修行 ― Episode 5 Torao Onigawara

声を上げつつよろよろと立ち上がった若者へ。
「うぉりゃああ!」
思い知らせるように、伸ばした膝で蹴りを入れた…。

この道着の男、彼こそが、空手だけを信じ、己の空手と、己の体を鍛えることだけに専念する男…。
その名は、鬼瓦寅男。歳は四十七である。
彼が、その歳でありながらも全く衰えを感じさせない…それどころかその鍛えられた肉体と力を維持していられるのは、彼が日々、強くあろうとすることを怠らないからだ。
…だが、実を言えば、彼は悪いところで溢れている。
彼の周りを飛んでいたハエ…。あのハエたちは、ずっと彼にまとわりついているもので、つまりは、彼が、それだけの汚れをため込んだ人間だということである。
彼の性格…。非常に頑固者で、ほとんど古い価値観が抜けることがない。特に若者に見下されて怒るとなれば、今のように頭ごなしに怒鳴るか殴り倒すか、だいたいこの二択である。
…それも、この街で生活していれば、仕方のない事だが…。


――― その数日後。

冒頭に戻り、ビル間の道で、ここでも若者に思い知らせてやろうとしていた、彼。しかし。今回はそうは行かず…。
「ぐぁ!」
彼の、スピードの遅さがモロに出ていたところを、すぐに掬い取られている。どうせ前のような弱いだけの若者だろう…そう思っていた男に、思い切り胴を足で蹴り飛ばされていた…。今度は、自分がよろけて尻餅をつくハメになったのである。
「…よ、よくもぉ…。」
「これが嫌ならもう二度と俺に関わんなよ。」
見下していた若者に、ふっと嗤ってそう言い放たれた。
見方を変えれば、ただの老害…。そんな鬼瓦を蹴り飛ばした、彼…クールにとっては、単なる邪魔でしかなかった。
「…次関わったら、寿命が百年縮むからな。」

鬼瓦寅男の修行は…彼の命、あるいはこの世界が終わらぬ限り、まだまだ続くだろう…。
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