二章


そんなくだりを経て、彼が数日後の深夜1時に来たのは、ずっと無人だと思われていた廃病院の建物…。

もしあの時、敵に読まれて狙われでもしたら、まずいに決まっている。そのための厳重警戒態勢だったのだろう。
だがやはり彼には、うっすらとだが、裏があるのではないかという疑問がある。
だいたいなぜ手を組むことを選んだのだろうか。そんなことが易々とできる対象ではないだろうに。仮に本気だとしても、こんなのと手を組もうなんて、いよいよ腐ったのかと多方から思われるのも無理はないはずだ。
彼自身も、協力を受けたのは事実だが、ほとんど報酬のために動いているようなものだった。危なくなればすぐに逃げてもいいという覚悟で…。

…鉄線の切られた窓には、さすがにロックがかかっているが、あまり大きな窓ではなく一目で安い作りだとわかった彼は、すぐにその窓の隙間に工具を入れ始める。

腐りきったこの街には、防犯カメラなどと言うものはほとんどない。壊されるという大きなデメリットばかり目立つようになったので、ある時から使われることすら減っていった。何度直したって壊されれば結局また同じ手間が掛かるのだから、並の人々ならば維持が困難になってしまうのだ。
よほどの大きな施設だとか、手を出されても相手に十分なお返しができるほどの集団に管理されてる場所だとか、そういうところでしか、防犯カメラというものは意味をなさない。
その代わり、窓に頑丈な鉄柵をつけたり、有刺鉄線を入れたり、というのが一般的になった。維持費がかかるが、建物の周囲に電気柵などを入れる場所も少なくない。そして、彼が呼び出された軍の施設は、高い高い壁に覆われていた。

それに比べてこの場所ときたら。
確かにここはもうずいぶん前…この街がちょうど腐り始める頃に廃病院になった場所だ。
しかし、彼が建物の屋上から他の壁や他の棟を見たとき、いくつかの窓には鉄柵が施されていた。もちろんそれが当時のままのものであろうことは、なんとなくわかるのだが…。

工具を挟んだ窓が、少し音を立ててずれ、開いていく。
もしかしたら罠かもしれないという予感もありつつ、その窓をスライドして開け、その先へ侵入した。

降り立った部屋にかつて病院であった面影がまだいくつも感じられるところが、ただの廃病院ではないことを物語る。
ここはきっと、何者かによって管理されているのだろう。しかしそれなら、ここまで易々と侵入できる造りにしてあることは、少しおかしいのだ。
それとも、侵入されても差し支えないほどに、よほど使われていない部屋なのだろうか。

…彼がそう考えを巡らせたところで、暗い部屋に微かな物音が響き渡った。
警戒したが、それはこちらに向かってくる足音でもなければ、部屋の扉が開く音でもない。
この部屋には、侵入した窓から正面に見える、おそらく廊下に繋がるであろう扉と、もう一つ…右の壁に見える、隣の部屋へと繋がるであろうスライドドアがあった。物音は、その隣の部屋からだ。
僅かだが、金属が擦れるような音が聞こえた…。
普通ならこういうとき、侵入者を始末するための刃物か何かかと懸念するところだが、感覚からして、そうではないと思えるような音だったのだ。

慎重に右のスライドドアへと歩を進めるが、取っ手のついた白いドアには、案の定、鍵がかかっている。
ドアを動かしたことが要因なのか、また微かに聞こえたその音は、今度はさっきよりはっきりと聞こえた。
…鎖の音だ。
それがあまりにも奇妙だったので、彼は少し困惑していた。監禁だろうか。こんなところに?

昔の造りになっているならピッキングでもして開けられるはずだと踏んだ彼は、持っていたそれに使う針を鍵穴に刺す。
時折周囲を確認しつつ、時間をかけてどうにかピッキングで開け、ついにそのドアを開けたとき。

暗い部屋の中、ベッドの脚に鎖で繋がれているシルエット。
歩み寄ると、それはどこかで見たことのある、少年だった…。
2/4ページ
スキ