罪の復讐、復讐の罪
――― 数十分後
スラムと化したビルの集合体や廃墟ばかりが立ち並ぶ地帯を前に、ひときわ高く聳え立つ、城のような建物。大型施設の建物が廃墟化したものだが、もとの施設であった頃の面影は殆ど残っていない。
その建物は、湾曲した壁になっている左右の棟と、その間を繋ぐようにある中央の棟に分かれている。
右の棟の最上階。暗く、とても広い部屋。
外に面した方の壁の、四隅の一つが大きな湾曲窓で構成されているが、その窓は廃墟らしく大きく割られている。割れた窓の外にはベランダの柵と外の景色が広がっているのだが、その外観の高貴さすらも、今は形だけのものだった。
弱い風が吹き、割れた窓の右側に緩く束ねられたまま残っている、くたびれたカーテンの裾が、静かに揺れている。
しばらくして、窓とは反対の部屋の奥の壁、隅に置かれたベッドの上が…もそり、と、徐々に動き始めた。
「……起きたな。」
静かに小声で呟く男の声と、ゆっくりとそのベッドの方へ向かう人影。
連れてこられた当の本人…ミミドリは、割れた窓から差す僅かな明かりを手がかりに視覚的な情報を得ようと、人影の方を見つめる。
暗い部屋の中に、近づいてくる男たちの影が見え、反射的に手を後ろに回し後ずさりながら、彼女は今の状況をなんとなく察する。
「……よぉ…。」
拘束はされていないようだったが、それでも今自分が、とてつもなく身の危険が及んでいる状況にあるのは、すぐに見て取れた。
「あんただってなぁ。クールの恋人とやら…。」
…連れてこられる前に離れられれば良かったのだが、そうもいかなかった。
あの質問をされた後の彼女は、少し話をしたいことがあると、そんな単純なことを、しかしそれでいて含みのある表情で男達から告げられ…逆らえずに外へ出る選択を強いられた。
薄々、良くない予感はしていたのだが、少し先の周辺は別の騒ぎで騒然としており、味方になりそうな人間も近くにはいなかったので、逃げる選択肢を取ることは困難だった。ただの怯えた人間である彼女にできることは、せいぜい多少踏みとどまることくらいだろう…。
「助かったよ、いい子でついて来てくれて。噂で聞いたそのまんまで拍子抜けしたけどね。」
彼女に向けて、そう皮肉じみた言葉をかける男の態度は、本来ならば常軌を逸するとでも言うようなものだが、この街の歪んだ世界では、もはやそれも珍しくはないものだ。
スラムと化したビルの集合体や廃墟ばかりが立ち並ぶ地帯を前に、ひときわ高く聳え立つ、城のような建物。大型施設の建物が廃墟化したものだが、もとの施設であった頃の面影は殆ど残っていない。
その建物は、湾曲した壁になっている左右の棟と、その間を繋ぐようにある中央の棟に分かれている。
右の棟の最上階。暗く、とても広い部屋。
外に面した方の壁の、四隅の一つが大きな湾曲窓で構成されているが、その窓は廃墟らしく大きく割られている。割れた窓の外にはベランダの柵と外の景色が広がっているのだが、その外観の高貴さすらも、今は形だけのものだった。
弱い風が吹き、割れた窓の右側に緩く束ねられたまま残っている、くたびれたカーテンの裾が、静かに揺れている。
しばらくして、窓とは反対の部屋の奥の壁、隅に置かれたベッドの上が…もそり、と、徐々に動き始めた。
「……起きたな。」
静かに小声で呟く男の声と、ゆっくりとそのベッドの方へ向かう人影。
連れてこられた当の本人…ミミドリは、割れた窓から差す僅かな明かりを手がかりに視覚的な情報を得ようと、人影の方を見つめる。
暗い部屋の中に、近づいてくる男たちの影が見え、反射的に手を後ろに回し後ずさりながら、彼女は今の状況をなんとなく察する。
「……よぉ…。」
拘束はされていないようだったが、それでも今自分が、とてつもなく身の危険が及んでいる状況にあるのは、すぐに見て取れた。
「あんただってなぁ。クールの恋人とやら…。」
…連れてこられる前に離れられれば良かったのだが、そうもいかなかった。
あの質問をされた後の彼女は、少し話をしたいことがあると、そんな単純なことを、しかしそれでいて含みのある表情で男達から告げられ…逆らえずに外へ出る選択を強いられた。
薄々、良くない予感はしていたのだが、少し先の周辺は別の騒ぎで騒然としており、味方になりそうな人間も近くにはいなかったので、逃げる選択肢を取ることは困難だった。ただの怯えた人間である彼女にできることは、せいぜい多少踏みとどまることくらいだろう…。
「助かったよ、いい子でついて来てくれて。噂で聞いたそのまんまで拍子抜けしたけどね。」
彼女に向けて、そう皮肉じみた言葉をかける男の態度は、本来ならば常軌を逸するとでも言うようなものだが、この街の歪んだ世界では、もはやそれも珍しくはないものだ。
