その1

「…昨日、そこらに人攫いがおってな。」
…歩き出そうとして、何かが引っかかる。
「女の子じゃ…ちょうど車に乗せとったわ。」
クールが少し振り向いた。
「声かけてもまーったく聞かんで逃げよって…わしゃなんにもできんでな…。あの子捜しとんかの…。」
興味をひかれたように、振り返って立ち止まっている彼を見て、浮浪者は続けた。
「…ここいらにはそうおらんような子じゃった…。」
…この場に長くいるであろう人間がそう言うのだから、間違いは無いのだろう…。
「……その車は…?」
「…はて…どこに向かったかのぉ。色は真っ黒でな、窓も真っ黒になっとったわ…。」
「……わかった。」
静かなため息と共にそう返す。
「…老いぼれのお話は、これで終わりよ…。捜しに行くんか。」
「…あぁ。」
「…気をつけてなぁ。」
その浮浪者の言葉を背に、クールは廃倉庫を出て行った。

……人攫い。黒い車。
不確かだが、それが今入った手がかりだ。
車は、おそらく、そういう類の使用目的で、脇の窓を全て覆い隠してあるものだ。
それなら、少なくとも明るい場所に乗り捨てられている可能性は薄い。あの老人に見られている以上、断定はできないが…。

その車を探せば助けられるのだろうか。
どんな方法で攫われたのか。
時間が経った今どうなっているのか。何をされているのか。どこかに連れて行かれているのか…。
浮き上がる疑問や憶測に焦りを覚えながら、しばらく歩いた先で考え込んで立ち止まる。

今は、手あたり次第、車を隠しておけそうな場所、裏組織が拠点にしそうな場所を、探しまわることしかできない。
この街にはカメラなんてものも、残っているものといえば、ほとんどがかつて壊されたものばかりで、ろくに機能したものではないのだ。

できるだけ日が明るいうちに例の車を探し出すためにもと、彼はまたすぐに歩きだした。


―――――数時間後

暗くなり始めた夕方、人のいない寂れた広い空き地に、黒い車がとまる。空き地には様々な廃品などが隅の方に投棄されていて、中にはボロボロの廃車まであるほどだった。
車から、黒いコートを着た男たち二人が降りて、そのうちの一人が後部座席のドアを開け、少し中に入っていく。

……その中からは、体と腕を縛られている状態の、男たちより背の小さい人物が、その一人の男に肩を掴まれながら、降ろされて出てきた。
いなくなったミミドリである。

向こうの裏路地から、スーツを着た男が、黒い車の男たちの方へとやってきて、そこに向かって彼女を連れた男たちも歩き出す。

「…本当にこんないい子いたんだな。」
裏路地の男が驚いたように言った。
「…言ったろ。ホントだって。」
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