十章
――――― バーでは…
「…人質?嘘、あの子が?」
『あぁ…でも僕たちも助けに行くさ。ちょうどそこを調べようと思ってたんでね…。』
結蓮が奥で電話を取ってハリーとの会話をしていた…。
結蘭はというと、帰ってこないことを心配しつつ、タロウと共に出たことを知っていたので、疑念を抱いていた。
まだこの二人が会話していることも、知らない。
「あの子は友達と一緒に出てったのよ?」
『必ず助けるよ。友達ももしかしたらいるかもしれないな…。でもこのことはまだ表には出さないでくれ。あいつらが何をしでかすかわからないんだ。』
「…そんなこと言われても…!」
『あまり騒ぐと…外に残党がいないとも限らないからな。身の安全を優先してくれ。』
「…わ、わかったわ…。」
そうして受話器をおろしたとこで、
「…ね、ちょっと。」
戻った結蓮は、何も知らない結蘭を、壁を挟んだ奥の、階段へと繋がる廊下へと呼び出す。
「…何?」
「大事な話があるの。」
――――― 廃病院、B棟ホール
広く薄暗いホールの、ずいぶんと乱雑に貼り付けられた段ボールが目立つ、上の方にある窓…。段ボールの僅かな隙間からは、夕日が差し込んでいた。
照明は、ある一つを除いてどれも灯っておらず、残った一つは、切れる前であるのか、不規則な点滅を繰り返している。
ステージの上に立つ人影。
その場を移動する様子はなく、ただ何かをじっと待っているような…。
何もなく暇を感じ始めたのか…ふと、ゆっくり背後を向いて、ステージの壁に目を移して、壁の上の方に刻まれた、かつてのこの病院の紋章を眺めていた。
しかし、数分後…。
眺めたまま何をするでもなく、ぼうっとしていた彼が、我に返ってホールに向き直ろうとしたとき。
何かに驚いて、咄嗟に後ろへ飛び退く。次の瞬間…。
バツン、と音を立てて、1メートルくらい先の壁に、小さなナイフが刺さっていた。
飛び退いた男は驚いていたが、すぐにホールを見るや否や、吹き出し笑う。
「…死ぬかと思った。」
…その目線の先には、黒い翼。
男の反応に大して動じることもなく、聞き返す…。
「あいつをどこにやった…?」
