妄想嫉妬

結局のところ、女はその日のことを、この数日の間、引きずっていたというわけである。

この楽園の裏社会で名を馳せる彼…黒い翼ことクールのことを、このナギと呼ばれた女は、数年間ずっと考え続けていた。
……一方的に。
もちろん、別段関わりを持ったこともない…というよりも、関わりを持てるとすら思ってもいない男だが、それ故に、むしろ独断的な妄想や憧れは増すものである。姿を見たという者がする噂を聞くたび、稀に見かける誰かの恨み等がこもった彼の撮影紙を見るたび、彼女はただ、彼が彼であることに喜びを覚えていた。
彼は誰の物にもならない、まさかないとは思うけれど、いつか自分のもとに来てくれたらいいな…そう思っていたナギが、ここ最近耳にした噂は…ナギ自身にとって最悪なものだった。
彼が女の子を連れていると…しかも、全くこんな世界には来たことがないような、良くも悪くも普通の子だと言うのだから。

ある日…時折黒い仕事を拾って金を稼いでいるような友人の女が、煙草を片手にこう言ったのだ。
「…私もその子見たことあんだけどさ…。ホント、普通の子って感じだったわ…。」
裏区画の飲み屋もといキャバクラにいる自分と言えどまだ裏社会とはそこまで近くない自分に対して、そういう世界にいる友人が彼とその連れを見たというのだから、当然、間違いないだろうという気になると共に、次の言葉で、いとも簡単に、火がついてしまった。

「…ずっと好きだったんでしょ…?いいの?そのままにしといて。」

自分は、いつか輝きたくて、裏区画でこんなに綺麗になれる場所まで上り詰めてきたというのに。どうしてそんな、良くも悪くも普通などと言われる人間が、その彼と付き合っているのか、全く意味がわからない…そんなナギの気持ちに。火がついてしまった…。
3/6ページ
スキ