罪の復讐、復讐の罪

しばらくそのままだったが、それも複雑な心情を持つ故である。特に、彼の方は…。
「…俺のこと…信用してるんだよな。」
やっと彼が発した言葉に、彼女は何も言えずに黙って頷いた。彼は少し腕を緩めながら何かを言おうとしたのだが…。
「……やっぱりお前……。」
…その先が出てこなくなってしまった。
しかし、それを聞いた彼女にはなんとなく彼の考えていることがわかった。
「…離れていくの?」
彼女の声は、ここまでの抵抗で力を使い切っているのと、首を絞められ呼吸が一度止まりかけた後なのとで、一層弱々しい。
彼はそれを聞いて少し考えるように黙ってから、再び口を開いた。
「…俺は何人も殺してるし、またこういうことがあるかもしれねぇぞ…。」
彼女もまだ諦める様子はない。
「…助けてくれたじゃん…。」
「…そりゃ今回は大丈夫だったけどな…。」
思わずその返しに笑ってから、彼はもう一度考えた様子で、口を開く。
「……こんなことになって本当にいいのかよ。」

…それでも、まだ彼女は諦めなかった。
「…でも今離れても…あんまり意味ないんじゃない?」
それを聞いて、また彼は笑った…。
「…まぁ…確かにそうかも、な。」

ひどく力の抜けている彼女を抱きかかえた彼が、ベランダの外側の方に目をやると、赤や青の光が少し遠くを彩っていた。
結果的に、ここへ来たのは組織の人間ではなかったということになる。
……きっとあの二人が捨て駒にされていた男から情報を聞き出して、鎮圧部隊にでも流したんだろう……。
そんなことを考えながら、彼は割れた窓の方へ目を戻し、歩き出した。
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