2, Side Cool

……大型ビルに来る前。

「……あ、あの!」
よく知ってるところを出ようとした時に、呼び止められた。
「…もしかして、あの子探してる?」
「…あぁ。」
「…さっきここにいたよ…。」
「どのぐらい前かな…。」
少し前まで、一人でここにいたらしい。
…俺の予想はだいたい的中ってところか。
「…ここで止めとけばよかったんだよ。」
「いや〜、一人でいたから、なんかあったのかと思って。俺らは特に何も聞かなかったんだけど…。」
奴はだいぶ前にそこを出たそうな…。
俺は二つ目に回っていた。最初に来てたらもしかしたらいたのかもしれないが、今更そんな事考えたところでどうにかなるわけでもない。
とにかく今は探して歩くしかなかった。

それで、最後に思い当たる場所なのが、この大型ビルの一階と、地下。
今までの場所もそれなりに時間かけて探して、ここに着いた頃には出てきてからだいぶ時間が経ってる。

人だかりの中を、いるなら今のうちに見つけなきゃしょうがないから、ひたすら見て回った。この広さで、人探しに全部のエリアを回るのは時間がかかる。
それでも、それらしい人影はどこに行っても見つからない。
何かに隠れて見つけられないところにいた可能性を疑って、もう一回りしようとしたとき。
遠目に見える人だかりの中に、あれだと思ったのが見えた。ただ、見つけたと思った直後に、その人だかりに背を向けて、入口の方に歩いて行った…。

…追いかけるべきなのか、それとも。
どうせ人だかりにいるのを見つけたところで、まともに声もかけられなかっただろう相手だ。今の忘れている状態の当人は、俺が近くに行ったら、また、あの薬を飲まされた直後みたいな顔になるんだろうか。
それでも、先に外に出たあいつを見失わないように、後を追って入口の方に。
今の目的は、あくまであいつを連れて帰ること…。家族に探すように頼まれた…とでも言えば、まぁ…そういうもんだと聞き入れてついては来る…はずだ…。

…そう思って見回すと、さっき入口を出たはずの姿がない。
慌てて周辺に目をやったところで、少し遠くの柱の横にいるのをやっと見つけた時には、もう歩き出したところだった。
ふと考えて、そりゃそうだと。俺がいる時ですら、一人でいたら危ないことを言い聞かせていたわけで。
おそらくは周辺を警戒しての…。

……本当に頼まれたなんて文句でそんな簡単についてくるかどうか。俺のことを忘れてるなら、尚更それが怪しい。

とは言え、ここで見失ったらまずい。
一人にしておいたら危険な時間だ…。
先のことは、声をかけて反応を見てから考えればいい…。

一旦は見送って見失いかけたのを。
大型ビル周辺に張り巡らされた歩道橋から、歩いて行った方向を見回して、なんとか視界に戻した…と、思った矢先。
ある程度の距離を保って、その後ろからあとをつけている男がいるのに気付いた。

特に何を考えなくとも、それがあいつを狙ってるとわかって、どうやって剥がそうか考え始めた時。

さすがに後ろを不自然に思って確認しようとしたのか、前を歩いてたあいつが立ち止まる。
それを皮切りに、その気付かれた男が、一瞬で、すぐそこの路地に引きずり込んで行った…。

離れていた俺は、何も考える暇もなく、その路地に向かって走った。あれがどこの路地だったのかはっきり覚えてる。
…積んである錆びたドラム缶。どうせそれで周囲の目が振り切れるとでも思ったんだろうな…。

着いてすぐ、挨拶代わりにそのドラム缶を蹴り飛ばしてやった。
あれだけ強引に引きずり込んでたくせに、音を聞いて俺を見た男はビビって逃げていきやがって。
……もう二度と手出すなよ。

転がったドラム缶の奥に、男に離されて転んだあいつがいた。
さっきの音でさすがに誰か来たのはわかったらしく、起き上がりながらこっちの方に目をやってくる。

「…あんたの家族が探してたよ。」
…今は、それしか言うことが無かった。

無言で。何かを考えてるのか。
この状況で気が動転してるのか。
近くまで行ってどうにか連れ戻そうとしたところで。
「……思い出した。」
…考えてもいなかった言葉。
でも、今一番望んでた言葉だった。
「……ホントに?」
横まで行って屈んだら、もう何かの限界だったらしく。静かに泣き始めた。

「……ごめんね……。」
泣きながら、小さい声で、それだけ。
…この状況で謝るのかよ。第一、こうなったのはあの錠剤を飲まされたせいで…。
「……別に、謝ることじゃないよ。」
言いたいことは引っ込めた。

やっぱり、俺のことを思い出そうとして、一人で出てったんだ…。
あの二人には、できるだけ思い出させないように言ってたからだ。忘れてる状態で、こんなのとつるんでた自分のことを聞かされたら、どう思うのかと思って…。
あの薬を飲んで俺のことを忘れたあとの、引き攣ったようになったのを思い出したら、そうするしか無かった。

じゃあなんで自分で思い出そうとしてたのか。なんでそれができたのか。

あの時こいつは、実はあの十錠全部を飲んだわけじゃなかった。
飲んだのは、八錠。飲ませる途中で、俺が、最後の二錠のまとまりを取った。
ただ、俺が飲んだのは一錠だけ。
残りのもう一錠は、最初の一錠とまとめて飲んだ…ふりして、そのまま飲まずに保管してある。
こんな機会だ。きっとそれを、他の情報屋や、軍の関係者にでも流したら、それなりの値打ちはあるはずだと思った…。
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