その2
「ほら。遊ぼうって。」
こういうことに専ら慣れていない人間が、次の一手を打てるようなことは、もう無かった…。
周りは人混みで溢れかえっているというのに、皆はそれぞれに、飲んだり談笑したり、犯罪的な話や、また別な話に、花を咲かせるのに夢中で…誰一人、一部の出来事には目を向けない。
むしろ、この街ではこうなった時、助けを求める人間の方が少ないのかもしれない。つまり、あれは今男をひっかけたと…もしくは、男が女をひっかけたと、ただそれだけの、この街での日常的な流れとして、周囲には映っているのだろう。おそらくは。
そんな中で、別段、誰かが彼女の表情や様子に細かく目を向けるわけもなく、そうなればまた、彼女の心の内を察して助けに入るわけもない。
自分がどこへ連れて行かれるのかも、この後どうなるのかも、もちろん彼女は知らないが、男二人がどういう背景なのかも知らなければ、今ここで逃げるのを図ったらどうなるのかも…知らない。
…本当に、ただ連れられて歩くしかなかった。
万が一、力で丸め込まれるようなことになれば、それこそ勝ち目は無いからだ…。
状況が変わったのは…ちょうど、彼女が景色を横目で眺めながら、来た道を連れて戻されるのを、しばらくただ無力に感じていた時のことである。
「…おい…そこの…。」
…そう、息を吐きながらかけられた声に、振り返って驚く男二人…。
彼女には聞き覚えのある声ではあったが、あまりにも、まさかというタイミングだったことへの驚きと、ついさっきも一瞬考えた不安が、同時に頭をよぎってしまった。
「…そいつは俺のだから。」
「…は?」
もともと、彼女が逃げぬよう背後を取るようについていた…今、手前側に立っている男が、そう声を漏らしつつ、少しだけ彼女の方を振り返った。
「…返して欲しいんだけどさ。」
それがどこかわざとらしくもあり、かつ普段は聞いたこともない…恐ろしさを感じさせる低い声だったので、彼女は思わず戦慄する。
獲物が掛かったと余裕のあった男二人の表情が、次第に焦りでまずさを帯びる。声をかけてきた彼に見覚えがあったのも、要因の一つであろうか。
…それに加え、急いでいたと、直前に彼女が発した言葉が、偶然にも、効果を発揮していた…。
完全に、彼女が彼を待っていたと思い込み、混乱する男二人だが、それぞれが視線を送り合ったところで…クールが詰め寄った。
「……さっさと返せよ。」
彼女からは、男が陰になって顔までは見えないものの、クールが今、相当な表情をしているに違いない…ということだけは、なんとなく想像がついた。
去り際に男の一方が、両の男女に、作り笑いでもするように、ごめん、と、小さくそう言い残し…次の瞬間には、男二人は飛ぶように去り、すっかり景色の中に紛れてしまった…。
こういうことに専ら慣れていない人間が、次の一手を打てるようなことは、もう無かった…。
周りは人混みで溢れかえっているというのに、皆はそれぞれに、飲んだり談笑したり、犯罪的な話や、また別な話に、花を咲かせるのに夢中で…誰一人、一部の出来事には目を向けない。
むしろ、この街ではこうなった時、助けを求める人間の方が少ないのかもしれない。つまり、あれは今男をひっかけたと…もしくは、男が女をひっかけたと、ただそれだけの、この街での日常的な流れとして、周囲には映っているのだろう。おそらくは。
そんな中で、別段、誰かが彼女の表情や様子に細かく目を向けるわけもなく、そうなればまた、彼女の心の内を察して助けに入るわけもない。
自分がどこへ連れて行かれるのかも、この後どうなるのかも、もちろん彼女は知らないが、男二人がどういう背景なのかも知らなければ、今ここで逃げるのを図ったらどうなるのかも…知らない。
…本当に、ただ連れられて歩くしかなかった。
万が一、力で丸め込まれるようなことになれば、それこそ勝ち目は無いからだ…。
状況が変わったのは…ちょうど、彼女が景色を横目で眺めながら、来た道を連れて戻されるのを、しばらくただ無力に感じていた時のことである。
「…おい…そこの…。」
…そう、息を吐きながらかけられた声に、振り返って驚く男二人…。
彼女には聞き覚えのある声ではあったが、あまりにも、まさかというタイミングだったことへの驚きと、ついさっきも一瞬考えた不安が、同時に頭をよぎってしまった。
「…そいつは俺のだから。」
「…は?」
もともと、彼女が逃げぬよう背後を取るようについていた…今、手前側に立っている男が、そう声を漏らしつつ、少しだけ彼女の方を振り返った。
「…返して欲しいんだけどさ。」
それがどこかわざとらしくもあり、かつ普段は聞いたこともない…恐ろしさを感じさせる低い声だったので、彼女は思わず戦慄する。
獲物が掛かったと余裕のあった男二人の表情が、次第に焦りでまずさを帯びる。声をかけてきた彼に見覚えがあったのも、要因の一つであろうか。
…それに加え、急いでいたと、直前に彼女が発した言葉が、偶然にも、効果を発揮していた…。
完全に、彼女が彼を待っていたと思い込み、混乱する男二人だが、それぞれが視線を送り合ったところで…クールが詰め寄った。
「……さっさと返せよ。」
彼女からは、男が陰になって顔までは見えないものの、クールが今、相当な表情をしているに違いない…ということだけは、なんとなく想像がついた。
去り際に男の一方が、両の男女に、作り笑いでもするように、ごめん、と、小さくそう言い残し…次の瞬間には、男二人は飛ぶように去り、すっかり景色の中に紛れてしまった…。
