銀魂BL小説
何だか、あたたかいと思った。
見上げると、赤い番傘越しに太陽が見えた。青空の中、白いもふもふした雲と一緒に浮かびながら柔らかい光を放っている。
目の前には見慣れたような、全然知らないような町の景色が広がっていた。
ふと隣に目を遣ると、これまた白いもふもふした髪を持つ男が座っていた。いつも通りのマヌケ面で、もっさもっさと団子を食べている。
ああ、そうだった。この男と一緒に団子屋に来ているのだった。
そんなことを考えていると、隣の男がちらりとこちらを見遣ってくる。『どうしたんだ』とでも言いたげなその視線に、軽く頭を振って応える。すると同じように男も頭をふるふると動かす。その拍子に太陽の光を受けた銀髪がふわふわと揺れる。その様子が可笑しくて頬が緩んでしまった。
その間も男は忙しそうに口を動かし続けている。詰め込みすぎて何かの小動物のように膨らんだ頬。あんこの粒がくっ付いたそれは柔らかそうだった。思わず手を伸ばす。
すると指先にふわりとした、まるで陽だまりのようなぬくもりを感じた。光に触れたような気さえした。
男がゆっくりとこちらへ振り向く。その表情は、あまりに優しくて、あたたかかった。
ふと、土方は目を覚ました。
暗い部屋の中。夢では太陽が出ていたが、今は空には明るい月が浮かんでいる。
けれど、隣には夢と同じようにふわふわした白い髪の男がいる。土方は首だけ動かして隣を見た。大きな鼾をかきながら眠りこけるマヌケ面を眺めていると、小さな笑みがこぼれた。目を閉じていても開けていても同じ顔を見つめているなんて。何かの呪いのようだな、なんて思ったが決して悪い気はしない。
それにしても、夢を見たのは随分と久しぶりのことだった。屯所で眠る際はいつ何時に何が起きるか分からない。だから、直ぐに起きられる状態でありながらも、短い時間でも出来るだけ疲れが取れるような深い睡眠をとる。そんな訓練されたかのような眠りを行っていた。だから、夢なんぞ滅多に見なかった。
だけど、今は。
ふわふわとしたバカみたいに優しい夢を見て、目が覚めてもゆるゆると隣で眠る男を眺めたりして。どれだけ気が緩んでいるかは自分がよく分かっていた。
それもこれも全部、すぐ隣で暢気に眠っている男のせいだと思うと、何だか気恥ずかしいようなこそばゆいような気分になる。それにちょっと悔しい気もする。土方は怪物のような鼾をかいている男の鼻を摘んでやった。ふごっ、と呻いた男は、それでも起きる気配は無い。それどころか妙に楽しげな表情でさえある。どんだけ寝てんだコイツ、と土方はまた笑みを浮かべるのだった。
昔は、『夢に現れるのは自分に惚れている人物である』と信じられていた。
前に誰かから聞いたそんな話を思い出す。それならば、この男の夢の中にも自分が現れているのだろうか。そう思った途端、眠っている男がへらりと嬉しそうに笑った。それはまるで、自分といる時のような笑い方だった。
堪らなくなって、土方は男の名前を呼ぶ。
「さかた」
すると、今までグースカと眠りこけていたはずの男は、ウソみたいにあっさりと目を覚ました。思わず慌てた土方に、男は小さく笑った。それは、さっきの寝ている最中のものより、そして土方の夢の中のものより、ずっとずっと優しくてあたたかかった。
「ひじかた、おいで」
柔らかい、太陽の光のような声。
大きくて厚い手の平に腕を引かれる。そのまま男の腕の中に抱き込まれる。男の陽だまりのようなぬくもりに包まれて、土方はまた笑みをこぼす。
大切な人が、すぐ隣にいる。
そんな夢のようなしあわせに身を委ねつつ、土方はそっと目を閉じた。