その2

―――――夕方

飲み屋なども多い繁華街を抜けた先の、少し寂れたところにある重たい両開きの扉が開いた、その中から、ミミドリが出てくる。
ガヤガヤとしたゲーム音や人の声が漏れていたが、扉が閉まるとそれも一気に静かになって、もう辺りは、少し先の繁華街のガヤガヤした音が遠くから聞こえるのみだ。
静けさの中、帰りは繁華街を通るか、反対方向から裏通りに入ってそこから帰るか…その二択で、彼女は迷っていた。

裏通り…そこは繁華街の裏ではあるが、酷く寂れていて、廃地下鉄駅の入口があるという記憶が彼女にもある。その裏通りで声を掛けられて連れて行かれそうになったこともある。その時も彼女は一人だった。その記憶がある以上、なかなか裏通りを選ぶ気にはならないが…彼女の場合は、繁華街を通ることすらも、一人では躊躇せざるを得ない。

行きは昼間だったので、ほぼ昼から飲んでいるような人間しか、そこにはいなかった。それに、明るい時間帯であるのが影響してか、いくら治安の悪いこの街と言えども、幾分か犯罪的な影は減る。
しかし、夕方から夜となれば、話は別だ。

道の選択に迷っているうちに、あっという間に時間が過ぎていくことも、彼女もわかっているのだが、それでも、すぐにその決定を下すことも難しい。
数十秒、数分…と迷った結果、仕方なく繁華街の方へ…彼女はゆっくりと足を前に進めた…。

繁華街では、空の紫色と、少しずつ灯り始めたネオンサインや提灯の光が、混ざり合っている。
…このまま歩いて帰って、どうなるのか…?
…彼は、どういう反応をするのか…?
ふと、疑問…というよりも、不安が頭に湧いた。
しかし、そもそもそんなことよりも、無事に帰れるかという緊迫感の方が前に出て、すぐにその疑問は揉み消されてしまった…。

そうしてなんとか、あと少しでこの繁華街も抜けられそうだ…という辺りまで来て…。
「ねぇねぇ。」
予感していたことが起きた。
「今ヒマでしょ?」
髪を銀髪にして、耳に少し大きめのピアスまでした男と、もう一人、これまた髪を奇抜な色に染めた男が…こちらに話しかけると共に、距離を縮めてきている。
「ちょっとさぁ、ヒマすぎて退屈だから、なんか相手してくんねぇかな?」
こうなるからここは歩きたくなかったのだ…という心の声も、今更考えたところでもう遅い、という第二の声に揉み消された。
…こういう時に、どうやって振り切ればいいのか、よく知らない…。
必死に考えていても、粘られた先を想像すると、結局それも無意味なのではないか…という考えに行きつく。
「……その…ちょっと急いでて…。」
「急いでんならそんな悠長に歩かないでしょ?」
「……。」
「いいじゃん、別に。面白いんだからさ。行かない?」
…やっぱりそうだ。
走るでもなく、緊張しながら歩いていた最中に、急いでいるなどと口にしたところで、そんなものは見え透いた嘘なのだ…。
薄々、どうせ粘られるとわかってはいたが、苦肉の策だっただけに、頭にはただ、焦りと諦めが半々で浮かび上がる。
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