4月 The Transparent Lie

演技なんてできない。笑いが抑えきれない。

「…声、出なくなっちゃった。」
外階段を降りた先で待ってたクールに、かすれた声でそう言ってみたけど、
「…なんだそれ?」
って、鼻で笑われてそう言われちゃった。

気付いたらもうエイプリルフールだったから、唐突にやろうと思ったことだけど、どうしても笑っちゃって…。
だめだな、って思う。嘘になってない。「風邪引いたってことか?」ってまた鼻で笑いながら言われたけど、絶対わかってるよね?
「…ごめん、嘘。」
なんて言おうかしばらく迷ったけど、演技するのに疲れたから、こう言ってやめた。 

「なんのつもりだよ…」
「いや、だって、今日…」
そこまで言いかけて、そういえばクールはエイプリルフールを知ってるのかなと思った。
「今日、エイプリルフール…知ってる?」
「…あぁ…なるほどね。知ってるよ。」
ちょっと気怠そうに返されたから、また下らないことやってんな~、くらいに思われてんだろう。

…って、この時は思ってたんだけどな。


いつも通りゲーセンから帰ってきて、いつも通り階段の前に帰ってきた時。
「今日はこのまま帰るんだよね?」
「うん。」
「…うん…ありがとう。じゃあね。」
階段を登ろうとしたとき、肩をぽんと掴まれた。

急だったからびっくりして。何かありそうで。ちょっと怖い気もしながら、振り返った。普段からまともに顔を直視できた試しがないけど、こういう時は余計に緊張して顔が見られない。
でも。
「…たまにはちゃんと、顔見せてから行け。」
静かめに返ってきた言葉が、そんな私を更に苦しめる。
…こういう時いつも下を見がちになるのが癖だ、って自分でもわかってんのにな。
「…」
目の前のクールが、振り返った私の肩に手を置いて、顔を覗き込んだから、余計どうしたらいいかわからなかった。きっと今、笑ってる。顔を見なくても、なんとなくそれはわかった。
そしていつもの如く返す言葉が見つからなくて、黙っていると。
「…!」
おでこにキスをされた。
薄々そんな気はしてたんだよ。でも何かされるんじゃないかなと思ったし、ただ単に顔見たいだけなのかなとも思ったし…とにかくいろいろな気持ちが瞬時にごっちゃになった後、わかった。

…嘘ついたんだね?

「自分から仕掛けといて、忘れてたわけねぇだろうな」
言う前に笑いながら返されちゃった。
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