十二章

12...

廃病院のホールに、突如として男の狂った笑い声が響く。
あまりにも急に様子が変わったので、その場にいる三人は、皆一気に身を緊張させ、狂っている男をじっと見つめた。
「ッハハハ………ッハハハ……。」
やがて男は、静かに笑いながら、上半身を起こし始める。三人は、男が立ち上がると見ていた。
…が、そうではない。
上半身を起こしてから、ゆっくりと体勢を変えて床に手をついた男は…。

「…ぅう…っっっぁぁ!!……ぁああっ!!」

そのまま、腕もついてうずくまった体勢になり、苦しんでいるような、泣いているような、笑っているような、よくわからない叫びを上げていた…。
苦しそうに呻いたかと思うと、蚊の鳴くような叫びを上げたり、声にならないような叫びを上げたりし、小さく震える。
「…うぅっ…ッハハハ!!…ッフフフフ……ッハハハハ!!」
頭を抱えるような…腕で覆い隠すような…そんな姿になり、また笑い始める…。

一番近くにいた灰児が一歩近寄ったが、「…おい…。」と後ろからクールが静かに制止をかけた。
演技か、そうでなければ、とにかく何か危険な匂いがする。男はもはや、どう考えても演技ではない狂いようだった。この様子はただ事ではない。
そして、彼ら三人…特にクールは、この男と似たような状態に陥っている人間を、この街で何度も目にしたことがある。
クールに至っては、この男の気狂いの根源も、なんとなく予想がついていた。

そのまま、またゆっくりと、笑いながら、もうとても正常とは思えない様子で、体を起こす彼。黒マスクも外している。
「…ッハハハ…っ…ぁぁ…もうだめだ…もう…ぜぇんぶオカシくなっちまった……くっ…ッハハハハハ!」
ケタケタと笑うことを止めず…それでいて顔には涙を伝わせて濡らした状態で、立ち上がった。

彼の右手には、隠し持っていたのであろう小型のナイフが握られており、彼は笑いながら一歩踏み込んでは、その右腕を振り上げる。
「…っ!」
…目の前にいた灰児は、振り下ろされたナイフを、後ろに飛び退いて間一髪で避けた。

「…ぐぅ…。っ…。」
彼は苦しみながらもクールの方へ…今度は狂ったばかりのようなあのもたもたした動きではなく…ふらふらしながらも歯を食いしばってナイフを構える。
その一瞬の出来事に、タロウと灰児はハッとなった…。

「がぁっ…!?」

しかし、散ったのは…ナイフを持った男の方。
今度こそ…飛び込んできた彼めがけて放たれた片足、サマーソルトキックが、彼の胴から首もとへ、しっかりと当たっていたのだった。
彼が狂気に任せて暴れ出したのも確かに手強いが、クールの戦法はギリギリであるほど都合が良いことの方が多い。
引き付けられて距離が縮まった状態なら、確実にサマーソルトキックを当てることができる。

迎撃された彼は…そのまま軽く後ろへ吹っ飛ばされ、地についた足からバランスを崩して、背中から倒れた。
持っていたナイフは落とし、首もとには蹴られた傷がついている。


もう夕日の赤い光も絶えるというほど、暗くなった時間。
その暗いホールで仰向けに倒れた彼は、動けない状態になってもなお、静かに狂った表情を崩さないでいた。
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