「黒い翼」
空も徐々に暗くなる夕刻。
とある裏路地にて…。
「…抵抗すんな。」
「……。」
男二人に強引に連れて行かれていたミミドリは、黙り込んでいる。
少し足を踏ん張っただけで、首の手前に添えられていたナイフが、すぐ近くまで来ていた。
まさにその路地の上、古く高いビルのヘリにとまっている一羽のカラスが、声を濁らせ、うるさくガアガアと鳴き始める。
はじめはただ鳴いているだけだと思われたのだが、カラスがいつまでもビル上から飛び立たず、まるで下にいる人間を追いかけるように、数十秒おきにしきりにガアガアと声を上げているので、さすがに男たちも不自然に、そして不快に思ったらしい。
彼女を捕まえていたのとは違う一人が、銃を片手に構え、ビル上に向けて、一発、撃った。とても銃弾が当たるような場所ではなかったが、その大きな音に、ビル上のカラスはすぐさま飛び去っていった。
…路地に響き渡った銃声のわずかな残響と苛立った男の舌打ちが、その場に残る。
裏路地とはいえ、響く音を立てると何者かが寄ってくるかもしれない。それはカラスの鳴き声も同じだった。結果として追い払うために更に大きな音を立てる手段を強いられたことが、男たちの焦燥感と不快感を煽った…。
捕まっていたミミドリが、流れに乗じたのか、男がナイフを持つ腕に手をかけた…が、そう簡単に引きはがせるわけもなく、男がすぐに腕に力を入れたので、彼女は大人しく抵抗をやめる。
しかし、捕まえていた男が彼女の喉元にナイフを押し付けたところで、再びカラスの濁った鳴き声が上から響く。
「…ったく、巣でもあんのかよ。」
…苛立ったもう一人が、再び銃を手で持ち直した瞬間である。
「…あ?」
…少し遠く、ビルとビルの間の空間を、壁を伝い、飛び移りながら、何者かが降りてくるのが見えた。どう見てもカラスなどではないが…男たちには、それが何であるか判別するのに時間がかかった…。
とある裏路地にて…。
「…抵抗すんな。」
「……。」
男二人に強引に連れて行かれていたミミドリは、黙り込んでいる。
少し足を踏ん張っただけで、首の手前に添えられていたナイフが、すぐ近くまで来ていた。
まさにその路地の上、古く高いビルのヘリにとまっている一羽のカラスが、声を濁らせ、うるさくガアガアと鳴き始める。
はじめはただ鳴いているだけだと思われたのだが、カラスがいつまでもビル上から飛び立たず、まるで下にいる人間を追いかけるように、数十秒おきにしきりにガアガアと声を上げているので、さすがに男たちも不自然に、そして不快に思ったらしい。
彼女を捕まえていたのとは違う一人が、銃を片手に構え、ビル上に向けて、一発、撃った。とても銃弾が当たるような場所ではなかったが、その大きな音に、ビル上のカラスはすぐさま飛び去っていった。
…路地に響き渡った銃声のわずかな残響と苛立った男の舌打ちが、その場に残る。
裏路地とはいえ、響く音を立てると何者かが寄ってくるかもしれない。それはカラスの鳴き声も同じだった。結果として追い払うために更に大きな音を立てる手段を強いられたことが、男たちの焦燥感と不快感を煽った…。
捕まっていたミミドリが、流れに乗じたのか、男がナイフを持つ腕に手をかけた…が、そう簡単に引きはがせるわけもなく、男がすぐに腕に力を入れたので、彼女は大人しく抵抗をやめる。
しかし、捕まえていた男が彼女の喉元にナイフを押し付けたところで、再びカラスの濁った鳴き声が上から響く。
「…ったく、巣でもあんのかよ。」
…苛立ったもう一人が、再び銃を手で持ち直した瞬間である。
「…あ?」
…少し遠く、ビルとビルの間の空間を、壁を伝い、飛び移りながら、何者かが降りてくるのが見えた。どう見てもカラスなどではないが…男たちには、それが何であるか判別するのに時間がかかった…。
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