修行 ― Episode 5 Torao Onigawara
突き当りを左に曲がって、すぐ左手からその倉庫へと入れるようになっているその道を、先に行った一人が、戸惑いなく、しかし静かに慎重に、進んでいくと…。
「……?」
その倉庫の少し奥で…なんと、重たく硬そうな石材に、素手で手刀打ちをしている、道着を着た男がいたのだった。
その光景は、かなり滑稽なものだった。特に、こんな遊び人とも言える若者から見れば。なにせ、廃倉庫で、薄汚れた道着を来て、石材に素手のままひたすら手刀を入れている、見かけでは初老とでも言えるくらいの、老いた男がいたのだから…。
「……っふふ…っふふふ…。」
よほど滑稽だったのか、若者が笑いを堪えきれなくなって、小さく笑い声をあげ始めた…。マトモな者ならまず笑わない。むしろ笑うというより、そのおかしさに、怖がるはずである。
「頭でもおかしくなったの。おっさん。」
この街は、それほどマトモな者も多くない街だった。
「はぁ?なんじゃと?」
倉庫に入った若者がマトモではないのは確かだが、この道着を着た男も、もしかしたら、マトモではないかもしれない…そういう警戒心を抱くのが普通だ…。ただ、それも、この老人がマトモな人間であれば、の話ではあるが…。
「それよそれ。何やってんだよ。」
「修行に決まっとる…。わしゃ鍛えとんじゃ…。」
この答えに尚更おかしくなって、入ってきて立っていた若者は文字通り、道着の男を見下しながら、嗤って言った。
「そんなに強くなりたいの。」
「なんじゃ。悪いんか。」
大きなハエが、二人が会話する間にも、せわしなくその辺を飛び回り、どこかにとまっては、また飛び回る。しかも、そのハエは一匹だけではない。どこかへ飛んでいくわけでもなく、いつまで経っても、その辺りを離れることはなかった。
「…なんで強くなんの。」
「…そりゃ、己のため…。男は強くならにゃあいかんからな。」
からかい半分で質問した若者に、道着の男は少々ため息交じりでそう答える。
「……?」
その倉庫の少し奥で…なんと、重たく硬そうな石材に、素手で手刀打ちをしている、道着を着た男がいたのだった。
その光景は、かなり滑稽なものだった。特に、こんな遊び人とも言える若者から見れば。なにせ、廃倉庫で、薄汚れた道着を来て、石材に素手のままひたすら手刀を入れている、見かけでは初老とでも言えるくらいの、老いた男がいたのだから…。
「……っふふ…っふふふ…。」
よほど滑稽だったのか、若者が笑いを堪えきれなくなって、小さく笑い声をあげ始めた…。マトモな者ならまず笑わない。むしろ笑うというより、そのおかしさに、怖がるはずである。
「頭でもおかしくなったの。おっさん。」
この街は、それほどマトモな者も多くない街だった。
「はぁ?なんじゃと?」
倉庫に入った若者がマトモではないのは確かだが、この道着を着た男も、もしかしたら、マトモではないかもしれない…そういう警戒心を抱くのが普通だ…。ただ、それも、この老人がマトモな人間であれば、の話ではあるが…。
「それよそれ。何やってんだよ。」
「修行に決まっとる…。わしゃ鍛えとんじゃ…。」
この答えに尚更おかしくなって、入ってきて立っていた若者は文字通り、道着の男を見下しながら、嗤って言った。
「そんなに強くなりたいの。」
「なんじゃ。悪いんか。」
大きなハエが、二人が会話する間にも、せわしなくその辺を飛び回り、どこかにとまっては、また飛び回る。しかも、そのハエは一匹だけではない。どこかへ飛んでいくわけでもなく、いつまで経っても、その辺りを離れることはなかった。
「…なんで強くなんの。」
「…そりゃ、己のため…。男は強くならにゃあいかんからな。」
からかい半分で質問した若者に、道着の男は少々ため息交じりでそう答える。
