罪の復讐、復讐の罪

日没後のある街の地区。立ち並ぶ古いビル。
…とても静か、なはずだが。
フラフラと一人歩く者。ビル間の暗がりにへたりこんでいる者。なぜか異様な空気が漂う。
そこはまさしく、無法と言われる街EDENの中でも、かなり奇怪な場所、第四区画。

廃墟のような暗い部屋。寝転がる男が見る携帯機に滑り込む、メッセージの知らせ…。
開かれた本文は、決して長いものではなく、たった数個の言葉だけで構成されており、一見すると何を意味しているのかは分からないが、大きな強迫性も持ち合わせるものだった。

 ―― 奪ってやる

…その具体性のない、しかし脅迫的な文の中に、送られた主であるその男は、何かを見出したように、静かに起き上がる…。

 ―― 貴様の 全て

――― 同日 夜九時頃

EDENで比較的穏やかな地区にあるバー、風の魚にて。

ピアノ弾きの男の演奏に合わせて悠々とした歌声を響かせるのは、このバーを知る者の間で、その声と容姿の美しさに定評のある〝歌姫〟こと結蓮。シャッターの上げられた入口の外には、歌声に混じって、ワイワイ話す声や笑う声が響き、賑やかな世界が広がっていた。
その、ワイワイと声を響かせていた中のうちの一人の男が、歌の終わった空間に声を張り上げた。
「もう一回!アンコールよ!」
「や~ねぇ。まったく…。」
結蓮が笑いながらもため息をつき返事をする一方で、カウンターからその様子を見ていた結蘭…結蓮の双子の妹が、舌打ちをして小声で呟いた。
「またかよあのおっさん…。」
「あれ、大丈夫…?」
その様子を、カウンター席で心配そうにチラチラ確認しながら、結蘭に声をかける、ミミドリの姿もある。
「はぁ~…多いんだよなぁ、ああいうの。オレ、ちょっと行ってくるわ…。」
そう言って結蘭は動き出した。

「だ~からさ~お願い、オレちゃんとカネ払ってるじゃない!」
「おいおい!お前やりすぎだって…。」
「何がやりすぎなんだよ、こっちはカネ払ってるから要求してるだ~け!」
「あんたはね、飲み過ぎたのよ。いいから出て行きなさい。」
「な、なぁに!?」

突然の…とも、もはやこの街では日常的である…とも、どちらとも言えるような、酔った客と抑えようとする客、そして結蓮…この喧噪を背後に、ミミドリは頭が混乱していた。
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