1, Side Mimidori

いつもの見慣れた階段が見えてさ。
「着いたよ。」
…そう、隣を歩いてた男の人が。

「…もう付いて来んじゃないよ。」
「…あ、ありがとうございました。」


微妙な見覚え。
何回も頑張って思い出そうとするけど…何回頭を回しても、あれが誰だったのかがわからない。
何かあったような気がするのに、さっき何してたかの記憶が…あるにはあるけど、すごく曖昧で。だから、なんで私があそこにいたのかも、なんでその人が目の前にいたのかも、なんでその人に送られてきたのかも、思い出せない。
歩いてる途中に聞こうかと思ったけど、とてもそんな知らない人に聞くわけにも行かないし、いきなり記憶をなくしましたなんて言い出せるような度胸が、私にはなかったから…。

とにかく、何も聞けなかった。
ただ、送られて帰ってきた。

「…今日はどうだったの?」
「…どうって…。」
バーの方に降りて、結蓮が出してくれたご飯を食べながら、今日のことを聞かれて、頭を巡らせたところで…。
……?
記憶がなくなっている箇所があるのは確かだけど、その前…。一人でいたっけ?何してたっけ?
ものすごい違和感。これって記憶喪失なのかな。でも結蓮は結蓮ってちゃんと覚えてるし、私は結蓮と結蘭のところで一緒に住んでるってことはちゃんと覚えてるよね?
「………。」
「…どうしたの?」
明らかに変だなって思う。でもそんな大層な話、切り出せないよ。
「……あとで、いい?」
「…いいけど…。何かあった?」
「……ちょっと。」

部屋に戻って、頑張って思い出そうとしてみた…。でも、無理だったな。
頭の中には確かに、大好きな人がいたって記憶があるのに。
それが誰だったのか…。

もしかしたら、あの人…?
でもこれだけ見覚えがあるのに思い出せないなんてことは、ないんだろうなぁ…。
思い出したいけど…思い出しちゃいけないような気がする。
それだけ好きな人だったのに忘れちゃうような何かがあった、ってことだとしたら、思い出さない方がいいのかな、って。
まだ誰だかわかったわけじゃないけど、なんか猛烈に、あの人なんじゃないかって気がする。細かくは思い出せないけど、見たことあるような感覚がすごくあった。見覚えがありすぎた。
……なんで忘れちゃったのかな。

「……今日何してたか全然思い出せなくて。」
夜、部屋に結蓮が来てくれたんだけど。
なかなか話し出せなくて、結局これしか言えなかった。
…流石に困るよね…。唸ってるよ。
「…そう…。記憶喪失?」
頭を撫でられながら、ちょっと待っててね、って部屋を出ていった。

…それから、十分ぐらいして。
「…きっと思い出すから。大丈夫。」
また部屋に入ってきた結蓮に言われたんだけど…ちょっと悲しそうな顔してた。

「…今日はとにかく寝なさい。」
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