罪の復讐、復讐の罪
ただ、彼は至って冷静なまま答えた。
「…ずいぶんと周到なんだな。」
「…あいつの事か?」
「捨て駒の用意に、拷問…こんなことのためにそいつを攫ってきたとは呆れるな。」
冷たさを崩すことが無いクールの態度に、男は笑って言った。
「…これはアンタへの復讐だからな…。俺の家族はアンタが殺したんだよ。」
だが、クールもそこまで動じることはなく、皮肉に笑って答えた。
「…もう俺にはどの相手かもわかんねぇな。」
…その言葉が示す通り、確かに彼は、それほどに、数多の命を奪った経験と、数多の罪を背負っているが、それは相手も同じようであった。
「…俺はアンタを殺すために同じ土俵についたんだ…いや、それ以上か…。アンタは一人で昇り詰めたみたいだがなぁ…。あの時、俺がどういう気分だったのかわかるぜ、アンタ。」
目的が達成できるかもしれないという確信を滲ませる男とは対照的に、やはりクールはまだ冷笑したまま黙って聞いていた。
「こっちは組織体だからな。あともう少し時間が経てば下町に控えてる連中が到着する。」
それまでに…と、男が後ろの彼女の方を指すように言ったところで…。
「言いたいことはそれだけか。」
クールは遮るようにそう言うと、男が咄嗟に銃を構え直したのと同時に、すぐさま地を蹴ってベランダの柵に手をかけ、柵に登った。
銃を持つ男が狙いを定めるより先に、彼が棟隙間を飛び越え右の棟の柵に掴まり、彼が直前までいた位置を銃弾がすり抜けていく。
「近づけるな!」
後ろの男もそう叫んだが、既に彼は柵の上に身体を持ち上げ、この広いベランダに足を下ろしていた。
先頭の一人の銃口が、柵に沿うように移動する彼を追うが、無駄打ちはできないと躊躇してか、男の狙いは彼の動きを予測した方に向く。しかし、銃弾が少し先の柵に当たると、彼は速度を落とし、地を蹴って身体を翻した。
銃弾を軽々と避けられ、男が舌打ちをしながら弾を詰めている隙に、彼は足を止め、勢いをつけてナイフを飛ばす。
男が彼の動きに気がついたところで、男には彼のような反射的な身体能力は備わっていないので、当然、間に合わない。
…漏れる声一つ。男はその衝撃で銃を落としながら崩れ落ちた。
男は状況を飲み込めないまま、右腹を見つめる。そこにはしっかりとナイフが刺さっていた。衣類と長いコートには徐々に血が滲み、男の表情は、ショックを受けたように、次第に変わっていった。
「…ずいぶんと周到なんだな。」
「…あいつの事か?」
「捨て駒の用意に、拷問…こんなことのためにそいつを攫ってきたとは呆れるな。」
冷たさを崩すことが無いクールの態度に、男は笑って言った。
「…これはアンタへの復讐だからな…。俺の家族はアンタが殺したんだよ。」
だが、クールもそこまで動じることはなく、皮肉に笑って答えた。
「…もう俺にはどの相手かもわかんねぇな。」
…その言葉が示す通り、確かに彼は、それほどに、数多の命を奪った経験と、数多の罪を背負っているが、それは相手も同じようであった。
「…俺はアンタを殺すために同じ土俵についたんだ…いや、それ以上か…。アンタは一人で昇り詰めたみたいだがなぁ…。あの時、俺がどういう気分だったのかわかるぜ、アンタ。」
目的が達成できるかもしれないという確信を滲ませる男とは対照的に、やはりクールはまだ冷笑したまま黙って聞いていた。
「こっちは組織体だからな。あともう少し時間が経てば下町に控えてる連中が到着する。」
それまでに…と、男が後ろの彼女の方を指すように言ったところで…。
「言いたいことはそれだけか。」
クールは遮るようにそう言うと、男が咄嗟に銃を構え直したのと同時に、すぐさま地を蹴ってベランダの柵に手をかけ、柵に登った。
銃を持つ男が狙いを定めるより先に、彼が棟隙間を飛び越え右の棟の柵に掴まり、彼が直前までいた位置を銃弾がすり抜けていく。
「近づけるな!」
後ろの男もそう叫んだが、既に彼は柵の上に身体を持ち上げ、この広いベランダに足を下ろしていた。
先頭の一人の銃口が、柵に沿うように移動する彼を追うが、無駄打ちはできないと躊躇してか、男の狙いは彼の動きを予測した方に向く。しかし、銃弾が少し先の柵に当たると、彼は速度を落とし、地を蹴って身体を翻した。
銃弾を軽々と避けられ、男が舌打ちをしながら弾を詰めている隙に、彼は足を止め、勢いをつけてナイフを飛ばす。
男が彼の動きに気がついたところで、男には彼のような反射的な身体能力は備わっていないので、当然、間に合わない。
…漏れる声一つ。男はその衝撃で銃を落としながら崩れ落ちた。
男は状況を飲み込めないまま、右腹を見つめる。そこにはしっかりとナイフが刺さっていた。衣類と長いコートには徐々に血が滲み、男の表情は、ショックを受けたように、次第に変わっていった。
