その間に彼に近づいていて、彼に鞭を伸ばそうとした一人と、窓の近くの柵の前でミミドリを抱えながら、流れを見ていたもう一人。
彼女は…徐々に視線を落としていたが、それでも、苦しいのか、首もとに強めに絡む男の腕を解こうとし始めた。
男は、彼女の動きを見ると、おもむろに銃を手に取り、彼女の頭に突き付ける。
「…動くんじゃねぇぞ。」

高く振り下ろされ当たりそうになった鞭を、クールは咄嗟に防ぐ。だが防いだ腕に衝撃が走り…そのまま次いで、投げるように飛ばされた先の部分が、腕に絡んだ。

…それを見てか、窓側にいた男は、彼女を柵の方へと追い詰めるようにして、銃を持つのとは逆の手で、彼女の首もとを掴む…。
そのまま、徐々に、徐々に…彼女の頭に銃口をつけたまま、柵の方へと彼女を押しやった。
まだ辛うじて空気の通る喉で息をしながら、柵に押し付けられ、苦しそうに首を上に向けた彼女に向かって、銃を更に押し付けた男の表情は…どこか愉悦な表情だった…。

「…息が止まるのと飛んじまうの、どっちが早ぇかなぁ…。」

鞭を持つ男は、片手で鞭を必死に引きながら、もう片方の手で銃を手に取った。
だが、状況は変化を止めない。クールは腕を見ると、あえて男に近い方へ移動し、鞭の緩んだ腕を振る。
咄嗟に銃を捨て戦闘態勢になる男だったが、鞭の挙動までは頭が回らなかったようだ。慌てて、鞭の柄を握ったまま彼の方へ突っ込もうとした男の行動が仇となり…緩んだ腕の鞭を放さずに掴んでいたクールによって、男の首にそれが絡むこととなった…。
クールは男が突っ込んできたのを躱した上で、手に取っていた紐の部分を素早く男に絡めた。それがうまく男の首を絞める形になって、形勢が変わってしまったのである。
「っ…！」
必死に絡んだ鞭を手で緩めようとする男だが、鞭の先端近くを彼が握っているため、当然そう解けるわけもなく…。
クールは数秒ほどその先端を引いた後、手を放して、力の抜けた男の背を蹴り飛ばした。