銀魂BL小説
安物のサンダルがペッタペッタというアンニュイな音を奏でる。
それを生徒達の楽しげな喧騒がかき消していく。
放課後を迎えた喜びで晴れ晴れとした顔の生徒達を尻目に、くるくると跳ね回る天パ頭を掻きながら歩く俺の目はきっといつもより死んでいるだろう。
授業から解放された生徒達は、これから部活をしたり寄り道なんかをしながら帰ったりと、それぞれの予定へと向かっていく。
ただ座って授業を受けているよりは楽しいものであろうそれらへと急ぐ彼らは、みな水を得た魚のように生き生きとした表情をしている。窓から射す茜色も、そんな彼らを鮮やかに彩っている。
一方俺は、職員室から自分の根城である国語準備室へと仕事を抱えながら向かっている途中なのだ。そりゃあ死んだ魚のような目にもなるってモンだろ。
ダラダラと足を引きずるようにして歩いている俺の横を、パタパタと軽い足音が通り過ぎていく。
「せんせーさよーならぁー!」
「銀八ぃーバイバイ!」
など、すれ違いざまに投げかけられた挨拶に
「おー、気ぃつけて帰ェれよ」
とか
「先生付けろバカヤロー、あと廊下走んな」
などと、片手を軽く挙げて応えながら適当に返事をする。
キャハハハと楽しそうな声をあげながら遠ざかって行く背中を見送ると、ふっと苦笑が洩れた。
授業中は生気の無い顔をしてるクセに、放課後になった途端に元気になりやがって。
あー、若いって良いなぁコノヤロー。
彼らの有り余るパワーに触れる度、そんなことを思ってしまう。
俺ももう歳なんだろうか。そんな考えが頭をよぎったけど、ふるふると頭を振ってそれを打ち消す。
いやいや、俺だってまだまだ若い部類に入るはずだ。まだ三十路手前だし。
だって、それから。
どっと、近くの教室から一際大きな笑い声が上がった。まだ教室に残っている生徒がいるのか。思わずそちらに目をやる。
その時、ドン、と右肩に衝撃を感じた。恐らく余所見した拍子に誰かにぶつかってしまったのだろう。
「あ、悪りィな。大丈夫か」
謝りながら相手の方を見ると、さらさらした黒髪が目に入った。
あれ、コイツは。
と思う間に相手が俯き気味だった顔を上げる。
目が合った瞬間、動揺した。
目の前にある彼の顔が、耳まで真っ赤に染まっていたから。
思わず固まってしまった俺からふいと目を逸らし、彼は
「…大丈夫です。こっちこそ、すみません」
と小さな声で言うと、逃げるように足早に去っていった。
徐々に小さくなる学生服の背中が廊下を曲がって見えなくなった頃、ようやく俺は動けるようになっていた。
速くなった鼓動をなんとか落ち着かせるために天パ頭を掻きながら溜息を零す。
ぶつかった相手は、土方十四郎。
俺が担任をしているクラスの生徒の一人。
そして、現在俺が叶わぬ恋を抱いている相手、だったりする。
最初はその人目を引く容姿もあって目に付く生徒だなって思う程度だった。だけど、担任をしている中で彼の事を知っていくうちに、他の生徒には無い特別な感情を抱いてしまっていた。
気のせいだと思い込もうとした。
だけど、教壇に立っていても、頬杖をつきながら窓の外を眺める彼の姿をチラチラ見てしまったり、恋する気持ちを詠った短歌を音読する彼の唇が気になったりしてる自分に気が付いた時。
知らんぷりし続けることなんて出来なかった。
もう、この恋を認めてしまうしかなかった。
同性、しかも教え子相手に何考えてんだ、って葛藤も勿論あったけど、好きになっちまったモンは仕方ない。そう開き直るしかない程、この気持ちは大きく膨らんでしまっていた。
それに俺は、間違った名前で彼を呼んだりからかったりして彼の関心を引き、それに反応してくれるだけで満足している。
それ以上のことなんて望んでいない。男子小学生かよ、とは自分でも思うけど。
だけど、あのしゃんと伸びた背中や憎たらしい程さらっさらした黒髪なんかを見てるだけで、ぎゅっとした甘酸っぱさが胸一杯に広がって、鼓動は忙しないほどに速まるのだ。
ホラ、生徒達に負けないくらい若いだろ。いい年こいて、姿見るだけできゅんって。若いを通り越して青いってモンだ。こんな甘酸っぱい気持ちを抱えることになるなんて、ずっとピュアな恋愛をしてこなかった弊害だな。
自嘲しながら、さっき間近で見た彼の姿を思い浮かべる。相変わらず整った顔をしていた。
けど、さっきぶつかった時、なんでアイツはあんなに真っ赤になっていたんだろうか。それに何だかいつもに増して態度が素っ気なかった。
まるで、何かに緊張していた、ような…?
いや、アイツはいつも俺にはつれない態度だ。赤く見えた顔も、案外窓から射し込む夕陽に照らされてそう見えただけかもしれない。
ぐだぐたとそんなことを考えているうちに、目的地の見慣れた扉が見えてきた。立て付けの悪い、黒く薄汚れたそれをガラリと開く。
中に入り、抱えていた小テストを机に置く。今から丸つけをしなければいけないのだけど、どうせ珍回答だらけのバツが目立つ答案用紙が続出すんだろうな。そう思い若干憂鬱な気分で椅子に腰を下ろす。
すると、微かにカサッと音がした。白衣のポケットからのようだ。
何か入れてたっけ、アメのカスかな。そんな考えを巡らせながらポケットをさぐる。
指先に触れたそれを引っ張り出すと、入れた覚えの無い小さなメモだった。何だコレは、と不審に思いながらも几帳面に四つ折りにされた真っ白なそれを開く。
そこには、これまた几帳面な文字で一言だけ書かれていた。
『好きです』
間違いない、ラブレターだ。だけど、こんなものを貰った覚えが全くない。この白衣はいつも着ているから、教室や職員室に置いといた隙にポケットに入れる、なんて事は出来ないはずだ。
じゃあいつ、誰が、と名前のないその手紙を見ながら考える。すると、よく見ると書かれた文字には見覚えある事に気付く。
あれ、この文字って…
この、芯のある真っ直ぐな性格を思わせる整った筆跡。授業のプリントやテストなんかで見たことがある。
これは、土方のものに似ていないか?
受け持ちの生徒の字ならもう何度も見たから大体は憶えているものだ。それに、好きな子のなら尚更だ。
そう思ったけど、アイツからこんなものを渡された覚えが無い。
アイツからの接触があったのなら、その事を俺が忘れている筈が無いし。じゃあ一体、いつこの手紙を俺の白衣に入れたのだろう?
その時、ふとさっきの廊下での出来事が頭をよぎった。
あの時、土方がわざと俺にぶつかったのだとしたら?そしてそのぶつかった拍子に、ポケットに入れたのだとしたら?
それなら俺が手紙を貰った覚えがない事も辻褄が合うし、土方の何かに緊張したような態度や顔の赤かった事も腑に落ちる。
つまり、この手紙は、本当に土方からのもの?……本当に?俺の都合のいい妄想じゃなくて?
慌ててさっき机に置いた小テストの山からある一枚を探す。これは俺の担任しているクラスの分だ。つまり、この中には土方のものもある。
バサバサと慌ただしくその一枚を探して引き抜き、手紙の筆跡と見比べる。
土方の、男子にしては細っこくて綺麗で凛とした印象を与える文字と、手紙の真ん中に記された文字は紛れも無く同じものである。
やっぱり、これは土方からの手紙だ。
そう確信した瞬間、顔に体中の血液が集まってきたみたいに熱くなる。頭の中で脳みそが一回転したみたいにぐらぐらする。思わず弛んでしまう口元を、誰に見られているでもないけど手の甲を当てて隠す。
まさか土方も俺と同じ気持ちでいてくれたなんて。何それ嘘だろ信じられない超嬉しい。あれ、これって夢じゃねぇよな?現実だよな大丈夫なんだよな?
不安になって頬を抓るとちゃんと痛い。良かった、夢じゃない。
安心した途端に体中の力が抜けてしまった。床へと座り込む。あぁもう本当、今なら逆立ちで校舎内三周くらい出来そうだ。
手の中の小さな白い紙の、真ん中の文字をそっと撫でる。すると今までずっと胸に溜め込んできた愛しさが溢れだしてくるように感じた。
それにしても、ぶつかった拍子にポケットにラブレターを忍ばせるなんて、随分と可愛いことをしてくれる。
だけど、もし俺が手紙に気付かないまま白衣を洗濯してしまったら。もし土方の筆跡だと分からなかったら。もし、土方とぶつかったことを忘れていたら。
想いを伝える方法としては、これはあまりにも不確実すぎる。俺にちゃんと伝わるとは限らないし、誰からの告白かも分からないのだから。
きっと土方はそれを狙ったのだろう。
担任をしているクラスの生徒で、しかも男子から告白された、ということで俺を困らせないように。俺が悩まないようにするために。
ずっと見てきたから分かる。あいつはそういうヤツだ。さりげなく周りを気遣いながらそれを悟らせようとしない、そんな人一倍不器用で人一倍優しい子なんだ。
そんな土方に、俺は惚れたんだ。
とはいえ、いじらしくって可愛らしい告白方法だったけど、あれじゃあ折角両想いだと判明するチャンスを逃す可能性だってあったのだ。
本当に大切な想いを届けたい時は、もっと確実に届けられる方法じゃないといけない。
そのことを、ちゃんと教えてあげたい。今はまだ気持ちに応えられないから、知らんぷりをするしかないけれど。
あいつが卒業した時に、そうだな、この準備室なんかに呼び出したりして、ちゃんと直接伝えたい。
大事な気持ちを伝える時は、ちゃんと相手の目を見ながら伝えなくちゃいけないよって。
それから、真っ直ぐに土方の瞳を見つめて告げたい。
俺もずっとお前のことが好きだったよ、って。
胸の中でずっとあたためてきたこの想いを全て、教えてあげたい。
それを生徒達の楽しげな喧騒がかき消していく。
放課後を迎えた喜びで晴れ晴れとした顔の生徒達を尻目に、くるくると跳ね回る天パ頭を掻きながら歩く俺の目はきっといつもより死んでいるだろう。
授業から解放された生徒達は、これから部活をしたり寄り道なんかをしながら帰ったりと、それぞれの予定へと向かっていく。
ただ座って授業を受けているよりは楽しいものであろうそれらへと急ぐ彼らは、みな水を得た魚のように生き生きとした表情をしている。窓から射す茜色も、そんな彼らを鮮やかに彩っている。
一方俺は、職員室から自分の根城である国語準備室へと仕事を抱えながら向かっている途中なのだ。そりゃあ死んだ魚のような目にもなるってモンだろ。
ダラダラと足を引きずるようにして歩いている俺の横を、パタパタと軽い足音が通り過ぎていく。
「せんせーさよーならぁー!」
「銀八ぃーバイバイ!」
など、すれ違いざまに投げかけられた挨拶に
「おー、気ぃつけて帰ェれよ」
とか
「先生付けろバカヤロー、あと廊下走んな」
などと、片手を軽く挙げて応えながら適当に返事をする。
キャハハハと楽しそうな声をあげながら遠ざかって行く背中を見送ると、ふっと苦笑が洩れた。
授業中は生気の無い顔をしてるクセに、放課後になった途端に元気になりやがって。
あー、若いって良いなぁコノヤロー。
彼らの有り余るパワーに触れる度、そんなことを思ってしまう。
俺ももう歳なんだろうか。そんな考えが頭をよぎったけど、ふるふると頭を振ってそれを打ち消す。
いやいや、俺だってまだまだ若い部類に入るはずだ。まだ三十路手前だし。
だって、それから。
どっと、近くの教室から一際大きな笑い声が上がった。まだ教室に残っている生徒がいるのか。思わずそちらに目をやる。
その時、ドン、と右肩に衝撃を感じた。恐らく余所見した拍子に誰かにぶつかってしまったのだろう。
「あ、悪りィな。大丈夫か」
謝りながら相手の方を見ると、さらさらした黒髪が目に入った。
あれ、コイツは。
と思う間に相手が俯き気味だった顔を上げる。
目が合った瞬間、動揺した。
目の前にある彼の顔が、耳まで真っ赤に染まっていたから。
思わず固まってしまった俺からふいと目を逸らし、彼は
「…大丈夫です。こっちこそ、すみません」
と小さな声で言うと、逃げるように足早に去っていった。
徐々に小さくなる学生服の背中が廊下を曲がって見えなくなった頃、ようやく俺は動けるようになっていた。
速くなった鼓動をなんとか落ち着かせるために天パ頭を掻きながら溜息を零す。
ぶつかった相手は、土方十四郎。
俺が担任をしているクラスの生徒の一人。
そして、現在俺が叶わぬ恋を抱いている相手、だったりする。
最初はその人目を引く容姿もあって目に付く生徒だなって思う程度だった。だけど、担任をしている中で彼の事を知っていくうちに、他の生徒には無い特別な感情を抱いてしまっていた。
気のせいだと思い込もうとした。
だけど、教壇に立っていても、頬杖をつきながら窓の外を眺める彼の姿をチラチラ見てしまったり、恋する気持ちを詠った短歌を音読する彼の唇が気になったりしてる自分に気が付いた時。
知らんぷりし続けることなんて出来なかった。
もう、この恋を認めてしまうしかなかった。
同性、しかも教え子相手に何考えてんだ、って葛藤も勿論あったけど、好きになっちまったモンは仕方ない。そう開き直るしかない程、この気持ちは大きく膨らんでしまっていた。
それに俺は、間違った名前で彼を呼んだりからかったりして彼の関心を引き、それに反応してくれるだけで満足している。
それ以上のことなんて望んでいない。男子小学生かよ、とは自分でも思うけど。
だけど、あのしゃんと伸びた背中や憎たらしい程さらっさらした黒髪なんかを見てるだけで、ぎゅっとした甘酸っぱさが胸一杯に広がって、鼓動は忙しないほどに速まるのだ。
ホラ、生徒達に負けないくらい若いだろ。いい年こいて、姿見るだけできゅんって。若いを通り越して青いってモンだ。こんな甘酸っぱい気持ちを抱えることになるなんて、ずっとピュアな恋愛をしてこなかった弊害だな。
自嘲しながら、さっき間近で見た彼の姿を思い浮かべる。相変わらず整った顔をしていた。
けど、さっきぶつかった時、なんでアイツはあんなに真っ赤になっていたんだろうか。それに何だかいつもに増して態度が素っ気なかった。
まるで、何かに緊張していた、ような…?
いや、アイツはいつも俺にはつれない態度だ。赤く見えた顔も、案外窓から射し込む夕陽に照らされてそう見えただけかもしれない。
ぐだぐたとそんなことを考えているうちに、目的地の見慣れた扉が見えてきた。立て付けの悪い、黒く薄汚れたそれをガラリと開く。
中に入り、抱えていた小テストを机に置く。今から丸つけをしなければいけないのだけど、どうせ珍回答だらけのバツが目立つ答案用紙が続出すんだろうな。そう思い若干憂鬱な気分で椅子に腰を下ろす。
すると、微かにカサッと音がした。白衣のポケットからのようだ。
何か入れてたっけ、アメのカスかな。そんな考えを巡らせながらポケットをさぐる。
指先に触れたそれを引っ張り出すと、入れた覚えの無い小さなメモだった。何だコレは、と不審に思いながらも几帳面に四つ折りにされた真っ白なそれを開く。
そこには、これまた几帳面な文字で一言だけ書かれていた。
『好きです』
間違いない、ラブレターだ。だけど、こんなものを貰った覚えが全くない。この白衣はいつも着ているから、教室や職員室に置いといた隙にポケットに入れる、なんて事は出来ないはずだ。
じゃあいつ、誰が、と名前のないその手紙を見ながら考える。すると、よく見ると書かれた文字には見覚えある事に気付く。
あれ、この文字って…
この、芯のある真っ直ぐな性格を思わせる整った筆跡。授業のプリントやテストなんかで見たことがある。
これは、土方のものに似ていないか?
受け持ちの生徒の字ならもう何度も見たから大体は憶えているものだ。それに、好きな子のなら尚更だ。
そう思ったけど、アイツからこんなものを渡された覚えが無い。
アイツからの接触があったのなら、その事を俺が忘れている筈が無いし。じゃあ一体、いつこの手紙を俺の白衣に入れたのだろう?
その時、ふとさっきの廊下での出来事が頭をよぎった。
あの時、土方がわざと俺にぶつかったのだとしたら?そしてそのぶつかった拍子に、ポケットに入れたのだとしたら?
それなら俺が手紙を貰った覚えがない事も辻褄が合うし、土方の何かに緊張したような態度や顔の赤かった事も腑に落ちる。
つまり、この手紙は、本当に土方からのもの?……本当に?俺の都合のいい妄想じゃなくて?
慌ててさっき机に置いた小テストの山からある一枚を探す。これは俺の担任しているクラスの分だ。つまり、この中には土方のものもある。
バサバサと慌ただしくその一枚を探して引き抜き、手紙の筆跡と見比べる。
土方の、男子にしては細っこくて綺麗で凛とした印象を与える文字と、手紙の真ん中に記された文字は紛れも無く同じものである。
やっぱり、これは土方からの手紙だ。
そう確信した瞬間、顔に体中の血液が集まってきたみたいに熱くなる。頭の中で脳みそが一回転したみたいにぐらぐらする。思わず弛んでしまう口元を、誰に見られているでもないけど手の甲を当てて隠す。
まさか土方も俺と同じ気持ちでいてくれたなんて。何それ嘘だろ信じられない超嬉しい。あれ、これって夢じゃねぇよな?現実だよな大丈夫なんだよな?
不安になって頬を抓るとちゃんと痛い。良かった、夢じゃない。
安心した途端に体中の力が抜けてしまった。床へと座り込む。あぁもう本当、今なら逆立ちで校舎内三周くらい出来そうだ。
手の中の小さな白い紙の、真ん中の文字をそっと撫でる。すると今までずっと胸に溜め込んできた愛しさが溢れだしてくるように感じた。
それにしても、ぶつかった拍子にポケットにラブレターを忍ばせるなんて、随分と可愛いことをしてくれる。
だけど、もし俺が手紙に気付かないまま白衣を洗濯してしまったら。もし土方の筆跡だと分からなかったら。もし、土方とぶつかったことを忘れていたら。
想いを伝える方法としては、これはあまりにも不確実すぎる。俺にちゃんと伝わるとは限らないし、誰からの告白かも分からないのだから。
きっと土方はそれを狙ったのだろう。
担任をしているクラスの生徒で、しかも男子から告白された、ということで俺を困らせないように。俺が悩まないようにするために。
ずっと見てきたから分かる。あいつはそういうヤツだ。さりげなく周りを気遣いながらそれを悟らせようとしない、そんな人一倍不器用で人一倍優しい子なんだ。
そんな土方に、俺は惚れたんだ。
とはいえ、いじらしくって可愛らしい告白方法だったけど、あれじゃあ折角両想いだと判明するチャンスを逃す可能性だってあったのだ。
本当に大切な想いを届けたい時は、もっと確実に届けられる方法じゃないといけない。
そのことを、ちゃんと教えてあげたい。今はまだ気持ちに応えられないから、知らんぷりをするしかないけれど。
あいつが卒業した時に、そうだな、この準備室なんかに呼び出したりして、ちゃんと直接伝えたい。
大事な気持ちを伝える時は、ちゃんと相手の目を見ながら伝えなくちゃいけないよって。
それから、真っ直ぐに土方の瞳を見つめて告げたい。
俺もずっとお前のことが好きだったよ、って。
胸の中でずっとあたためてきたこの想いを全て、教えてあげたい。