「黒い翼」

男たちから見て、先程までカラスがいた方向、二つのビル壁を使って、裏路地の地面に降り立った、一人の人影。

「…!」
真っ黒な装いだが、それとは逆に、暗い中でも上空からの光を微かに受けてよくわかる金の髪。それは、この街で裏社会に通じている者なら知らない者はいないとされる…黒い翼、クールだったのである。

「…おっと。」
二人組のうち一人は、動こうとしたクールにカラスを追い払っていた銃を向け、ミミドリを捕まえていた男は、人質にでもするかのように彼女の首に再びナイフを添えて、目の前のクールに見せた。
「…簡単に邪魔させてたまるかよ。」
「…今すぐそいつを離してもらおう。」
「…それ以上動くんじゃねぇ。」
銃を向けられてもなお、態度を崩すことのないクールに、銃を向けていた男が、引き金にかけていた指にゆっくりと力を入れながら、脅しをかける。

「一歩でも近づいてみろ…。」
…これで撃ってやるよ。
と、でも言うつもりだったのであろう、銃を構えた男の、相手の動きを封じられるという余裕は、一瞬にして終わっていた。
「…っ!?」
鳴いていたものと同一の個体かどうかは定かではないが、二人組の男の頭上スレスレを、大きなカラスが羽の音を立てて飛んでいったのだ…。
男二人がそれに驚いて頭を下げたのが、一瞬の隙となった。
男の腕めがけてクールが飛ばしたナイフを、咄嗟に避けようとした男は、腕をかすめたナイフによって、手を滑らせ、その銃を落とす。
「…なっ!」
「おい、てめぇ、何やって…。」
間一髪、男の腕にナイフが刺さることはなかったものの、落ちた銃は男からやや遠く離れた場所へと、飛んで滑っていく。
ミミドリを捕まえていた方の男も、それを見て焦り苛立ち、こう強く吐き捨てた。

「クソが!」


男が銃を落としたのをいいことに距離を詰めていたクール。それを背にして、二人は捕まえていたミミドリも捨てて、全速力で逃げていった…。
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