……少し前。
何気なく、酒を飲んでみるという話になった時のことである。
「酔わないかのテストはした？」
「あ、やりました、だいぶ前ですけど…。」
「でもあんま飲んでないんだよね…？」
彼女の隣にいた男が、少し心配そうに…というのは格好をつけるための建前かもしれないが、ユイランとミミドリを見てそう言っていた。
「まぁ…確かに。」
そんな男の言葉を聞いて、一息ついたユイランは、彼女の前に、炭酸水とフルーツジュースが殆どの割合を占めたグラスを置く。
「…これだったら薄めてあるから、度はそんなに高くないよ。」

…その流れで、彼女はこの数週間、幾度か、度数のあまり高くない酒を飲んでいた。あれからしばらく経った今であれば、もう少し度数の高い酒を飲んでも問題ないだろう…。

そんなわけで、今、彼女は、炭酸の見える透き通ったグラスの３分の１ほどがリキュール、という割合の酒を飲んでいた。
それでも、一気に飲んだというわけでもないので、彼女もそう酔うことはない。
「フルーツ系だけど、どう？やっぱいつもと違う？」
「…うん…だいぶアルコール感ある。」
ユイランとミミドリがそう会話していたところに、その様子を見ながらやってきたユイレン。
「…ちょっと度数上げたの？」
「そろそろコイツにも飲ませてもいいかなと思って。」
ユイランのその言葉を聞いたユイレンは、そう、とだけ言ったが、何かを企むような思い出すような、少しいたずらにも見える表情で、一息置いた。その顔を見て不思議そうにしたミミドリに向け、表情はそのままに、こう言う。
「…ちょっとね、いいお酒があるの。」
「…いいお酒？」
「…けっこう最近のお酒なんだけどね。」
「えっ、なになに…？」
ミミドリはユイレンの意図がいまいち読めなかったが、それでも、別段悪いことを考えている訳でもないであろう、ということだけは分かっていたので、冒険の前のような、期待と緊張が入り混じった気持ちで、何を出されるのかと待っていた。