「行かないで」

「…俺が死ぬかもって?」
「…だってホントに赤い車だったんだもん…。」
「…ハイハイ。分かりましたよ。」
それまで真面目に聞いてたのに、また私をからかうみたいな調子になって、ちょっと力の抜けた返事をしながら笑っていた…。
これはただ寂しいからって言い訳にしてると取られたのかもしれない…なんて思っていると、クールがすぐに布団をめくったので、自分も一緒に入った。

「…そんなに言うなら何日でもいてやるよ。」
「……いいの?」
「…嬉しいから。」
布団に入って私のことを抱きしめながら言った…。

「死んで欲しくないって言われんのが嬉しいから。」



…結局。

二日後くらい、昼間にまた新聞を見てみると、一部の記事の中に事件や事故を伝えるものがあって、思った通り、その中に車が何台も絡んだ事故があったと書かれていた。
しかも、そこにはしっかりと、先日の事件が関係していると見られることが書かれていて…。あの記事に書かれていた目撃証言の赤い車と思われるものがあった、とのことだった。
数台が絡む事故、と書かれているだけあって、事故後の現場は悲惨なことになっているらしく、この記事が書かれた時点での死者は3人ほど、意識不明者は1人、と書かれている…。

あの会話をして眠った後、何時ごろだったのかはわからないけど、まだ外が暗い夜中か未明くらい、ふと目が覚めた時、サイレンの音が遠くで聞こえていた。
もしかしたらこれが…なんて思ってた。その時はまだ、あの夢の内容が本当になるとは限らないから、それがその事故であるとは思えなかったけど。
記事を見ると、その日時でだいたい一致していることも分かる…。

やっぱりあれは本当だったのかもしれない、行かせなくて良かった…なんて思いながらその新聞を畳んで、今は、ユイレンが焼いてくれた厚焼き玉子を食べている。
隣にはコーヒーを飲みながらこっちをちらっと見るクールがいて。またのんびりした時間が流れていて。
あの時クールを行かせていたら…事故に巻き込まれるかどうかは別としても、どのみち見られることはなかった景色が、時間が、そこにはあった。


事故に巻き込まれた人たちのことは、決してどうでもいいと思っちゃいけない気はするけれど。
とにかく、自分にとって大切な人がそんな悲惨な事故に巻き込まれなくて良かった…と、今は本当にそう思うのだ。
ただ、自分がいわゆる"予知夢"ってやつを見てしまったことには、未だに、ただただ驚きしかない。結果的にクールを行かせなくて済んだから良かったけど。

……もしあれをただの夢だと片付けていたら。もし私が引き留められなかったら。もしクールが聞いてくれなかったら。

そのどれかが実現してしまうだけで、もしかしたらもう二度とこの人に遭うことは叶わなかったのかもしれない、と思うと。


"行かないで"と、言えて良かった。
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