までは普通だった」
 新八の問いかけを、銀時は不貞腐れたように一蹴する。
 確かに、突然恋人からのスキンシップが無くなれば悩むのも無理はないかもしれない。新八は少しだけ銀時に同情した。
「ていうかスキンシップがないって具体的にどういう状況ネ」
「え、そんなこと聞いて…」
 神楽の投げかけた質問に、新八はぎょっと狼狽える。具体的にって、そんなことを聞いて大丈夫なのか。藪をつついて蛇どころか二匹のオマタノオロチが出てきやしないか。そんな新八の焦りをよそに、銀時は顔を両手で覆ったままグダグタと語りだした。
「手握ろうとしても断られるしさァ、ほっぺ両手で挟んでモニモニしてもプイって顔背けられるだけだし。それに、前までは俺の頭もふもふすんの好きでよく触ってきてたのに最近は全然もふもふしてくんねーし……」
 覇気のない声で語られるそれらを聞きながら、新八はだんだん顔が強張っていくのを感じていた。大人の男二人の恋愛にしては可愛らしすぎやしないか。あんまり生々しい話をされるのも嫌だが、こんなにも甘々な話を聞かされるのも滅入ってしまう。
 知り合いの惚気話ですらちょっとした苦行なのに、何が悲しくて一応頼りにしている兄貴分とそこそこ尊敬してちょっと憧れさえ抱いていた相手の甘酸っぱい恋愛模様を聞かなければならないのか。まして、付き合う前までは顔を合わせれば喧嘩三昧の二人だったから、なおさら気恥ずかしさが込み上げる。新八は思わず鳥肌が立った腕をさすった。
「喧嘩三昧だったお前ら二人がそんなことしてたと思うとゾッとするアルナ」
 うわぁ、と小さく声を漏らした神楽が若干青ざめながら呟く。同じことを考えていたらしい神楽に、新八は共感と同情のこもった眼差しを向けた。
「……あんたたち案外可愛らしい付き合いしてたんですね」
「今どき小学生の方がもっと進んでるアル」
 若干顔を引きつらせている二人をよそに、銀時はいまだ頭を抱えたままである。楽しかった頃の思い出を反芻すればするほど、土方に触れられない今の状況が身にこたえるのだ。
「確かにさぁ、些細な触れ合いだとは分かってるよ?でも、だからこそそーいう触れ合いを大事にしてたんだよ……」
 悲壮な面持ちでポツポツとこぼされる銀時の言葉に、新八と神楽はまた顔を見合わせた。うじうじと膝を抱える銀時の様子は確かに情けないが、それほどまでに思い悩んでいることは伝わってくる。
「銀さんの気のせいかもしれないし、もうちょっと様子を見てみたらどうですか?」
 なんとかフォローすべく、新八は穏やかな声で宥めてみた。実際、銀時の甘々な話を聞くかぎり土方が彼に愛想を尽かしたとは考えにくい。それなら銀時の勘違いである可能性も高いのではと考えたのだ。
「どうしても気になるなら直接聞いて確かめてみればいいアル!話し合わなきゃ解決できないネ」
 ぐっと力こぶを作った神楽は喝を入れるように元気な声を上げる。サッパリとした性格の彼女らしいアドバイスだ。
 二人のアドバイスを受けて、銀時はやっと小さく笑みを浮かべたのであった。



 家を出てくる前に交わされたそれらのやりとりを思い出しつつ、銀時は欄干にもたれかかった。
 なんやかんやと言いつつも相談に乗ってくれた新八と神楽には、一応感謝している。馬鹿にもされたけれど、悩みを吐きだしたことで少し気持ちが軽くなったことも事実だ。
 新八が言っていたように気のせいであればいい。それになにより、また土方に触れられるようになりたい。小さな星が瞬く夜空を見上げて、銀時は祈るように目を閉じた。
 目を閉じたことで敏感になった聴覚が、風の音にまぎれて聞こえる微かな足音をひろった。草履が地面に擦れる音が慌ただしく聞こえてくる。銀時はそっと目を開け、音のする方へと顔を向ける。すると、川沿いを足早に駆けてくる土方の姿が目に入った。まだ結構遠いところにいたのに、彼の足音だけピンポイントで聞き分けられた自分が少し誇らしいような、恥ずかしいような気分である。
 銀時は橋から移動して、駆けてくる土方のもとへと向かった。
「すまねぇ、遅れたか」
 肩を弾ませた土方が申し訳なさそうに眉を寄せる。赤く染まった頬と、吐きだされる白い息がなんだかいじらしい。
「いや、まだ待ち合わせ時間きてねーよ」
「そうか。……でも、待たせて悪かったな。寒かったろ」
 自然に告げられた言葉に銀時はウッと胸をつまらせる。こんな言葉をさらりと言えるなんて、なるほどこれがイケメンか。さすが真選組一のモテ男の称号は伊達じゃない。キュンと疼く胸のうちで銀時は一人納得する。
「いや大丈夫。たった今、お前のおかげで温まった」
「は?意味分かんねェ」
「けど懐の方はまったく暖かくねーから、奢りでヨロシク」
「むしろ俺の奢りじゃなかったことがねーよ」
「あれ、そうだっけ?」
 鋭い眼差しで睨まれるけれど、へらりと笑いながら誤魔化す。
「まったく、ちっとは甲斐性ってモンを見せてみやがれ」
 はぁと溜め息混じりに呟かれた台詞に思わず頬がゆるんだ。
「なんかそれ、旦那を叱る奥さんみたいな台詞だな」
 にやける顔を隠しもせずにそう言うと、「馬鹿じゃねーの」と素っ気なくそっぽを向かれてしまった。怒ったみたいな表情だったけれど、ただの照れ隠しだと分かる。なぜなら、黒髪から覗く耳が両方とも赤く色づいているから。素直なんだか素直じゃないんだか。まあ、そういった複雑でめんどくさいところが可愛らしいのだけれど。銀時は胸がほわりと温かくなるのを感じた。
 ほら、こんな幸せな空気なのに。想っていることも、想われていることも、互いが充分に感じとっている。そんな柔らかさが二人のあいだに漂っているのに。
 やはり勘違いだったのかもしれない、と銀時は結論付けた。
「じゃ、行くか。前行った飲み屋でいい?」
「前って?」
「ほら、あのおでんの美味しいとこ」
「ああ、分かった」
 出汁のしみたおでんの味を思い浮かべたのだろう、土方がほぅ、と頬を緩める。つられるように銀時もゴクリと喉を鳴らした。やっぱり寒いときには温かいものが一番いい。
 冷たい風のなか、二人並んで歩きだす。
 地面の木の葉を舞い上がらせた風が、二本のマフラーの先をもてあそびながら通りすぎてゆく。着物の袖を合わせて腕を組んだ土方は、小さく肩を跳ねさせていた。
「さみぃ」
 尖らせた唇から白い息とともに文句が吐きだされた。拗ねたみたいな様子が微笑ましい。
「本当さみぃなぁ」
「てめー何でもする万事屋だろ、冬を無くすくらいやってみせろよ」
「いくら万事屋といえども季節は操れませーん」
「チッ、使えねーなぁ」
 無茶苦茶で横暴なことを言われたけれど、これも彼なりの甘えなのだと知っている。分かりにくいけれど、これが甘え下手な彼の精一杯なのだ。
「でも寒いからこそおでんと熱燗が美味ぇんだぜ、これこそ冬の醍醐味よ」
「……まぁ、それはたしかに」
 土方は小さく頷いた。
 おでんと熱燗の話をしたからか、余計に腹が減ってきた。それは土方も同じだったようで、心なしか二人とも歩調が速くなっている。やはり似た者同士か、と銀時は苦笑をもらした。
「あ、お前、マフラーが解けかけてる」
 顔の下半分を赤いマフラーにうずめた土方から、くぐもった声で指摘される。
「え、まじでか」
 道理でなんかちょっと首元寒かったんだよなぁと呟きつつ、自分のマフラーへと手を伸ばして。はた、とその手を止めた。
「じゃあ土方が直してよ」
 くい、と首を差し出しながら言ってみる。これは土方の反応を確かめるチャンスだ。銀時は恐々と彼の反応を窺う。
 一瞬ぴくりと固まった土方は、戸惑ったように眉根を寄せて、それからふいと目を逸らした。
「……そんくらい自分で直せ」
 素っ気ない声でそう告げた土方は、すたすたと先に歩きだしてしまう。その後ろ姿に、心臓をぎゅっと掴まれたような気分になる。やはり勘違いではなかったのだ。
 確かに前までの土方も、さっきのような状況において素直に巻き直してくれる可能性は低いだろう。けれど、もっとこう、呆れた顔をするとか、甘えてんじゃねーよって笑うとか、そういった反応を返してくれたはずで。あんな露骨に素っ気ない態度をとるとも考えにくいのだ。
 やはり、土方は触れることを嫌がっているのだろう。それは分かったものの、その理由や原因が思いつかない。もやもやとした思いを抱えつつ、銀時は先を歩く土方に追いつくため歩みを速めた。

 そうこうしているうちに、目当ての居酒屋へと辿り着いた。暖簾をくぐるとと、店のなかに充満していた熱がむわりと体を包む。
「おっ、銀さん土方さんいらっしゃい!」
 威勢のいい親仁の声に片手を挙げて応えつつ、カウンターの隅の席へと座る。
「あー、あったけぇ。生き返ったみてぇ」
 親仁が出してくれたホカホカのおしぼりを、土方は両手で大事そうに包んでいる。しみじみと呟いた土方に「そうだなぁ」と返しつつも、胸にしこりを抱えた銀時には温かさがイマイチ沁みてこない。
「今日は一際冷えるねェ。やっぱり、お二人とも熱燗とおでんかい?」
「ああ。おでんはオススメのやつ適当に見繕ってくれ」
「はいよ」
 親仁と土方の会話を横から眺める。土方の様子はやはりいつもと変わらないように見える。いつも通りに笑っているし、気を緩めているとき特有の少しトロンとした瞳も変わらない。
「はいよ、おでんだよ」
 目の前に差し出された皿を受け取り、二人の真ん中に置く。そして割り箸と辛子を土方に手渡そうとしたとき。彼は恐るおそるといった様子で、銀時が持っているところから離れたところを持った。まるで、手が触れるのを嫌がるように。
 はっきりと分かった。これは気のせいなんかじゃない。ドクリ、と心臓が嫌な音を立てる。銀時は思わず手のひらを握りしめた。
「ん、やっぱ美味い」
大根をつついていた土方がほろりと顔を綻ばせた。
「ほら、お前もはやく食べろよ」
 ほこほこと湯気をたてる皿を示しながら、土方は促すように首を傾げている。
 触れることは嫌がっているわりに、嫌われたわけでも機嫌が悪いわけでもなさそうだ。わけが分からなくて、銀時こそ首を傾げたい気分である。
「ん、食う食う」
 ぐるぐると悩みつつも、促されるままに皿に箸を伸ばす。見るからに出汁がよく沁みている豆腐を口に入れると、隣で土方は満足そうに頷いていた。
 しばらくして親仁が持ってきた熱燗を、二人でくいっと傾ける。杯を重ねるうちに酔いが回ってきたらしい土方は、いつもより機嫌が良い。それでも、前までは酔うと毎回のように銀時の天パ頭をかき混ぜてきたのだが、今の土方の手はカウンターの上で握りしめられたままである。
 その手に触れたい、その手で触れてほしい。そう願うけれど、銀時の手も握りしめたまま動かすことができない。
 なぜ土方は触れることを避けているのか。その理由は分からないままで、分からないからこそ問い詰めるのも躊躇われて。そして結局、気付かないふりを続けてしまう。
 言い出せないまま、たわいない話ばかりをしているうちに時間はすぎていく。
「そろそろ出るか」
 壁の時計をちらりと見やった土方が、手にしていたお猪口を机に置いた。銀時も同じように時計に目をやる。確かにそろそろ出たほうがいいだろう。この後は万事屋でお泊まりの予定なのだ。しかしまぁ、この調子ではただ寝るだけになるだろう。近くにいるのに触れられない、もどかしい夜になるであろうことに銀時は心の内で落胆した。

 会計を済ませ、店を後にする。
 店の中が温かかったぶん、余計に外の冷たさが身に沁みるようだ。銀時はぶるりと肩を震わせた。
 土方も同じように肩を震わせながら、手のひらに息を吐きかけている。白い吐息が一瞬だけ両手を包み、たちまち闇へと消えていく。
 その様子をぼんやりと眺めていると、不意に目に入った土方の指先。その先の、紫がちになっている爪の色。
 もしかして。
 銀時はパッと彼の手をとる。思ったとおりだ。彼の手は、氷のように冷たくなっていた。
 そこですべての合点がいく。
「何すんだ!」
 咄嗟に引っ込めようとする土方の手を、ギュッと握る。しんと沁み入るような冷たさだったけれど、それが彼の温度だと思えばすべて懐かしく愛おしかった。
「なぁ、最近触ってこなかったのって、もしかしてこのせい?」
「っ!」
 びくりと微かに肩が跳ねる。おそらく当たりだろう。自分の手が冷たいから、そんな手で触れると冷たい思いをさせてしまうとでも考えたのだろう。
 ばかだなぁ、と銀時は呆れるように笑った。
自分の手が冷たいのなら、むしろあっためてって、言えばいいのに。触れる口実にでもしてしまえばいいのに。
 けれど本当は分かっている。そんなこと、言えない男なのだと。そんな器用な真似ができない男なのだと。そんな、不器用で優しいヤツだからそばにいたいと思うのだ。
 そばにいて、あたためてやりたいと思うのだ。
「なぁ、お前があまりにも可愛いもんだからさ、銀さん照れちゃって熱いんだわ」
 そう告げながら、土方の手をそっと引き寄せた。
「だからさ、誰かさんの冷たい手、触らしてくんね?」
 冷たい彼の指に、自分の指を絡める。ちゃんと体温が伝わるように、しっかりと。すると、彼もまた同じように指を絡めてきてくれた。手の甲に感じる彼の指先の温度が嬉しい。
「うわ、てめーほんとに手ぇ熱くなってる」
 繋いだ手を軽くふるふると振りながら、土方が驚いたような声をあげる。
「だから言ったろ、照れて熱くなってるって」
「あんなの、冗談だと思うだろ」
「心外だなァ」
 やれやれという風に首を振ってみせると、土方はくすりと笑った。
「お前の手が冷たいから、俺の手はあったかいんだよ」
 すぐ隣の藍色の瞳を見つめる。一瞬訝しげにぴくりと眉を寄せた土方は、けれどすぐにふわりと口元を緩めた。
 お前の手をあたためるために、という意味は言葉にせずとも伝わったようだ。
「ばーか」
 こつんと頭をぶつけてくる。そうだ。こういった些細な触れ合いやじゃれ合いが、心の底から大切だから。だから、どんなに手が冷たかろうと熱かろうと、構わずにその手をとりたいのだ。
 だんだんと同じ温度になっていく二つの手のひらが嬉しい。
 今ならどんなに冷たい木枯らしにも負けねェなあ。
 胸の中にひろがるあたたかさを大切に抱きながら、銀時は繋いだ手を握りしめた。
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