虚夢

「…どうしたの?」
部屋を出る時以外、膝に座らせてずっと抱いてたら、流石に不思議だったらしい。
「……何かあったの?」
「……何も。」
肩に顎を乗せたまま答えた。

あれは本当にただの夢だったのか。
俺の目の前で、こいつがよくわからない男達に殺される夢だった。
その男達の間から見えたうずくまってる姿が、あの夢で俺が見た最後の、こいつが生きてる瞬間だった気がする。
痛みで声を出すくらいはしてたかもしれないが、それ以外は人形みたいに何も言わなかったのが、尚更現実だと思わされる要因だった。こんな風に傷つけられるところを実際に見たわけじゃ無いにしろ、もしこういう状況になったら、きっとそうなるんだろうから…。

現実かと思い込みかけてたところで目が覚めて、嫌な気分がして会いに来てみたら、それはいつも通りに…。
「……疲れたの?」
「……まぁ…そうだな。」
正直答えに迷った。殺される夢を見たなんて言えるわけがない。でもあんな夢見た後でほっとけるか。
ずっと体温のあるところにいさせられてるからか、横にある顔が眠そうにしてる。
「…横になろうか?」
「…うん。」
…またこいつはどうせちゃんと寝てないんだろうし。寝かせておけばいいか…。


…相当眠かったらしい。横にしてからそう経たないのに、もうすっかり寝てやがる。
なんとなく、寝顔を見たら感覚が蘇った。
夢ではなくとも、しんどそうに倒れてるところは見たことはある。
あの時ああだったのが今はこれだもんな。連れてこなかったら死んでた…というか、正直なところ助かるかもわからなかった命で、結果として息を吹き返して、今はこんな呑気な寝顔で寝てる。

…せっかく生き返したのに、あんな夢みたいな死に方してもらっちゃ困るよ。
今はすっかり大事な恋人なんだから…。
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