十二章


――――― B棟、ホール

夕焼けの赤もそろそろ無くなるという時間。少し遠くから、何やら重低音が聞こえ始める。

倒れて動かない男にゆっくり近づくクールと灰児の二人に、男はこう言って聞かせた。
「…俺を止めたところで…どうにもならないくせに…。」
「俺はあいつの居場所はどこだって聞いてる…。それさえ吐けばいい話だ。」
「…こんな状態だしな…教えてやっても、いいけど…。」
正気に返っているのか、それともまだ狂った状態なのかは、とても判別がつかなかったが…。
それでも笑みを崩さないその顔には、近づいた二人も再び何か来ることを予期して身構えてしまった。
「…どうせヤクでも入れたんだろ…?」
灰児のため息交じりの言葉に、男は静かに返し始める。
「…あ~。そう…。感情をおかしくする薬…。トラウマとか…いろんなもの呼び起こして…悪夢を見せる薬だよ。」
…やっぱりそうかとクールは肩を落とし、タロウは二人の後ろの離れた位置から少し怯えていた。

だが、次の男の言葉で皆が緊張を取り戻すこととなった。
「…もう時間がない…。ここは、もうちょっとで崩壊するよ。」
全員が息を呑み、事態を読んだクールがすぐに聞き返す。
「…証拠隠滅か。」
「…そうだね……あと、30分くらいで…。」
それなら出るまでには少し余裕がある…そう思いかけた彼らに向けて。

重低音…ヘリの音が近づく中で、男が、隠し持っていた銃を向けた。
「…っ!」

そこで、引き金を引くよりも早く、どこからか飛んできた影が、起き上がりかけていた男の首に飛びつく。
「なっ!?」
三人は、何もすることができずにその一瞬の出来事を見ていることしかできない。
「っあぁぁ!!」
飛びついた影…少年は、男の首を掻き切っていた。
身構える三人に対して、さっと床に降りた少年は、ただ静かに、「あんたらには用はない。」とだけ言って、去ろうとする。
見ていたクールはすぐに合点がいった。あのとき助けた少年は、きっとここで今復讐を果たしに来たんだろう。
そして今それが果たされたと…。

「…もうすぐここに軍隊が来る。早く行け!」
「おい…!あいつ…。」
しかし、まだ灰児は状況が理解できていない。
「…あんたを狙ったのはクローンだったんだよ。」
「…?」
「…後で話す。」
灰児を適当になだめて、飛び去る少年を見届けた。

そのまま、すぐに男のもとへまた歩み寄って、「道連れにする気だったのか。」と声をかけた。
「…まさか…軍隊と手を組んでるとは…ねぇ…。」
僅かな力で言葉を返す男にも、もう時間がなさそうだったので…早く答えを聞いておかなければならなかったが…。
「…場所はねぇ……地下だよ……。」
3/4ページ
スキ