2, Side Cool
第一本当に忘れるのかもわからなかった中で、正直怪しんでた。
忘れるなんて嘘っぱちの軽いものなのか、もっと違う重い症状を持たせるものなのか。もし後者だとしたらそれはゴメンだ…。ただ飲まなきゃあの部屋を出られないなら、どっちかは飲むしかない。
…結果的に、これを飲んだ人間が記憶を失うのは本当で、その効果も噂通りの著しいものだったことが、身をもってわかったわけだが…。
多量ではありつつ、飲んだのが実験における最大量ではなかったあいつは、完全には俺のことを忘れてなかった。
思い出そうとしてたのは、何かしら付随する記憶が残ってたから。もし完全に忘れてる状態なら、人から聞かされてもそれは簡単には信じられない話になってたろうし、完全に忘れてれば、おそらく付随する記憶が軒並み無くなってた…。
あの実験団体の噂で、飲まされた錠剤で狂って運ばれたのがいるとか、そういう噂があったのは、その記憶被害が相手のことに留まらない、下手すりゃ人格に関わる他の記憶まで軽く飛んじまうからだ…。
つまり、"恋人や重要人物の記憶が飛ぶ"って文面は、あくまでフェイク…説明するためのちょうどいい言葉に過ぎない。確かに忘れる記憶はその人物に関することが中心ではある。ただし、大量に服用すれば、その人物に付随する全ての記憶が、封印、もしくは破壊される。
今回は一時的に忘れるレベルで済んだものの、あれをもし全部飲ませてたら、たぶんあいつの記憶が戻せないくらいになっていたんじゃないか…。
あの時、最後の二錠のまとまりを俺が取らなかったら…。
あの噂がどういうことだったのか、聞いたときはよくわからなかったまでも、"多量に飲めばそれだけ相手に関することを忘れていく"って内容と、こいつがまだ思い出そうとしてたことに、なんとなく相違があったのは、そういうことだった。
ということは、逆に、飲まされても無事だった被験者たちは、おそらくその全員が、一人に十錠を割り振ることはしなかったとか、もしくは、個人差で飛ぶ記憶や精神に及ぼす影響が少なかったとか…。そういうところだろう。
そして、もう一つ。
俺が飲んだ一錠で忘れた記憶。
飲んだあとは、そもそも忘れたことすらよくわかっていなかった。でもそれを、再会して思い出した気がする…。
根本的な、なんであいつを隣に置いていたのかの記憶が、抜けていた。
それ一つ抜けたところで、恋人としての記憶は残ってるわけだから、忘れても普段は何も違和感を感じることはなかった。はじめは、ただただ、あいつが俺の記憶をなくしたことでいっぱいだったから。
あいつが一人でいなくなった時に、前にもこんな事があったような気がしたと思ったが、それがいつのどういう出来事だったのか、詳しいことを思い出せなかった。
その時に、あの錠剤を飲んで俺も記憶を無くしたことに気が付いた…。
当然、いなくなった時の記憶がなくなったら、なんであいつをここに連れてきたのかわからなくなる。もともとこんな荒れた街にいた人間ではなかったことは、なぜか覚えてた。だから、どうやってそこから連れてきたのか、少し疑問に思った。
俺が飲んだのは一錠だけだったから、そんな支障が出るほどの記憶の混乱は起きなかったし、再会してから、ここに連れてくるきっかけが何だったのかも、過去に一人でいなくなった時の記憶も、思い出した。
ただ、これが八錠分ともなると、確かに、膨大な記憶を無くすのは納得がいった。
それは間違いなく混乱するし、こいつのことだから、思い出せなくなってまた頭を回すうちに、気持ちとして限界が来たのかもしれないと思った…。
その夜は、見つけたあとすぐ連れて帰って、一緒に布団に入った。
見つかったのが夜で、結局寝るのは深夜になった。それでも、布団に入ってからも、調子がいつもの感じに戻ったのを見て、だいぶ思い出してるんだと確信した。
「……寂しかった?」
「……うん。」
「……うん……ごめんね…。」
素直に返事をしたら、また謝られた…。
「…違うよ。そういうことじゃねぇよ。」
…謝るのは的外れだって言ってんのにな。
「あの薬飲まされたせいなんだから…。」
「…そう?」
「そうって、それはそうだろ。」
「…う〜ん。」
忘れたことに罪悪感でもあるような態度で。でもこれがいつもなんだよ。
「……じゃあ逆に、俺があの薬飲んでたらどうなってたんだよ。」
「………。」
「…もういいんだよ、そういうのは…。」
…もう思い出してるってことなら、こっちもそろそろいつもに戻ってやらないと…。
「…あんたも寂しかったんでしょ。」
そう思って、腕をそっちに伸ばしていつもの体勢になった。
「…そんなに会いたかった?」
「……うん。」
静かに頷いて、照れくさそうな返事が返ってくるのが、嬉しかった…。
数ヶ月して、その実験団体は事実上の解体を強いられた。
……俺が、あの後数日後に、例の保管してた錠剤を流したのがきっかけで。
当初俺が思ってた通り、そういう情報を欲してる組織は、錠剤とその情報でかなりの儲けがとれた。
完全に捕まったわけじゃないにしろ、主要な奴はほとんどバラバラになって、逃げたり、別な組織を構成し直したり、そういうことで凌いでる。
中には海外に逃げた奴も大勢いるらしい。貿易船にでもうまく紛れたんだろうな。
まぁ、逃げた先で精々うまくやりゃいいだろう。結局、裏社会の潰し合いに負けた以上は、こうなるしか無いな…。
あの場に俺達を入れたのは、おそらく俺が裏の人間だとわかってのことだったんだ。
たまたま、捨てられた記事に書かれてたのが目に入った。
『…アメリカ 薬物流通組織 摘発 違法な記憶操作の薬物開発にも関与…』
…残念だったな
忘れるなんて嘘っぱちの軽いものなのか、もっと違う重い症状を持たせるものなのか。もし後者だとしたらそれはゴメンだ…。ただ飲まなきゃあの部屋を出られないなら、どっちかは飲むしかない。
…結果的に、これを飲んだ人間が記憶を失うのは本当で、その効果も噂通りの著しいものだったことが、身をもってわかったわけだが…。
多量ではありつつ、飲んだのが実験における最大量ではなかったあいつは、完全には俺のことを忘れてなかった。
思い出そうとしてたのは、何かしら付随する記憶が残ってたから。もし完全に忘れてる状態なら、人から聞かされてもそれは簡単には信じられない話になってたろうし、完全に忘れてれば、おそらく付随する記憶が軒並み無くなってた…。
あの実験団体の噂で、飲まされた錠剤で狂って運ばれたのがいるとか、そういう噂があったのは、その記憶被害が相手のことに留まらない、下手すりゃ人格に関わる他の記憶まで軽く飛んじまうからだ…。
つまり、"恋人や重要人物の記憶が飛ぶ"って文面は、あくまでフェイク…説明するためのちょうどいい言葉に過ぎない。確かに忘れる記憶はその人物に関することが中心ではある。ただし、大量に服用すれば、その人物に付随する全ての記憶が、封印、もしくは破壊される。
今回は一時的に忘れるレベルで済んだものの、あれをもし全部飲ませてたら、たぶんあいつの記憶が戻せないくらいになっていたんじゃないか…。
あの時、最後の二錠のまとまりを俺が取らなかったら…。
あの噂がどういうことだったのか、聞いたときはよくわからなかったまでも、"多量に飲めばそれだけ相手に関することを忘れていく"って内容と、こいつがまだ思い出そうとしてたことに、なんとなく相違があったのは、そういうことだった。
ということは、逆に、飲まされても無事だった被験者たちは、おそらくその全員が、一人に十錠を割り振ることはしなかったとか、もしくは、個人差で飛ぶ記憶や精神に及ぼす影響が少なかったとか…。そういうところだろう。
そして、もう一つ。
俺が飲んだ一錠で忘れた記憶。
飲んだあとは、そもそも忘れたことすらよくわかっていなかった。でもそれを、再会して思い出した気がする…。
根本的な、なんであいつを隣に置いていたのかの記憶が、抜けていた。
それ一つ抜けたところで、恋人としての記憶は残ってるわけだから、忘れても普段は何も違和感を感じることはなかった。はじめは、ただただ、あいつが俺の記憶をなくしたことでいっぱいだったから。
あいつが一人でいなくなった時に、前にもこんな事があったような気がしたと思ったが、それがいつのどういう出来事だったのか、詳しいことを思い出せなかった。
その時に、あの錠剤を飲んで俺も記憶を無くしたことに気が付いた…。
当然、いなくなった時の記憶がなくなったら、なんであいつをここに連れてきたのかわからなくなる。もともとこんな荒れた街にいた人間ではなかったことは、なぜか覚えてた。だから、どうやってそこから連れてきたのか、少し疑問に思った。
俺が飲んだのは一錠だけだったから、そんな支障が出るほどの記憶の混乱は起きなかったし、再会してから、ここに連れてくるきっかけが何だったのかも、過去に一人でいなくなった時の記憶も、思い出した。
ただ、これが八錠分ともなると、確かに、膨大な記憶を無くすのは納得がいった。
それは間違いなく混乱するし、こいつのことだから、思い出せなくなってまた頭を回すうちに、気持ちとして限界が来たのかもしれないと思った…。
その夜は、見つけたあとすぐ連れて帰って、一緒に布団に入った。
見つかったのが夜で、結局寝るのは深夜になった。それでも、布団に入ってからも、調子がいつもの感じに戻ったのを見て、だいぶ思い出してるんだと確信した。
「……寂しかった?」
「……うん。」
「……うん……ごめんね…。」
素直に返事をしたら、また謝られた…。
「…違うよ。そういうことじゃねぇよ。」
…謝るのは的外れだって言ってんのにな。
「あの薬飲まされたせいなんだから…。」
「…そう?」
「そうって、それはそうだろ。」
「…う〜ん。」
忘れたことに罪悪感でもあるような態度で。でもこれがいつもなんだよ。
「……じゃあ逆に、俺があの薬飲んでたらどうなってたんだよ。」
「………。」
「…もういいんだよ、そういうのは…。」
…もう思い出してるってことなら、こっちもそろそろいつもに戻ってやらないと…。
「…あんたも寂しかったんでしょ。」
そう思って、腕をそっちに伸ばしていつもの体勢になった。
「…そんなに会いたかった?」
「……うん。」
静かに頷いて、照れくさそうな返事が返ってくるのが、嬉しかった…。
数ヶ月して、その実験団体は事実上の解体を強いられた。
……俺が、あの後数日後に、例の保管してた錠剤を流したのがきっかけで。
当初俺が思ってた通り、そういう情報を欲してる組織は、錠剤とその情報でかなりの儲けがとれた。
完全に捕まったわけじゃないにしろ、主要な奴はほとんどバラバラになって、逃げたり、別な組織を構成し直したり、そういうことで凌いでる。
中には海外に逃げた奴も大勢いるらしい。貿易船にでもうまく紛れたんだろうな。
まぁ、逃げた先で精々うまくやりゃいいだろう。結局、裏社会の潰し合いに負けた以上は、こうなるしか無いな…。
あの場に俺達を入れたのは、おそらく俺が裏の人間だとわかってのことだったんだ。
たまたま、捨てられた記事に書かれてたのが目に入った。
『…アメリカ 薬物流通組織 摘発 違法な記憶操作の薬物開発にも関与…』
…残念だったな
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