十一章


少し震えた声でギャラリーを見上げて叫んで見せる彼だが、それはもうあまり威勢を保っていない。
「…てめぇらみてぇな腐った野郎に返す恩なんかねぇよ。」
ギャラリーから見下ろす灰児は、嘲笑混じった言葉をぶつけながら、彼に銃口を向ける。

焦った彼だったが、残念なことに、一階のホール入り口の扉からも、新たな侵入者が走ってやってくる。
…タロウだ。
「うおぉぉお!!」
「なっ!?」
ギャラリーを見上げながら隠し持っていたものを取り出そうとしていた彼は、タロウが突撃してくるのが一瞬横目に入っただけでは、すぐには避けられない。パワーのある巨体にぶつかられて、握っていたダガーとネットガンを落とす…。
「ぐぅっ…。」
勢いよく倒れた彼は、今度こそ、ぶつかられたことと倒れたことで、強い打撲の痛みにやられてしまった。

息も荒いタロウだが、彼が落としたネットガンの先を見て、捕らえられた者を助けようとタガーを拾い上げる。そのまま小走りでネットガンの先へ向かい、屈む。
「…あ、あんたは…。」
「…!」
…お互い、見覚えのあるような気がしたが、今はそんなことを気にしている暇はないという思いで、ネットを切れないかと試していた。

「…ふんっ…ふっ…!」
タロウが持ち前の力で刃を何度も入れたおかげで、やや頑丈な網も次第に崩れていき、破れた。その崩壊した部分から、タロウが更に、力いっぱい引っ張って、その網を大きく破ってしまった。
…これで中にいた人物が自由になったと思ったタロウは、ようやく、立ち上がったその人物が誰だか確信する。

「やっぱり…あんただったのか…。」
「…チッ…。」
網から解放されたクールも、網を切ったのが、かつて言い争いになったタロウだったとわかり、舌打ちをした。
ただそうは言っても…。お互い、今は争うような場面ではない。立ったままでしばし黙り込んだあと、
「…その……悪かったな。あれは、オレの…勘違いだった。」
クールの態度に怯えることなく、タロウが言葉をかけた。
対するクールは…苛立って不機嫌そうにそっぽを向き、呆れてため息をつく。だが、自分が助かっているのだからまぁいいか…という気分だった。
それに…向こうは確かに最初は疑わしかったが、自然と、助かっている今は悪くは見えなかった…。
「…もういい。話は後にしろ…。」

その間に灰児がギャラリーを降りてくる。そして、起き上がろうと必死な男の前に、歩み寄った。

「…まぁだやる気あんのか…?てめぇは俺らみてぇな戦闘狂の体じゃあねぇからなぁ。おまけに俺はあんたらのおかげで痛みも感じねぇんだ…。」
男は…背中を打った状態から、両腕、両手を、床につけて、必死に這って少し後ろへ後ずさっている。
灰児の言葉を聞いても、もうさっきのような返事はできないようだ。
「まぁ、あんたにやる気があんならやってやってもいいけどよ…。その代わり、やり合うなら、俺は手加減しねぇぜ?」
「…っ…。」

しかし…。そこから、徐々に徐々に、男はおかしくなっていった。
初めは怯えているように見えた彼が、少し俯いたかと思うと…数十秒ほどして、小さく震え出す。
「……ッフフフフ……ッフフフ……ッハハハハ……。」
彼の笑う声は、蚊の鳴くような声から次第に大きくなっていき、彼は、もう、しばらくの間、笑うのを止めない。

そこにいる三人の全員が、この男が狂い始めている、と、悟った…。

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