罪の復讐、復讐の罪

彼女もここに来てだいぶ経っている故、こんな光景の中に自分が位置していることは、今回が初めてではない…はずなのだが。

「あのなぁ、そういうことする奴はいらねぇって言ってんだよ。」
「あぁ?どうせ女なんだから、出しゃばんなよオメェは!」
「オレさぁ、こう見えてアンタみてぇなのが一番やりやすいんだよね。」

半ば脅すようにわざとらしくそう言ってみせる結蘭の声も。

「ちょっと、無茶はやめなさい。」
「無茶じゃねぇって…。」
「おいおいやんのかオメェ!」

少し行き過ぎた雰囲気になるのをどうにか鎮火しようとする結蓮の声も。そしてそれに今にも乗じようとする酔った客の声も…。
どうも慣れない、そのピリピリとした空気を前にすると、すぐそばにあるはずの光景が、薄くぼかしのかかってはっきりと頭に入らないような感覚に陥ってしまう。彼女の場合は特に、頭が自然と真っ白になってしまうのだろう。

…張り詰めつつも、心細いような、居たたまれないような、そんな感覚の中…。
「…あのさ…アンタ…。」
「……?」
突如として、横に座っていたコートの男から、肩を叩かれ、声をかけられる。
もちろん、その男とは面識があるわけでもなく、何を言われるのかも想像がつかない。
「…アンタだよね…?ホラ、あのカラス野郎と付き合ってんの…。」
「………!?」
驚きの声を漏らしたところに、男から苦笑いで「違う…?」と追い打ちで聞かれ、余計に背後の空間が頭から遠ざかったような気がした。
第一、なぜ、面識もない男からこのような質問が出るのだろう…。男は何か知りたいことでもあるのだろうか…。そんな疑問を抱き、彼女が何も言えないでいると。
「…悪いな。」
…男は、笑った。


「…っこの!」
対してその後ろでは、飛び掛かる男を結蘭が投げ倒し、それを見た周囲の客の何人かが、まるで何かの試合でも見ているかのように、声を上げた。
床に思い切り転がされた男が必死に起き上がろうとしているところに、結蓮がため息をつきながら歩み寄った…。
「…さぁ、起こしてあげるけど、今日は大人しく出てってもらおうかしらね…。」
「何言って…。」
「まだ粘るんなら私だって黙ってないけど?」
2/12ページ
スキ