最終章
…こうして。一つの事件が解決し、それに絡んだ混乱も徐々に終わりを迎えた。
その日、ミミドリの検査結果が届き、特に体への異状は見当たらなかった。
翌日には、事態が少し落ち着いていたためか、タロウも無事に双子のもとに顔を見せ、無事だったことが分かった。
タロウが心配していた自身の生い立ちには、やはりあの廃病院での出来事や、主にあの黒マスクをしていた"彼"が密接に関わっていたらしい。
だがそれも、建物は崩壊して彼は既に亡き人となっている今は、終わった…というよりも、タロウにとってはほとんどが"克服された"過去になっている。
あとは捜査の過程でタロウとの関係が掘り下げられさえしなければ…また今まで通りに暮らせるだろう。
あの廃病院…。主にハリーたちの所属する軍による捜査は、当然ながらスタートに時間がかかるが、一刻も早い捜査のため、大型機は使わずに踏み入るという特殊な形態が取られた。
唯一、クールから情報があった、あのハッチの下を調べるためだ…。
あの時男がクールに渡したキーリングを、今度はクールが軍へと引き渡した。そして、クールは軍より報酬を受け取ることとなった…。
…そして、捜査の結果、やはりあの地下は主に紙媒体の資料の隠し場になっていることが判明する。クールがぱっと見で予測したことは、だいたい正確だった。
あの黒マスクの男は、一体何者だったのか…。
タロウと灰児は関係がある。だが初めは彼の顔を見てもよく思い出せなかった。声は変えられていなかったので、その声で、二人は微かに昔の記憶から思い出していた。
彼は、かつてカルロスの研究所の残党である。しかし、どうやって姿をくらまして、今まで逃げ回っていたのか。
もちろん、この街が腐りに腐っていて犯人探しすらも行き届いていない現状は、こういうとき役に立ってしまうところだが、彼の場合、金を積んで根回しをして、整形まで行っていた。
よほど捕まりたくなかったのか、何か目的があったのかは不明だが、彼は逃げるための準備を怠らなかった。
あの地下も、逃げるために後から広げられたものであった。捜査により押さえられた資料の中に、関連する資料が僅かに混ざっていることが、あとから判明した。
そして、しばしうまく紛れるように別人に成りすまして生活したのちに、主に薬物に関する研究を再び進めていたというわけである。
彼等が一体何を企んでいたのか、完全に掴むことはできないが、残った資料と彼の行動から、僅かに読み取れること。
それは、彼が精神を乱してしまう薬を造り出していたこと。様々な人物を実験台にしようとしていたこと。そして、最終的にはそれで莫大な金と薬による快感を得るのが目的…と推測されることだ。
一体何にそんな薬を使うのかと言えば、計り知れないところが恐ろしいのだが、様々な用途が考えられた。
彼が捕まえていたところからするに、タロウ、灰児、そしてクールまで、自分の実験台にしようとしていた、ということなのだろう。
戦闘能力がある彼らを引き込もうとしたということは、気を狂わせて自分の手駒にでもするつもりだったのかもしれない。
しかし彼は、クールに目をつけられている状況から、どこかに情報が漏れていることも予測していたのだろう。
自分の体に大量に注入してしまおう…という狂った手に出た結果、彼はひどく体と気を狂わせて、感情のコントロールも、呼吸も、うまくできないほどになっていたのだ。
要は、あの選択は半ば自暴自棄である。薬物の研究を続けるうちに、それを入れずとも、自身の精神を狂わせていた。
そんな、この街の影で暗躍していた大悪党が、今回また一人、滅んだことになる。
だがそうは言っても、腐ったこの街と、そこに流れる時間は、大していつもと変わらない。
事件が幕を閉じたあの日から、二週間ほど経った、ある日。
ビルとビルの間から伸びる路地を曲がって、薄暗い路地の中に、クールが入っていった。
「……よぉ。」
少し奥の方、壁に背中を預けた灰児が待っていた。
「…こんなところに呼び出して何の用だ。」
「ま~そんなこと言わなくてもいいだろ。」
